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投稿 : 中国政府の決定は当然/汚染水海洋放出に思う
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投稿者:吉原 真次

中国政府の決定は当然/汚染水海洋放出に思う

8月24日、東京電力(東電)福島第一原子力発電所のALPS処理水(汚染水)の海洋投棄(放出)が行われた。これを受け中国政府は日本産水産物の全面輸入禁止を発表したが、これは国民の健康と生命に責任を負う政府として当然の決定で、逆の立場に立たされたら日本政府も同様の事をすると私は思う。

日本政府が安全とする処理水は溶け落ちた核燃料と原子炉内のコンクリート、金属等が結合した燃料デブリに触れた汚染水をALPS(高核種除去装置)で処理した物だが、汚染水にはセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106をはじめとする様々な放射性物質が基準を超えて含まれ、原子炉の核燃料と触れていない原発の二次冷却水とは全く別物だ。また処理水にはトリチウム水外の核種が含まれていることを東電は発表しており、富岡町の廃炉資料館に展示されている。処理水が汚染水なのは明らかで中国だけでなく海外のマスコミも表現は様々だが汚染水という言葉を使っている。また東電が詳細な放射性物質の測定を行っているのは全体の3%弱、3つのタンク群にすぎず、残りは投棄の際に測定するので今後どれくらいのトリチウムとそれ以外の核種が海洋放棄されるかは分かっていない。そして東電は柏崎刈羽原発に見られるように様々な情報の隠ぺいを行ってきた企業だ。もう一つ2018年8月に1度だけ福島と東京で開かれた公聴会で意見を述べた44人の内の42人が明確に海洋投棄に反対している。

トリチウムは微量のベータ線を含む放射性物質で、生体に取り込まれた場合は内部被曝の危険性があり安全性は疑問視されている。また投棄は30年にわたり続けられ、その間の食物連鎖で生体濃縮が行われていく。食物連鎖の頂点にいる人間に取り込まれたトリチウムの量は最高となり、近くの細胞に影響を与え、DNAを構成する水素と置き換わった場合には被曝の影響が強くなる。

その上、汚染水には様々な各種が含まれておりトリチウム以上の健康被害を世界中で引き起こす恐れがある。特に原子炉内でしか生成されないセシウムが生体濃縮によりマグロ等の大型の魚から検知され、その魚を食べた人に被害が出た場合は日本政府に反論の余地はない。

日本政府はIAEA(国際原子力機関)の報告書を安全性の「錦の御旗」とするが、IAEAは原子力の活用推進と核物質の管理をする機関で公正中立な第三者機関ではない。そして報告書は放出設備の性能やタンク内の放射性物質の環境影響等を評価した物、調査に使われた資料も問題だらけの東電が作成した物にすぎない。また政府がIAEAに対してALPS汚染水の海洋投棄に関する国際基準の適用審査を要請したのは海洋投棄を決定した後で、投棄を正当化する過程の詳細に関する評価は報告書には含まれていない。この様に問題の多い報告書を信用することはできない。

中国政府は原発事故後に福島など10都府県からの食糧輸入を禁止し、今年7月からは放射性物質の検査を厳格化して日本産の鮮魚等の輸入を実質的に止めた。今回の中国政府の決定をその延長線上にあることを考えれば「想定以上」と判断すること自体が間違っている。

最後に中国政府に続き香港政府も10都県の水産物の輸入禁止を開始した。2022年の中国への水産物の輸出額は871億円で全体の約2割を占める最大の輸出先、逆に考えれば中国にとっても痛手となる。国民の食生活を犠牲にすることを承知で全面輸入禁止に踏み切った中国政府の決定を甘く見てはいけない。
(9月22日)

Created by staff01. Last modified on 2023-09-25 11:32:10 Copyright: Default

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