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【解説】10月30日、全米自動車労組はGMとの暫定合意に達した。これで自働車大手三社ビッグスリーの全てと暫定合意に達し、9月15日から始まった、ストライキは終結した。4年半の間の25%の賃上げなど画期的な内容を勝ち取った。その中には二層賃金の廃止、臨時労働者の即時の本工化、工場閉鎖に対抗してストする権利などが含まれる。全組合員の一票投票によって会長に選出されてからわずか半年で、ショーン・フェイン会長はUAWを闘う組合へと改革し、独創的なストライキ戦術によって歴史的な勝利を勝ち取った。レイバーノーツ誌は合意発表の翌日に下の記事を掲載している。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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UAWストライキに屈したビッグスリー各社

2023年10月30日 ダン・ディマジョ (レイバーノーツ誌副編集長)

*UAWストライキ初日のフェイン会長

アメリカの自動車ビッグスリーは数日でドミノのように倒れた。

全米自動車労組(UAW)はビッグスリーの各自動車メーカーすべてと暫定協約を締結した。新しい労働協約は、数十年にわたる譲歩からの180度転換した内容になっている。

各社が交渉の課題としないとしてきた問題に関しても、暫定協約は多くの人が想像していた以上に踏み込んだ内容となっている。ステランティス(元のクライスラー社)は、休止中のベルビデア組立工場の再開に合意した。GMとステランティスは、基本協約に新しいバッテリー工場労働者を含めることに合意した。

この暫定協約ではビッグスリーが賃下げを推進するために設けていた多くの二層賃金を廃止する。その結果、賃金が2倍以上になる労働者もいる。しかし、年金などの給付での格差はまだ残っている。 この勝利は新指導部の下でのUAWの大胆かつ積極的な戦略の証しである。UAWはストライキを段階的に拡大し、最初はゆっくりと、そして企業が1社ずつ屈服するまで拡大して行った。このスト拡大戦術は労働者の力を発揮する素晴らしい戦術だった。

10月30日、UAWは最後の抵抗勢力であったGM(ゼネラル・モーターズ)社と暫定合意に達したと発表した。GMのテネシー州スプリングヒル・キャデラック工場の労働者は、28日の夜にストライキに参加していた。

UAWは10月28日、フォードとステランティスとの暫定合意を発表した。この合意は、UAW組合員が両社の最も収益性の高いトラック工場でストを行なった後に発表されたもので、同組合の6週間にわたるストライキの最新の拡大であった。

自動車ビッグスリー各社のUAW組合員14万6,000人は、今後数週間のうちに協約の批准投票をする予定である。その間に、5万人のストライキ参加者は職場に戻る。

フォードの暫定合意内容

10月29日の夜、UAWのショーン・フェイン会長とチャック・ブラウニング副会長はフェースブックのライブに出演し、フォード協約の詳細を組合員に説明した。(詳細は、uaw.org/ford2023から入手できる)。

フェイン会長はこの暫定合意による一年分の成果は2019年の協約全体で勝ち取ったものよりよりも大きい、と述べた。

協約では、4年半にわたる25%の賃上げが行われ、最初の年に11%引き上げられる。また、主要な目標であった賃金の生計費調整が復活する。これを合わせると、2028年の協約終了時までにライン労働者の最高賃金は現在の32.05ドルから42.60ドルに、熟練技能労働者の時給は50ドルを超えることになる。初任給は18.05ドルから28ドルに引き上げられる。

さらに、多くの労働者はもっと大きな賃上げを目にすることになる。最高賃金にまで昇給するのに現在は8年掛かっているが、今後は3年に短縮される。現在、最高賃金になっていない組合員は、即座に20%から46%の昇給を受けることになる。

デトロイト地域の2工場、スターリング・アクスルとローソンビル・コンポーネンツの労働者は、フォードの他のUAW組合員と同じ賃金体系になる。この2工場の労働者は2007年から、初任給16.25ドルで最高給が22.50ドルの二層賃金の対象であった。二層賃金廃止の結果、53%から88%の昇給を即座に得ることになる。

勤続90日以上の臨時労働者は直ちに正規工に転換される。将来の臨時雇用者は9カ月後に正規工となり、その9カ月は在職年数に算入される。過去20年間、ビッグスリーは臨時労働者を低賃金で何年も働かせてきた。最終的に正規工に転換されても、最高賃金を得るにはさらに8年待たなければならなかったが、(暫定協約により2年3か月に短縮された。)

二層賃金を完全になくすには、2007年以降に採用された二層賃金労働者にも、一層賃金労働者と同様に年金と退職者医療保険を与える必要がある。フォードは、長期的に大きな負担になるとして、この二つの要求を受入なかった。

その代わり、フォードは各労働者の給与の10%を確定拠出年金401(k)に積み立てる予定で、これは現在の6.4%から大幅に引き上げられる。また、年金調整率(2007年以前に雇用され、年金を受給している労働者対象)の2003年以来の引き上げも勝ち取った。 フォードの臨時労働者は2024年から利益配当の小切手を受け取れるようになるが、これは初めてのことだ。

また、休暇取得の選択権が拡大した。毎年恒例のモデル切り替えのための操業停止期間中、労働者に取らせる休暇は1週間に限定されることになる。

フェイン会長とブラウニング副会長は妥結提案書の初めに、「要求していたすべてを勝ち取ったわけではないが、多くの人が可能だと考えていた以上のものを勝ち取った」と述べている。

ステランティスとGMも陥落

UAWとステランティスは10月28日に合意に達した。詳細については11月2日に発表される予定だが、合意内容はフォードとの合意を反映したものとなっているようだ。

大きな争点のひとつは、ステランティスが今年初めに休止させ、1,200人の労働者に他工場への配転を余儀なくさせたイリノイ州ベルビデア組立工場の状況だった。

UAWによると、新しい協約によってベルビデア工場を再開し、同社は中型トラックを生産するために2シフトの雇用を約束する。また、ステランティスは同地の新バッテリー工場で1,000人の雇用を増やす予定だ。UAWのリッチ・ボイヤー副会長は、「新協約のもとで、ベルビデアの組合員は全国に散らばっていたが、地元に戻る権利を持つことになる」と述べた。

フェイン会長とボイヤー副会長によると、ステランティスは協約期限終了までにさらに5,000人の雇用を増やす予定で、交渉前には数千人規模の人員削減を脅していたことを考えると、大転換である。UAWは、製品の決定や投資、さらに工場閉鎖に対してストライキを打つ権利を獲得した。「つまり、これらの計画について会社が約束を反故にした場合、組合はストライキを起こすことができるのです」とフェイン会長は言う。

新協約では、ステランティスのモパー部品部門の二層賃金が撤廃され、そこの労働者は他のステランティス労働者と同じ賃金水準になる。

ビッグスリーの中で最後に屈服したGMでは、UAWが二層賃金に対してまたもや大勝利を収めた。GMは、アフターマーケット部品デポ(CCA)、部品工場(GMCH)、ミシガン州ブラウンスタウン・バッテリー工場の労働者を、すべてライン労働者と同じ賃金水準に引き上げることに合意した。

GM子会社の労働者は現在、条件の悪い別協約の下で働いているが、今後はGM基本協約の下で働くことになる。GMは近年、いくつかの工場で倉庫や資材運搬の仕事を賃金の低い子会社に移してきていた。組合は電気自動車への移行を利用してさらに多くの種類の仕事を子会社に移すことを懸念していた。今回の合意は、この底辺への競争に終止符を打つものである。

GM協約の詳細は11月3日にUAWから発表される。

2028年5月1日

提案されている新協約はすべて2028年4月30日までの期限である。これまでのビッグスリーとの協約は4年期限が普通で、それよりも半年長い。

他の労働組合がUAWと協約期限を2028年4月30日に合わせて、2028年5月1日の国際労働者デーに一緒にストライキを打とう、とフェイン会長は呼び掛ける。「億万長者階級に真に立ち向かい、経済を少数ではなく多数の利益のために機能させるために再構築するつもりなら、ストライキを行うだけでなく、同時にストライキを行うことが重要だ」と語る。

フェイン会長は、4年半後のUAWの協約キャンペーンの一環として、労働時間や週労働日の短縮を求める闘いが行われる可能性を示唆した。今回の交渉で組合が公にした要求のひとつは、賃下げなしの週32時間労働を実現することだった。自動車労働者は週60時間(1日10時間労働×6回)など、強制的な時間外労働を強いられていることに不満を抱いている。

「メーデーは、1日8時間労働を勝ち取ろうとするアメリカの労働者の激しい闘いから生まれた。この闘いは、1889年当時と同じように、今日も必要なものだ」と、フェイン会長は語る。同氏によると、協約期間半年延長のもうひとつの理由は、UAWが多くの未組織の自動車メーカーの組織化を計画しているからだと言う、テスラ、トヨタ、フォルクスワーゲン、メルセデス、BMW、ホンダ、日産などだ。「2028年に交渉のテーブルに戻るときは、ビッグスリーだけでなく、ビッグ5やビッグ6との交渉になるだろう」と言う。

レイバー・ノーツはその翌日、アラバマ州のトヨタ労働者から、経営陣が緊急会議を招集したというメッセージを受け取った。トヨタは明らかに恐怖に駆られており、最高賃金を32ドルに引き上げ、そこに到達するまでの期間を8年から4年に短縮する、とのことである。

EV組織化

フォードでは、組合は合弁企業を含むすべての電気自動車工場を基本協約の下に置くと いう約束を求めていた。フォードから引き出したのは、労働者の過半数が組合承認カードに署名すれば、現在建設中のテネシー電気自動車センターとミシガン州マーシャル・バッテリー工場の2工場で組合を承認するという約束だった(組合はこれを「カード・チェック」と呼んでいる)。過半数のカードを集めることはUAWにとっては簡単なはずである。

フォードはテネシー州とケンタッキー州にも3つのバッテリー工場を計画しており、韓国のSKオン社と共同で所有し、2025年に生産を開始する予定だ。そこでは、組合はこれまでどおり組合認証投票の方法で組織化しなければならないようだ。

GMとステランティスでは、電気自動車についての合意内容はフォードよりも大きかった。それぞれ、合弁バッテリー工場の労働者を基本協約に含めることで合意した。「何年も前から、電気自動車への移行はこの国の自動車雇用にとって死刑宣告だと言われてきた」とフェインは言う。「この協定によって、それが間違っていることを証明することになる」。

伝統を破る

汚職スキャンダルで直近のUAW会長2人が刑務所に収監された後、今年の3月にフェイン会長がUAW初の組合員1人1票選挙で選出された。その勝利により、80年にわたるUAWの管理コーカスによる一党支配に終止符が打たれた。

フェイン会長は「汚職なし、譲歩なし、階層なし」をスローガンとするメンバーズ・ユナイテッドの一員として会長選挙に立候補した。現職のレイ・カリーをわずか500票差で破り、ビッグスリーとの協約が切れる半年前に会長に就任した。

フェインは会長として、ついにUAWを再び攻勢に転じさせた。「何十年もの間、私たちは片手を後ろに回して闘ってきた。実を言うと、両手を縛られているように感じることもあった」。とステランティスとの合意発表の際に語った。フェイン会長はインディアナ州ココモで電気技師としてキャリアをスタートさせたステランティス出身者だ。

UAWの新たな方向性を象徴するように、フェイン会長は会社役員との伝統的な握手により交渉を開始することを拒否した。その代わりに、フェイン会長と他のUAW新指導者は、開かれた協約キャンペーンを開始するに当たり、工場の入り口で組合員との握手を行い、それが新たな伝統となることを期待している。

フェイン会長はまた、ビッグスリーの中から有力企業を1社選んで最初に交渉し、協約を勝ち取ってパターンを決めるというUAWの長期戦略パターンバーゲニングも放棄した。その代わりに、組合は三社すべてと同時に交渉し、ストライキを行った。

フェイン会長は、暫定合意に達するまでは情報を公開しないというUAWの前例を破り、フェイスブックライブを通じて交渉の最新情報を公開放送した。その透明性と大胆さは組合員を魅了し、フェインのビデオはフェイスブックで定期的に4万人から5万人のライブ視聴者を獲得、他のプラットフォームではそれ以上の視聴者を獲得した。

また、40%の賃上げ、週32時間労働制、ビッグスリーの全UAW組合員に対する年金と退職者医療保険の回復を要求して、組合員の期待を高めることを躊躇しなかった。

組合員の高い期待に見合うだけの成果が得られたかどうかは、組合員が判断することになる。しかし、UAWは6カ月前とは大きく異なる場所にいる。攻勢に転じ、闘いを労働者階級全体のための闘いと位置づけ、ここ何年も行ってこなかったような力の誇示を実現している。


Created by staff01. Last modified on 2023-11-05 14:10:52 Copyright: Default

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