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2023年9月からの新連載「フランス発・グローバルニュース」では、パリの月刊国際評論紙「ル・モンド・ディプロマティーク」の記事をもとに、ジャーナリストの土田修さんが執筆します。毎月20日掲載予定です。同誌はヨーロッパ・アフリカ問題など日本で触れることが少ない重要な情報を発信しています。お楽しみに。今回はイスラエルによる虐殺の歴史を振り返ります。(レイバーネット編集部)

●フランス発・グローバルニュースNO.5(2024.1.20)

メディアの思考停止と「反ユダヤ主義」

土田修(ル・モンド・ディプロマティーク日本語版前代表、ジャーナリスト、元東京新聞記者)

 国際社会の非難にもかかわらず、イスラエルによるガザ地区住民の虐殺が相変わらず続いているが、南アフリカ政府は昨年末、ジェノサイド条約に違反しているとして、イスラエルをオランダ・ハーグにある国際司法裁判所(CIJ)に提訴した。日刊紙ル・モンド(1月2日付)によると、南アフリカ政府はジェノサイド(集団殺戮)を防止し、ガザのパレスチナ人を破壊から守ることが「南アフリカの権利であり義務である」としてイスラエルに軍事行動の停止を命ずるよう求めている。これに対し、イスラエル政府は「いわれなき中傷であり、CIJの濫用である」と非難しているが、国際社会の多くは南アフリカを礼賛している。

 例えば、トルコ政府は「イスラエルによるパレスチナ民間人の殺害は処罰されなければならない」とコメントし、マレーシア政府は「イスラエルの残虐行為への法的責任を追及する第一歩」と支持を表明した。また、ボリビア政府は「南アフリカがパレスチナ人民の防衛に対し歴史的な一歩を踏み出した」と南アフリカの提訴を褒めたたている。

 昨年10月以降、イスラエル軍の侵攻でガザ地区の住民の犠牲者は女性や子供を中心に2万4620人(1月19日アルジャジーラ)を数えている。イスラエルによるパレスチナ人に対する民族浄化は、ナチスによるユダヤ人に対するホロコーストをはるかに上回る勢いで意図的・計画的に実行されているが、これまで国連を含めた国際社会にはイスラエルの残虐行為を止める手立てがなかった。

 だが、今回の南アフリカの提訴によって、イスラム社会だけでなく、アフリカ、中東、中南米、東南アジアなどいわゆる「グローバルサウス」の国々を中心にパレスチナへの連帯が勢いづいている。その結果、イスラエル、そしてイスラエルに武器を供与し続け、ジェノサイドを容認しているアメリカ、それを無条件で支持しているイギリスのグローバルな孤立も目立ち始めている。ドイツ同様、ユダヤ人のホロコーストに責任のあるフランスは「反ユダヤ主義(Antisémitisme)」という謗りを恐れ、われを忘れてしまったかのように「対テロ戦争」を国内に適用し、パレスチナ支援のデモや集会の開催を禁止した。だが、南アフリカの提訴には反対はしていない。では日本はどうか?

 実は、日本はジェノサイド条約に加盟していない世界でも数少ない国だ。当然、国際的にジェノサイドを容認している国とみなされる。アメリカに追随するだけの隷属国・日本は南アフリカの提訴にわれ関せずとばかりに沈黙を守っている。日本メディアも「思考停止」状態にあると言っていい。元々、権力のプロパガンダ・フィルター(ノーム・チョムスキーの言葉)である記者クラブ制度を金科玉条とする日本のマスメディア・ジャーナリズム(反ジャーナリズム)が政府の意向に反した報道をすることはごくまれだ。

 余談だが、能登地震で一番心配なのは外部電源の一部が喪失した志賀原発の現状だが、なぜかNHKも民放も原発の状況を一切報道しなくなった。1999年に起きた臨界事故を2007年まで8年間も隠し通した北陸電力と原子力規制委員会の「安全性に問題はない」という説明も信用することはできない(臨界事故隠しのお陰で志賀原発が稼働していなかったのは不幸中の幸いだったが)。だが、ジャーナリズムのかけらも存在しない森喜朗ベッタリの地元紙はもちろん、志賀原発の真実に迫ろうとするメディアは今のところ見当たらない。

 奥能登の珠洲市も輪島市も過疎に苦しんでいた。馳知事派の県会議員が能登に入って被災者に対し、闇雲に「2次避難」を呼びかけているが、奥能登から住民を一掃し、大規模再開発を狙っているのではないかとの疑問が生じる。輪島の千枚田など「能登の里山里海」が国連食糧農業機関(FAO)の「世界農業遺産」に認定されているが、輪島のキリコ祭りや富来のくじり祭りなど奇祭も多い奥能登に、将来的に一大テーマパークやカジノをつくり、世界から観光客を集めるというネオリベ的構想を抱く政治家が「森王国」の石川県にいたとしても不思議ではない。能登空港はその玄関口になるのだろう。

 ナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』(岩波書店)で、衝撃的出来事を巧妙に利用する政策を「惨事便乗型資本主義」と呼んだが、日本の施政者にとって大災害は大きなチャンスとなる。その影で被災地の住民は「棄民」として切り捨てられる。今回の地震で自衛隊の投入が熊本地震に比べて格段に遅く、人数も少なかったのもうなづける。イスラエルがガザ地区で「戦争」を開始し、パレスチナ人を殺すか追い出そうとしているのは、天然ガス海底油田の開発でいまやエネルギー輸出国となったイスラエルが、ガザ沖海底油田の利権を独占し、パイプラインの出入り口としてガザ地区を「更地」にするためではないか。これも「惨事便乗型資本主義」の典型例といえる。

■ウクライナ報道の地殻変動とジャーナリストの犖諺朖

 思考停止状態にあるのは、ウクライナ報道も同じだ。ウクライナの勝利とロシアの敗北を願って、アメリカのネオコン研究所の情報をひたすらテレビ番組で拡散し続けてきた防衛研究所と東大の御用学者たちが、ようやく最近、ウクライナの反転攻勢の失敗と東部戦線での劣勢を苦虫を噛み潰したような表情で口にし始めている。反対意見を許さないメディア報道の劣悪さは日本だけのことではない。ル・モンド・ディプロマティーク紙は昨年10月号で、セルジュ・アリミ記者とピエール・ランべール記者の共著記事「盤石のメディア、ウクライナ報道で生じたひび」(日本語版12月号、クレモン桂翻訳)を掲載し、ようやく訪れたウクライナ報道の変化に言及している。

 記事によると、「ロシアによる侵攻開始から1年半以上が経過したにもかかわらず、『ウクライナに勝利を』という横並びの論調が目立ち、大局的な俯瞰には至っていない」とされたフランス・メディアがウクライナ情勢の悪化によって、盤石だったはずの報道体制に地殻変動が起きているという。ル・モンド、フィガロ、リベラシオンの3紙は、実戦から距離をとりながらウクライナ戦争を戦い抜くことを決意し、徹底抗戦を主張していた。「プーチンに屈すれば西側諸国にとって戦略上の壊滅的敗北になる」(フィガロ、2023年8月10日付)、「戦争の長期化を避けるにはウクライナに対する軍事支援を強化することだ」(ル・モンド、同18日付)、「これは欧州にとって核心的な戦争であり、対するのは武力と抑圧に物を言わせる、権威主義的かつ反民主主義的な政権だ」(リベラシオン、同14日付)。

 週刊誌やテレビ放送も例外ではなかった。週刊誌レクスプレスは「降伏の誘惑に屈してはならない」(2023年8月24日)と訴え、テレビ局LCIとの合同特集号の表紙で「持ちこたえよ!」と命じていた。ところが、同じ時期に、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「西側諸国がロシア経済を打破できないことに加え、ウクライナに対して殺傷能力の高い武器が次々に供与され、経済支援が行われたにもかかわらず戦場で失敗している」(同8月2日付)と認めた。国際通貨基金(IMF)は、米政府がマイナス50%と予測していたロシアの2023年の成長率予測をプラス1.5%に引き上げた。

 ようやく、フランス・メディアも米メディアの連日の報道に歩調を合わせ、ウクライナの反転攻勢の失敗、ウクライナ側の損失の規模、西側支援の縮小、軍事的展望の後退を認めざるを得なくなった。徹底抗戦派のジャーナリストたちは「われわれの価値観のために戦うウクライナ人」という幻想を振りまいてきた。都市郊外に住む移民2世、3世の若者たちを「ロシアの侵略者」、すなわち「悪魔」になぞらえる言説も目についた。「この二つの実存に関わる課題は、密接に絡み合っている。どちらの場合も欧州が対峙しているのは、われわれの文明を憎み、優位に立つためならあらゆる原則を踏みにじることも辞さない新たな野蛮人だからだ」(フィガロ、2023年7月7日付)。

 現在のフランス・メディアの言説に見られる「悪魔」払いの思想は、ウクライナ戦争の情勢悪化とパレスチナ紛争を受けて「反ユダヤ主義」に移行しつつある。2023年10月、フランス北部アラスで起きたイスラム教徒による教師殺害事件を契機に、内務大臣ダルマナンは「対テロ戦争」を国内に適用し、パレスチナを支援し、イスラエルを非難するデモや集会を禁止した。その理由は「反ユダヤ主義」を煽る行為だからだという。

 急進左派政党「不服従のフランス(LFI)」のジャン=リュック・メランションはイスラエルによる戦争犯罪を「現代のゲルニカ」にたとえたが、イスラム組織ハマスを「テロリスト」と呼ばないという理由で、保守派や現政権、さらにはフランス共産党など左翼陣営からも「テロリスト擁護」「反ユダヤ主義」と非難されるに至っている。1月6日付ル・モンド紙は「Antisémitisme: la lente dérive de Mélenchon (反ユダヤ主義:メランションの緩やかな逸脱)」という見出しで、メランションを口汚く批判する長大な記事を掲載した。

 いわく、メランションは、ユダヤ人を「金貸し」という月並みな反ユダヤ主義のイメージで見ている。いわく、ホロコーストを生き延びた父親を持つ前首相エリザベット・ボルヌを「よそ者」扱いして批判した、などなどだ。「ヨーロッパに幽霊が出る——反ユダヤ主義という幽霊である」。政治やメディアを含めた欧州市民が「反ユダヤ主義」の幽霊に憑依され続ける限り、パレスチナ問題が解決の道筋に至る可能性は極めて低いのではないか。次回の記事では、『ユダヤ人の起源——歴史はどのように創作されたのか』(筑摩書房)を書き、ユダヤ人社会に大きな波紋を投げかけたユダヤ人歴史家シュロモー・サンドの「シオニズムと共産主義運動」(2024年1月付ル・モンド・ディプロマティーク日本語版)を紹介することで、「反ユダヤ主義」の幽霊からの脱却を模索したい。

*「ル・モンド・ディプロマティーク」は1954年にパリで創刊された月刊国際評論紙。欧米だけでなく、アフリカ、アラビア、中南米など世界各地の問題に関して地政学的・歴史的分析に基づく論説記事やルポルタージュを掲載。現在、23言語に翻訳され、34カ国で国際版が出版されている。日本語版(jp.mondediplo.com)は月500円から購読可能。


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