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投稿 : フランスの抗議行動に思う
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投稿者:吉原真次

フランスの抗議行動に思う

 6月の射殺事件、その後のフランス各地での抗議行動と暴動から1ヵ月以上経った今、新聞記事を中心に情報を集めて雑感を書いてみた。

 6月27日、パリ郊外の町ナンテールで起きた17歳の北アフリカ系フランス人が交通検問中に警察官に射殺された事件をきっかけにフランス全土で抗議行動が起き、その一部は暴徒化、フランス各地の自治体は暴動防止の為に夜間の公共交通機関の運航を制限、集会を禁止した。マクロン大統領は6月29日朝に緊急閣僚会議を開き、7月2日に予定していたドイツ公式訪問を延期、内務省は翌日から約45,000人の警官を動員して暴徒を鎮圧した。

 抗議行動のきっかけは警察発表の嘘が暴かれたこと、そして暴動へ発展した理由の一つとして発砲した警察官が殺人の容疑で取り調べをうけているにもかかわらず、警察官の約半数を代表する労働組合が抗議行動の参加者を「害虫」と呼ぶ声明を出したこと。これは2005年の1ヵ月にわたる暴動が後の大統領、当時は内務大臣だったサルコジが「社会のクズ」と発言したことで起こったのと酷似している。

 今回の抗議行動の原因は2005年と同様に移民出身のフランス人への貧困と差別が原因だ。フランスの移民政策の歴史は古いが、第二次大戦後のフランスは戦後復興と後の高度経済成長の為に終戦直後から周辺国や周辺国や植民地、独立後は旧植民地の国々と二国間協定を結んで移民労働者を受け入れ、それは1974年に一時停止されるまで続く。これは、日本の戦後復興と高度経済成長を担ったのが当時は「金の卵」と呼ばれた農村出身の中卒労働者だったのと大きな違いだ。

 余談となるが、6年前の退職を期に移住した新潟県のある地域では1970年代前半まで中学を卒業した生徒の約三分の一が当時は盛んだった織物産業や東京等の工場で働き、退職のアルバイト先やハローワークの研修では仕事をしながら夜間高校で勉強した方のお話を聞くことができた。

「金の卵」達は教育や資格を取りより良い仕事先に就くことができたが、フランスは移民労働者の社会的地位を引き上げ、フランス社会に包摂する取り組みをあまり行わなかった。これはフランスが独立前のフランス領アルジェリアでアルジェリア人に兵役を課す一方で選挙権を与えなかったのと同じで、2019年のフランスの放送局「フランス24」の調査ではナンテール住民の約29%が貧困ラインを下回る生活を余儀なくされている。そして昨今の新自由主義政策によりその格差は拡大する一方だ。

 格差は差別を助長する。サッカーファンの方は2008年のワールドカップドイツ大会の決勝戦でフランス代表のジダンが相手側の選手の差別発言に怒って頭突きをしたのを覚えておられると思うが、日本とは比較にならないほどサッカー選手の社会的地位が高いヨーロッパでも、いざとなれば移民出身者は差別から逃れることはできない。もう少し詳しい方はジダンが代表選前の国歌斉唱をしなかったことも御存知だろうが、ジダンだけではなくイタリア系のプラティニ、セネガル出身のヴィエラ、ニューカレドニア出身のカランブーも行わなかった。それぞれの思いは違うがこれは移民出身の選手のワールドカップ、さらにフランス社会に対する異議申し立てを意味している。

 移民への配慮と社会的包摂がない移民政策は重大な社会的問題を引き起こす。日本の経済的地位の低下による就学生の減少を解消する為、岸田首相は今年4月より永住権と家族の帯同を認める特定技能2号の条件を緩和した。また同月発表の「日本の将来推計人口」は2070年の日本の総人口を累計8700万人とし、その内役10%を外国人が占めるとしている。ヒト、モノ、カネが国境を越えて移動する国際において今回のフランスにおける抗議行動を他人事と捉えることはできない。

 そして移民を使い捨てにする国は自国民さえも犠牲にする。署名は忘れてしまったが、無数の死者を出したアジア・太平洋戦争における泰緬鉄道建設に使役された連合軍捕虜が前線から後送されてくる満足な手当てもされない傷病兵を見て、自国民にひどい国が捕虜を人間扱いにしないのは当然だと思ったと著書に書いているのを思い出した。(8月16日)


Created by staff01. Last modified on 2023-08-16 11:29:17 Copyright: Default

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