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LNJ Logo 緊急寄稿(海渡雄一) : 経済安保版秘密保護法案 ここが問題だ!
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海渡 雄一(2024.2.29)

1 そもそも、経済安保法の適用範囲が明確でない。

 2022年5月「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(「経済安全保障法」)が成立した。
 経済安全保障法は、(1)特定重要物資の安定的な供給(サプライチェーン)の強化、(2)外部からの攻撃に備えた基幹インフラ役務の重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、(3)先端的な重要技術の研究開発の官民協力、(4)特許出願の非公開の4本柱で構成されている。

 しかし、経済安全保障法の最大の特徴は、法の根幹に関わる「経済安全保障」そのものに定義がないこと、多くの重要概念が政令と省令と政府の決める「基本方針」に委ねられ、規制される内容が法律だけを見ても分からないことである。政省令等への委任箇所は約130箇所を数え、法の適用過程について予測可能性が保障されていない。

2 国会に提出された法案は、こんな中身。

 経済安保版秘密保護法(「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」)が国会に提案された。
 2月27日、政府は「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」を閣議決定し国会に提出した。
 この法案は以下のような内容のものである。

経済安保に関連した広範な情報(重要経済安保情報と呼ぶ)を政府が収集し、これを秘密に指定することができるようにすること(法案3条)。
このような秘密を漏洩したものと取得した第三者を、重要度の高い情報については、特定秘密保護法と同等の最高刑拘禁10年の刑に、相対的に重要度の高くない情報については、最高刑5年の刑に処すこと(法案3条と法案22条以下を合わせ読む)。
重要経済安保情報を取り扱う業務は、適性評価により、重要経済安保情報を漏洩する恐れのないと認められたものに制限すること(法案11条)。
行政機関の長は、重要経済安保情報を取り扱う民間の企業の従業員ら、大学・研究機関の研究者らに対しても、内閣総理大臣による調査の結果に基づき、漏洩の恐れがないことについての評価(適性評価=セキュリティ・クリアランス)を、特定秘密保護法のもとで主として公務員に対して実施されていた適性評価と統一的なシステムを構築して実施すること(法案12条))。

3 法案は特定秘密保護法の改正の形をとっていないが、実質的には特定秘密保護法を経済分野の情報に大拡大する法案だ

 法案は特定秘密保護法の改正を銘記していないが、漏洩によって安全保障に「著しい支障」がある重要経済安保情報を特定秘密の指定できることを示し(法案3条)、この場合の漏洩などには特定秘密保護法による拘禁10年の刑が適用され、他方で、安全保障に「支障」がある重要経済安保情報には拘禁5年の刑を定めている(法案22条)。これは特定秘密保護法の実質的な改正・拡大に当たることは明らかだ。

(政府作成資料)

4 経済安全保障法そのものに経済安全保障の定義規定を欠いているため、重要経済安保情報の範囲が法改正や運用などによって恣意的に拡大されていく可能性がある。

 政府は民間企業の保有する情報を直接秘密指定するわけではなく、恣意的に拡大されることはないと説明しているが、経済安全保障に基づいて、特定重要物質のサプライチェーンに関する情報、15分野の基幹インフラ企業のITシステム、AI、量子技術、宇宙開発などの先端技術分野の情報が国に集められたうえで秘密指定される仕組みとなっている。あらかじめ民間の情報を国に吸い上げる仕組みが経済安保法によって定められているのである。

 さらに、特定秘密のレベルに達しないとされた重要経済安保情報については、両院の情報監視審査会の監督、国会への報告制度も適用されないこととされているなかで、その漏洩・第三者による取得が拘禁10年/5年の厳罰が科されることとなる。情報の管理に関する監督措置が特定秘密保護法における「特定秘密」の場合に比しても脆弱となっている。政府の行動の秘密化が進行し、ジャーナリストと市民の表現活動への萎縮が懸念される。

(政府作成資料)

5 数十万人の民間技術者・大学研究者が内閣総理大臣のもとに置かれる新たな情報機関によって厳しい適性評価=身元調査の対象とされる

 適性評価は、各行政機関が実施するが、評価のための調査においては、ほぼ一元的に内閣総理大臣が実施する仕組みとされた。適性評価の対象とされる数十万人にも及ぶとされる官民の技術者・研究者について、内閣総理大臣のもとに設けられた機関が、重要経済基盤毀損活動との関係で、評価対象者の家族、同居人の氏名、生年月日、 国籍、住所、犯罪及び懲戒の経歴に関する事項、情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項、薬物の濫用及び影響に関する事項、精神疾患に関する事項、飲酒についての節度に関する事項、信用状態その他の経済的な状況に関する事項について調査を行うこととされている (12条)。

 この仕組みによれば、内閣総理大臣のもとに設けられる新たな情報機関に適性評価対象者の膨大な個人情報が蓄積されることとなる。また、適性評価については、本人の同意を得て実施するとされているが、同意しなければ、その者は当該研究開発の最前線から外されるのであり、同意しない自由はないに等しい。このような制度は、監視社会化を引き起こし表現の自由に対する委縮効果をもたらす可能性がある。

 この法案により、内閣総理大臣のもとに設けられる新たな情報機関に適性評価対象者の膨大な個人情報が蓄積されることとなる。このような情報の集積と秘密化を可能とする仕組みは、デジタル監視法によってすべての情報を内閣総理大臣のもとに一元化した仕組みを前提としている。数十万人の身元調査ができる仕組みは、恣意的に運用されれば、全国民が調査可能であるというシステムが構築されたことを意味している。これは中央情報機関(JCIA)の設置の準備作業ともみられ、その活動そのものが、日本社会を監視社会化し、表現の自由に対する委縮効果をもたらす可能性がある。

(政府作成資料)

6 重大な秘密保護法制の拡大、新たなプライバシー侵害の危機に対応する、政府から独立した監督措置はない。

 日弁連は、この法案の立案のもととなった「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議における議論」と「最終とりまとめ」(2024年1月17日)に基づいて、2024年1月18日付けで「経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する意見書」を取りまとめ、すでに公表している。

 この意見書は結論として、次のように述べている。
「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という。)に則し、^稻“詭の指定禁止・公共利害にかかわる情報を公表した市民とジャーナリストが刑事責任を問われない保障・E正な秘密が指定されているかどうかを政府から独立して監督できる制度・と詭指定された情報が期間の経過によって公開される制度などが欠けており、国民の知る権利及びプライバシー権が侵害されないための制度的な保障がなされていない。

 提案された法案を見ると、このような指摘に対応した部分は皆無である。むしろ、特定秘密レベルではない重要経済安保情報については、国会への監視制度や両院の情報監視審査会による監督さえもなくしてしまった。コンプライアンスなき秘密国家を到来させてしまう危険性が大きいのである。

 3月6日には秘密保護法廃止へ実行委員会の、27日には日弁連の院内集会が予定されています。ぜひ、みなさんご参加ください。

*写真=海渡雄一氏(2024年1月26日「経済安保版秘密保護法の制定を許さない」シンポジウム)。全動画はこちら


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