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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『東電役員に13兆円の支払いを命ず!〜東電株主代表訴訟判決』
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News Item hon282
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毎木曜掲載・第282回(2023/1/5)

日本反原発運動史上最大の勝利をご覧あれ!

『東電役員に13兆円の支払いを命ず!〜東電株主代表訴訟判決』(河合弘之・海渡雄一・木村結・編、旬報社、1,700円+税、2022年10月)評者:黒鉄好

 2023年初の「週刊 本の発見」は新年にふさわしく、元気の出る1冊から始めたい。2022年7月、東電元経営者4人に13兆3210億円という天文学的金額の弁償命令が出された東電株主代表訴訟の本である。

 1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに、ミニ政党「原発いらない人びと」が結成され、1989年参院選では比例区に候補者を立てる。東京電力の株主運動がそこから続く息の長いものであることは本書を読むまで知らなかった。「日本の原発はチェルノブイリと違い危険な黒鉛は使っていない。絶対安全なので一緒にしないでほしい」とテレビで言い放つ御用学者たちの堕落、無反省ぶりを見て、次の大事故は日本かもしれないと危惧を抱いたのが高校生の頃だった。その小さな危惧は、四半世紀の時を経て現実となった。

 第5章「福島原発事故をめぐる東京電力物語」は、株主側代理人を務めた弁護士による対談形式となっており異彩を放っている。物語というタイトルだけ見ると小説のように感じられるが、この裁判で認められた事実を中心に、福島第1原発建設から事故に至るまでを歴史として描き出し、事故に立体感を与えている。

 この裁判を完全勝利に導いた決定打は3裁判官による現地進行協議である。朝倉佳秀裁判長らは、日本の裁判官として初めて福島第1原発の構内を視察。津波による浸水の恐れがある箇所の扉が防水構造になっていなかったことなどを直接見て確認している。

 第4章、第6章〜第8章で詳述された膨大で多岐にわたる争点の中でも避けて通れないのは、国の地震本部が2002年に公表した三陸沖地震に関する「長期評価」である。朝倉裁判長は、地震学者の議論を経てこの長期評価がとりまとめられる際、事務局として気象庁から地震本部に出向した浜田信生氏などの重要人物を出廷、証言させている。同じように旧経営陣の責任が争われている刑事訴訟でも、検察官役の指定弁護士が浜田氏の証人申請をしたが認められなかった。刑事訴訟はこの18日に控訴審判決(東京高裁)を迎えるが、その内容次第では、朝倉裁判長の訴訟指揮の的確さが再び浮き彫りになる可能性がある。

 日本を代表する大企業の多くが本社を置き、良くも悪くも一極集中の象徴である東京では、企業統治は一大関心事だ。だからこそ東京地裁には商事部がある。今回の判決が東京地裁商事部の威信をかけたものであり、13兆円の弁償に仮執行(判決確定前の取り立て)の許可が付されたのも商事部の自信の表れであると、本書は暗にほのめかす。何かあれば巨額の弁償・賠償が待つと思うと気になって夜も眠れない――経営者にそう思わせることができたとき、初めて企業統治に生命力が与えられるのである。

「40年に及ぶ弁護士人生のなかで、・・この日にあの法廷で胸にあふれた感動は最も印象深い」(本書P.52)と海渡雄一弁護士は述べる。儲けにならず、光も当たらず、負け戦が当たり前の人権派弁護士として半生を送ってきた人物にそう言わしめた珠玉の判決の全貌に本書でぜひ触れてほしい。福島県民に相談もなく決まった「原発フル活用」政策の全面転換めざして闘うすべての人びとにとって「栄養価」の高い本である。
(※評者による東電株主代表訴訟判決の報告記事は、http://www.labornetjp.org/news/2022/0713hokoku

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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