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〔週刊 本の発見〕『中村哲という希望―日本国憲法を実行した男』 | ||||||
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「撃たない」勇気『中村哲という希望―日本国憲法を実行した男』(佐高信・高世仁 著、旬報社、2023年12月刊、1600円)評者:佐々木有美
2001年9・11同時多発テロが起こり、それに対して米英のアフガニスタンへの無差別攻撃がはじまった。中村はアフガニスタンへの自衛隊派遣について、国会で二回の参考人発言をしている。一回目は、2001年、二回目は2008年だったが、派遣は「有害無益」「百害あって一利なし」と断言している。現地では、「戦争をしない」日本に対する信頼は、絶大なものがあり、日本が報復に参加することでそれが失われてしまうと。彼はのちにこう語っている「僕は憲法九条なんて、特に意識したことはなかった。でもね、向こうに行って、九条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感はありますよ。体で感じた想いですよ」。アフガニスタンに行き、現地で活動してこそ得られた実感が中村の九条への思いを育てた。
本書の白眉は、アフガニスタンのダラエ・ヌール診療所事件である。1993年ライフルを携行した患者を、職員が殴るという事件が起きた。その後患者は仲間を連れて診療所を包囲、弾丸が放たれ二名の職員が銃弾で殉職した。件の職員は、こちらも配下を集めて敵に立ち向かうと言い出した。このとき中村医師は発砲厳禁、人も手もだすなと立ちはだかった。<不安に駆られた彼がそれじゃ、皆殺しにされてもか、と不服を述べたが、私は「そうだ、皆殺しになってもだ!」と強く言った。・・・「鉄砲で脅す奴は卑怯者だ。それに脅えて鉄砲を撃つものは臆病者だ。君らの臆病で、迷惑をするのは明日の診療を待っている患者だ」>。殺気だった空気はおさまり、1時間後には何もなかったようにおさまったという。中村の、信頼こそが安全保障だという思想は、こうした現実に裏打ちされている。戦争、軍事力、暴力がものをいう世界を変えるのは、「撃たない」勇気だ。 アフガニスタンで大干ばつと格闘した中村は、資本のグローバル化に警鐘を鳴らし続けた。「生産と消費を無限に膨張させねば延命できぬ世界は、一つの行き詰まりに到達している」。2000年ごろから始まったアフガニスタンの干ばつは、地球温暖化によるもの。それは資本のグローバル化、新自由主義が招いたものだ。アフガニスタンの干ばつから20年、世界中がいま、異常気象と戦争に巻き込まれている。<人間にとって本当に必要なものは、そう多くはない。少なくとも私は「カネさえあればなんでもできて幸せになる」という迷信、「武力さえあれば身が守られる」という妄信から自由である。何が真実で何が不要なのか、何が人として最低限共有できるものなのか、目を凝らして見つめ、健全な感性と自然との関係を回復することである>。中村のことばをいま、かみしめたい。 Created by staff01. Last modified on 2024-03-27 23:21:31 Copyright: Default |