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LNJ Logo 報告 : 4.27 新出版社「地平社」が創業記念シンポジウム
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●新出版社「地平社」が創業記念シンポジウム

「新たな知の広場」めざす〜「メディア・地域・市民」をテーマに議論

竪場勝司(ライター)

 今年1月に神田・神保町に誕生した新しい出版社「地平社」の創業記念シンポジウムが4月27日、神保町の日本出版クラブビルで開かれ、「メディア・地域・市民」をテーマに議論が交わされた。地平社は4月、意欲的なラインナップの新刊6冊を刊行しており、シンポ会場のホールは参加者で埋め尽くされ、新出版社に期待する熱気に包まれた。

 地平社は代表で、元岩波書店『世界』編集長の熊谷伸一郎さんが中心となり、「新たな知の広場」となることを目指して設立された。社名は、「生きとし生けるものと同じ地平に立ち、〔地〕球と〔平〕和について考えながら、言葉を編んでいく」とのコンセプトを反映したものだ。

6月には月刊誌『地平』を創刊、思想をつくる言論の場に

 シンポでは最初に、熊谷さん(写真)が挨拶し、新刊の6冊について「本当に私が出版活動を通じてやりたいと思っていたこと、正にそれができた、という6冊だ。たくさん出版社があって、良い本が日々出ている中で、なぜ私たちが自分の出版社を立ち上げたいと思ったかといえば、こういう本を今、出版したいと思っていたからだ。この時代が提起している様々なテーマについて、真正面から受け止めて、どう考えればいいのか、どう議論していけばいいのか、ということを誠実に訴えかけていく」と語った。熊谷さんは新しい月刊誌『地平』を6月5日に創刊する予定であることを紹介し、「あらゆる社会をよくしていこうとする取り組み、主張の拠点になるのは雑誌だと思っている。雑誌と人々、識者がつながり合い、一つの言論の拠点となり、一つのフォーラムをつくって、社会の思想をつくっていく。この思想は、良くも悪くも必ず社会を動かしていく。私はそれを良い方向に向けて、みなさんと共にやっていきたいと思い、その挑戦を始める。みなさんには新しく生まれてくる言論の場を、ぜひ応援していただきたい」と力を込めた。

 続いて、内田聖子さん(NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表)、岸本聡子さん(東京都杉並区長)、南彰さん(琉球新報編集委員、元朝日新聞記者)の順で3人が登壇し、それぞれ基調報告を行なった。

何のためのデジタル化なのか

 「デジタル・デモクラシー」のテーマで報告した内田さんは、地平社から刊行された自著についてふれ、「本の中で一番伝えたかったことは、デジタル化は何のために、誰のために、何を最終目標としてなされているのか、という大きな問題提起だ。マイナ保険証一つとっても、日本の政府がやっているデジタル政策は、ポンコツ政策としか言いようがない。一方、GAFAなど米国の大企業による市場の寡占と支配の構造が、この20年でものすごく進んだ。そのことに対して、私たちは何をやっていけるのかという議論が、日本の中で圧倒的に弱い。市民社会が提言できる活動スペースが限られている。国家は大企業と結びついて、私たち市民を管理、監視するという方向に簡単に行ってしまう。今の不公正で、略奪的で、差別や貧困を再生産してしまうようなビジネスモデルから、いかに公正で、倫理的なルール、技術を、市民社会の声を反映しながら作れるのか。それが最大の目的だ。海外に目を向けると、いろいろな国で草の根の運動が頑張っていて、力関係を変えていこうとする運動は常にある。日本のマスメディアでは、こうした草の根の運動があること自体、伝えられない」などと問題点を指摘した。

「生活は政治」を体感できた選挙戦

 岸本さん(写真)は「地域から/地域を変えていくために」のテーマで報告した。23年の統一地方選・杉並区議選の際に行なわれた、党派を超えて多くの女性候補が並んだ市民による共同街宣のスライドを紹介し、「票を競うのではなくて、みんなが投票に行って、みんなで勝っていく選挙。それには会派や政党は関係ないよね、ということで、協力と連帯の選挙戦を展開した。とにかく選挙は面白いよ、生活は政治、政治は生活ということを体感できる選挙戦を、地域でつくっていくことができた」と振り返った。「杉並では30代女性の投票率が8ポイントアップした。これはすごいことだ。なぜかというと、30代、40代の女性にとって、自分と似たような苦しさを持っている人や、地域社会でいろいろな活動をしている人たちが、自分たちが投票する対象として現れてくる。それを有権者として面白いと思えたのだろう」とも述べた。さらに「区長になって2回目の予算を提出することができた。行政機関は変えるのに時間がかかるが、きちんと枠組みが決まったり、考え方が決まると、すごい力を持っている。予算を決めて、執行することができることの、地方政治のすごさを実感している。公共財の維持、運営、創造について、地方自治体は大きな責任を負っている」と語った。

ネットワーク型のメディア連携を模索

 「地域からメディアも変わる」のテーマで報告した南さんは、地平社から出した本について、「デジタル社会が進展する中で、新聞はメディアとしての主導権を失いつつある。そうした中で、新聞はどうあるべきかを書いたと同時に、権力に過剰同調する、そうした社会の在り方自体がどうなのか、ということを含めて問いかけている本だ。モリカケ問題など『国益』ばかりを優先するあまり、事実を捻じ曲げてでも自分たちの権力を維持していこうとする動きがあった。こういう動きに対して、事実を大切にする人の陣地を広げていくことを本の一つの柱に置いている」と言及した。南さんは、全国紙のビジネスモデルが崩れ、新聞の地方支局が無くなってきていることを、四国の例を挙げて説明した。また、ネットメディアのスローニュースが報じた、沖縄の自民党の国会議員が受けていた公共事業者からの献金に関する調査報道について、スローニュースと連携して資料提供を受け、独自取材を加えて琉球新報が紙面化したことを紹介。琉球新報が、ネットワーク型のメディア連携を模索していることを説明した。

 シンポの後半は、熊谷さんが司会を務める形で、3人の登壇者が鼎談した。鼎談では、東京をはじめとした首都圏では、地域ニュースがきちんとウオッチされていないという「首都圏のニュース砂漠」の問題や、「インターネットがジャーナリズムの器たり得るのか」、今国会に提出されている地方自治法改正案(国の地方自治体に対する指示権を強化する内容)、などについて、議論が交わされた。

 4月に刊行された6冊のラインナップは以下の通り。『デジタル・デモクラシー』(内田聖子)▽『絶望からの新聞論』(南彰)▽『ルポ 低賃金』(東海林智)▽『NHKは誰のものか』(長井暁)▽『経済安保が社会を壊す』(島薗進、井原聰、海渡雄一、坂本雅子、天笠啓祐)▽『世界史の中の戦後思想』(三宅芳夫)                              


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