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LNJ Logo 太田昌国のコラム : ドナルド・トランプの2期目を迎えるいま、思うこと
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●第98回 2025年1月10日(毎月10日)

ドナルド・トランプの2期目を迎えるいま、思うこと

 ドナルド・トランプは米国大統領を務めた第一期(2017年1月〜2021年1月)において、「一流の」帝国主義の指導者然として振る舞った。驚くほどに身勝手で、強烈な自国中心主義を臆面もなく貫く一方、それでいて、相手を選んで、時に協調的で「柔軟な」貌も見せる。後者は朝鮮国の金正恩総書記との間で、2018年6月シンガポール、2019年2月ハノイ、同年6月板門店の3度にわたる会談(3度目は儀礼的なもので、「会談」ではないと米国側は言っている)を行なった姿勢に現われたと私は考えている。このふたりの独裁者が採ってきた内外政策の多くに私は厳しい批判を持つが、実務官僚による根回しや予備交渉を何度繰り返しても容易には埒が明かないと思われる当時の両国関係にあっては、独裁者同士の思いもよらぬ決断が一気に事態を打開するかも知れぬという希望か夢を、当時の私は確かに持たないではなかったと正直に告白する。夢とは、(2018年段階で考えて)65年間にわたって「休戦」協定の段階に留まっている朝鮮戦争の「終結」を宣言し、米朝国交樹立に通じるような「妥協」を独裁者同士が行なうこと、これである。これさえ起これば、1991年のソ連崩壊後もなお持続している東アジアにおける冷戦状況は一変する。その後の予測は不可能にしても、その新しい地域情勢の中で、(ふたりの独裁者とは別なレベルでも)相互に智慧を絞った交流・交渉が行なわれていけばよい。その過程で、きっかけをつくったふたりの独裁者の役割が次第に無化する過程が生まれるかもしれない。

 いま振り返ってみても、馬鹿馬鹿しいほどに楽観的にすぎる捉え方だ。ハノイ会談の後になってみれば、それは愚かにも、儚いものでしかなかった。仮に独裁者同士の「妥協」が成ったとしても、それまた儚く、かつ脆く、「妥協」特有の歪みを持つものであったかも知れない。だが、次の飛躍のためにはそれが必要なのだ、避けては通れぬ一段階なのだ、と私は考えていた。

 思想的には対極のあるひとも、同じことを考えていたようだ。NHKの解説委員で、アメリカ問題になると出てくる高橋祐介なる人物がいる。当時(というのは、2019年2月の、ふたりのハノイ会談直前のことだが)私が聞いていたのは、早朝のNHKのラジオ番組だった。そこで、高橋は言ったのだった(言葉通りではなく、私の記憶に基づいて、高橋の発言の大意を再現するだけだ)。「トランプさんは功を焦るあまり、金正恩さんとの思いがけない妥協に走るかも知れない。その可能性がありますね。拉致問題を抱える日本にとって、この方向は危険です。ポンペオさん(マイク・ポンペオ国務長官)やボルトンさん(ジョン・ボルトン大統領補佐官)に何とか頑張ってもらって、トランプさんの軽率な動きを未然に防ぐようにしてほしいものですね」。結果は、高橋が望んだ通りになった。ごくたまに見聞きする高橋の発言は、それこそテレビ画面に映るその顔に石を投げつけたくなるくらいに低劣なものだが、このときのラジオでの発言もこれほどまでに酷かった。当時の安倍政権と日本のマスメディアからも、同じ趣旨の発言が目立った。この連中は、米朝関係が少しでも改善し、東アジアの緊張がほぐれ、平和に向かうことを嫌っているのだ、と私は確信した。

 さて、第二次トランプ政権がまもなく発足する。発足前から、彼は第一次政権の時と同じく、帝国主義者然とした発言を連発している――カナダを米国の51番目の州にしてはどうか。パナマ運河の支配権を取り戻す。デンマーク領グリーンランドの購入を希望する。メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更する。中南米諸国からの移民こそが犯罪の温床になっているのだから、これらを本国に送還する……。

 日本で報道されただけでもこれほどあるのだから、実際にはもっと多くの覇権主義的・脅迫的言辞を、彼は(彼だからこそ)弄しているに違いない。まずは先手を打って、後は駆け引きに委ねるのかも知れない。だが、これら一連の発言のいずれもが、剥き出しの帝国主義的な物言いであることに変わりはない。

 私は、一昨年の2023年が「モンロー主義宣言から200周年」(1823年→2023年)であることを強く意識していた。そして、来年の2026年が「米国独立250周年」(1776年→2026年)であることを、いま深く意識している。来年に向けて、キリのよい数字の周年行事を、あの国の支配層は、(それに誘導されて「国民」も)大々的に祝うだろう。

 私たちにはすでに、1992年の「コロンブス大航海・地理上の発見から500年」(1492年→1992年)を、歴史把握方法の変革をなすきっかけとした経験を共有している。喧伝されてきたコロンブスの「偉業」なるものは、実は、ヨーロッパによる異世界の植民地化、いわば世界を分断する契機となったことが、世界中で深く認識されるようになったのだ。トランプの居丈高な言葉が世界を席巻するであろう今後4年間、私たちは「米国独立250周年」「モンロー主義宣言200年」に孕まれる歴史の本質を問い、その欺瞞性を暴く契機にして、トランプの煽動に対抗する歴史軸を確立すればよい。

 根っからの男性優位主義に立つ、このマッチョな独裁者は孤独だ。孤独そのものは人間にとって必要不可欠な要素だが、独裁者の「孤独」は「暴走」に転化し得る。その意味では、いままで以上に予測不能な時代に、地球全体が入るのだ。

 トランプが得意になって見せつけるであろう「帝国主義者然」とした貌と、時に垣間見せる協調的で「柔軟な」貌の双方に対して、有効に立ち向かう術を私たちは身につけたい。


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