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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕石丸伸二著『覚悟の論理 戦略的に考えれば進む道はおのずと決まる』
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毎木曜掲載・第348回(2024/6/6)

都知事選出馬「石丸伸二」の本

『覚悟の論理 戦略的に考えれば進む道はおのずと決まる』(石丸伸二 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン、1760円)評者:大西赤人

 大西の父親はとにかく論理を恃《たの》む人間――より判りやすく言えば、極めて理屈っぽい人間――だったので、子供の頃から常に理路が通っていることを求められた。小学生くらいの日常生活において何かしら爐笋蕕してしまった畛でも、単純なミスであればともかく、もしも狒芦吻瓩あって犧独鉢瓩鬚靴覆い般鸞していたような場合は、単に「ごめんなさい」などでは済まない。どういうつもりで繰り返したのか、約束は頭にあったのか、意識して約束を破ったのか、今後はどうするのか、そういうポイントを明確に自分の言葉で述べなければならない。爐修譴出来なければ本当の反省にはつながらず、また同じ事をやってしまうぞ瓩箸いΔ錣韻澄

 そういう環境で育つうちに、抽象的な行動の選択などに関しても批判されるようになと、こちらも多少は智恵がついているので、自分なりに論理を構築して、正当化を図りはじめた。すると、獗理屈を言うな!瓩伐个北を注ぐ形になることも多かったが、もう少しマシな場合は、ニヤッとして、爐修鵑瞥屈で勝てると思っているのか、それじゃあ、ちょっと頭がいい✕✕✕✕くらいにしかなれんぞ瓩噺世錣譴襪里世辰拭しかし、その✕✕✕✕とは、当時の言論界の第一線で活躍し、高い評価を受けてもいた批評家の名前なのである。父親の言葉を繙《ひもと》くならば、✕✕✕✕はたしかに頭がいい。ズバ抜けていいに違いない。けれども、彼は小理屈をこねくり出しているだけで、真正の論理には達していない瓩箸いΔ茲Δ兵饂櫃世辰燭蹐Δ。

 当時の大西から見れば、✕✕さんくらい頭が良くなれれば十分結構という気がしなくもなかったものの、今となっては、自分が✕✕さんの域にさえ達しているとは思えないし、それにもかかわらず、周囲からは「大西は理屈っぽくて面倒」と言われる有様である。ともあれ、世の中にはいわゆる頭のいい人が数多《あまた》存在するし、そこでは単純に勉強が出来るとか知識が豊富とかではなく、頭の回転の速さが重要となる。特にテレビやネットのように映像や同時性を伴う場合、幾ら有識・有能な人物であろうとも、瞬時に一定レベルの反応を提示することが出来なければ目立たない。即ち、熟慮の末の100点よりも、瞬時の80点のほうが価値がある(ように見える)。

 そういう意味で、最近、この人物は狷がいい瓠宗臭狷の回転が速い瓩販匹も悪くも強く感じさせられた存在は、元・安芸高田市長――任期満了前に市長を辞職し、7月の東京都知事選に立候補を表明した石丸伸二である。石丸は現在41歳、大手銀行職員であった2020年7月に生まれ故郷の安芸高田市長選挙に突如出馬して当選。その後、YouTubeを用いたネット配信、Twitter(X《エックス》)などのメディア戦略を打ち出し、話題となる。とりわけ、市議の「居眠り」をTwitterで指摘したことをはじめ、旧態依然とした市議会、市議との対立関係をあからさまに発信することで大いに注目を浴びた。本書の発行は5月末であり、(その中に都知事選に関する記述は一切ないが)出馬のタイミングに合わせて作られたように見えなくもない。

 大西は遅ればせながら数ヵ月前に彼の評判を知り、その議会や記者会見などでの言動を特にYouTubeやTikTokにアップされている切り取り動画――石丸支持派が編集し、文字起こしの字幕を付した動画――によって眼にする機会が生まれた。若々しく弁が立ち、滑舌が良く、明晰な理詰めで相手を追い込みながら、「えー」や「あー」と言い淀むことは皆無に等しい。そんな石丸のいかにも爽快な立ち居振る舞いに較べれば、多くが高齢、考え考え、ままつかえ、市長の反問に時にしどろもどろにさえなる議長や議員の様子はスマートさには程遠く、しかもそれが編集によって一層強調され、観る者の眼には「醜態」とさえ映ってしまう。これでは、旧弊な勢力に立ち向かうヒーローとして、石丸が特に若い世代から熱烈に後押しされることも当然である。

 たしかに石丸も、極めて「頭がいい」「頭の回転の速い」人物なのだろうと思う。また、単純な「劇場型」政治家ではなく、在任四年間において、安芸高田市の最大の課題であった危機的な財政状況を一定回復させたことも事実のようだ。しかし、彼の弁舌を見ていると、特に批判・攻撃を受けた際、非常に俊敏かつ巧みに論点をズラして反問するように感じられる。ごく戯画的に言えば、爐△覆燭郎鯑の昼食にカレーを食べましたか?瓩般笋錣譴襪函◆屬呂ぁ廖屬いい─廚任呂覆、まず爐舛腓辰搬圓辰堂爾気ぁ昼食を食べてはいけないのですか?瓩畔屬后爐修鵑併は言っていません、カレーを食べたかどうかを訊いているのです瓩般笋錣譴襪函↓爛レーでは判りません。カレーライスですか、カレーうどんですか、カレーラーメンですか?瓩畔屬后爛レーと言えば、普通はカレーライスでしょう瓩噺世錣譴襪函↓爐△覆燭魯レーうどんを否定するのですか? ちなみに、私に問うなら、まずあなたが昨日の昼食に何を食べたかを先に言うべきではないですか?瓩畔屬后そんな往復のうちに、質問者のほうが混乱して理路を見失う。それは、一時期良く言われた「ご飯論法」の変形のようでもある。

 本書を読んでいても、石丸が「強い力を敵に回してまで信念を貫く」という「覚悟」を持ち、「何かを成し遂げようとするときの実践手法」として提示する戦略・作戦・戦術はある程度判る。しかしながら、「政治家の役割とは、現在だけでなく未来のために最良の選択をし続けること」と記しながらも、安芸高田市という存在を残すという目的以上に、彼の求める大きな理想――社会のあり方は何なのか、石丸の思い描く「未来」のビジョンは必ずしも見当たらず、不満が残る。

 孔子や孟子、孫子などの言葉も引きつつ、石丸は「私がこうした思考法を学んだのは大体まんがからです」と明言し、各章のエピグラフにも、『鬼滅の刃』や『キングダム』の言葉を掲げている。そして中でも、「まち」の被害を最小限に抑える「ダメージコントロール」を『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ)からを学んだとして、以下のように述べている。

「潜水艦が攻撃を受けた場合、船体を区切る細かな隔壁を閉鎖し、ダメージをできる限り抑えて艦の機能を維持します。極端な話、その壁の向こうに人が残っていたとしても隔壁を閉じなければならない場合もあります。浸水する範囲を限定し、全体が沈没してしまうのを防ぐためです。

 このとき、感情だけでは隔壁は閉められません。そこに大事な部下がいるかもしれない。ひょっとしたら浸水する側の空間に取り残されるのは自分かもしれないのです」

 これを読んで、大変驚いた。潜水艦に限らず、軍艦が魚雷攻撃などを受けて浸水した場合、あえて(反対側の)タンクに注水し、応急的に船体のバランスを取ろうと試みる。『大和』が特攻出撃した際、タンクへの注水では足りず、まさに多くの兵員が奮闘していた機関室やボイラー室に注水するに至った歴史は良く知られている。しかし、それは戦時のどうしようもなく追い詰められた状況下の話だったわけだが、その論理を市政に援用するのであれば、極めると、「まち」を守るためには感情をなくし、人命をも切り捨てるということになってしまいかねまい。

 都知事選の結果にかかわらず、石丸の今後は注視したいと思う。


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