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セーフティ・ネットの放棄/「五類」引き下げについて
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投稿者:吉原 真次

セーフティ・ネットの放棄

 1月27日、政府は新形コロナウィルス感染症対策本部で新形コロナウィルスの感染詳報での分類を5月8日から結核と同じ「二類」から季節性インフルエンザと同じ「五類」に引き下げることを決めた。

 この決定により感染症法に基づく入院勧告、患者や濃厚接触者の外出規制はなくなり、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の適用からも外れ、政府と地方自治体の対策本部は廃止されて緊急事態宣言や蔓延防止対策重点措置も出せなくなる。患者の急な負担増を抑えるための医療費の公費負担は期限を切って続け、ワクチン接種は引き続き自己負担なく受けられよう検討するが、これは三年間続いた新型コロナウィルス対策の失政続きの挙げ句のセーフティ・ネットの放棄だ。

 一年間を通じて感染者が出ている新型コロナウィルスを季節性インフルエンザと同類に見なすことはできない。1月に1ヵ月の死者数が初めて一万人を超えるなど感染者、数死者数は依然として増える一方だし軽症の感染者にも治癒後に脳や神経の障害、全身のだるさや関節痛、筋肉痛、脱毛と言った深刻な後遺症も見られ、しかも原因が未だにはっきりしていない現状を踏まえれば「二類」に止めるのが正しい。

 この様な状態で「五類」に引き下げられたらどうなるか想像するだけでぞっとする。診察が発熱外来から全医療機関に変更された結果、院内感染を恐れた医療機関に断られる事例が続発し、保健所の入院調整がなくなり、病院間の入院調整に時間がかかってその間に症状が悪化して在宅死する患者が今より確実に増える。それどころか病床確保の補助金が徐々に削減されて入院すらできなくなる。さらに感染力が強いにもかかわらず感染者の把握が定点観測となって感染の実態が把握できなくなる。重症化しにくいとされる新種の新型コロナウィルスでも1カ月の死者数が過去最大となった事を政府はどう考えているのだろうか。しかもワクチン接種が何回繰り返されているのにもかかわらずこの状態なのだ。これでワクチン接種が有料化されれば生活苦にあえぎ接種代が払えない人たちは感染と重症化そして死に直面せざるを得なくなる。

 民主主義国家というなら政府は国民の生命と財産を守る為に最悪の事態を考慮してあらゆる手段を採るべきである。寡聞だが欧米諸国は細やかな新形コロナウィルス対策を採ってきた。日本では病院・高齢者施設での面会が厳重に制限されたが、ドイツでは事前に検査し陰性照明を出して医療用マスクを着用すれば見舞いができるようにしている。空気感染に効果がある後期のマスクの着用義務化や換気の徹底により感染を抑え込んだ国がある。しかし日本が採ったのは緊急事態制限や人流抑制のみ、その結果2021年以降、感染者・死者数が大幅に増えている。今回の決定は昨年12月時点で人口当たりの感染者数や死亡者数が世界でトップクラスになった反省を踏まえたものではない。

 政府はコロナ禍にもかかわらず2021年5月に病床削減推進法を成立させ2021年度分で2770床の病床を削減した。コロナ禍により人々の暮らしが苦しくなり、今や6人の子供の内1人が「子ども食堂」の世話になり、職があってもNPO(非営利団体)の炊き出しに行かざるを得ない人が増えているにもかかわらず生活保護の見直しに着手することも、問題点はあったがドイツやイギリスの様に付加価値税(消費税)の一時的な引き下げも韓国の様な新形コロナウィルス対策の為の防衛費削減も行わなかった。

 これまでの政府の新型コロナウィルス対策に共通する点は責任回避だ。今回の決定でマスク着用も個人の判断とされたが、これは自粛を要請としたのと同じ。世界保健機関(WTO)が換気の悪い場所や混雑した場所でのマスク着用を推奨し、韓国が医療機関や公共交通機関での着用を義務づけているのを知らないのだろうか。                            (2月11日)


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