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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『22世紀の民主主義ー選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』
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毎木曜掲載・第271回(2022/10/6)

選挙は完全に時代遅れなのか?

『22世紀の民主主義〜選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(成田悠輔 著、SBクリエイティブ、990円)評者:大西赤人

 インターネットやバーチャル・リアリティが世界的に拡がる現代では、以前に用いられていた「実業=農業・商業・工業・水産業など、生産・販売に関わる事業(大辞林)」と「虚業=投機相場などのように、堅実でない事業。『実業』に対していう(同前)」との対比――後者の相対的軽視――も実態にそぐわなくなり、産業全体の「虚業化」が進んでいるようにも感じられる。数百万人、中には数千万人の爛侫ロワー瓩鮖つインフルエンサーが現われ、瞬時に桁違いの爆発的発信力を発揮する(もちろん、間違えば大炎上にもつながるのだが)。既成企業が、彼らの力を利用しようとする場合もある。小学生の「なりたい職業ランキング」では、男女ともユーチューバー(You Tuber)が上位に位置するという。

 大西は、インターネットやSNS(ソーシャルメディア・ネットワーク)、You Tubeなどに触れる機会は非常に多いけれども、それらを通じて多く発言する人々――たとえばホリエモン(堀江貴文)とかひろゆき(西村博之)とかガーシー(東谷義和)とか――については、滅多にアクセスすることはない。その中で、最近しばしば見かける成田悠輔には、以前から少し興味を持っていた。東京大学経済学部を首席卒業、イェール大学助教という彼が、弟の成田修造(起業家)の14歳時に与えた読むべき様々な「読書リスト」36冊中に、大西巨人の――それも『神聖喜劇』ではなく――『精神の氷点』が上げられていたからである。https://www.youtube.com/watch?v=rFvjzDucYxg&t=6s

 成田の著作は初めて読んだが、その専門は著者略歴に「データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン」と記されている。本書において彼は、選挙によって猝碓姚瓩鮟弧鵑垢詭閏膽腟舛箸いΕ轡好謄爐凌執錣粉躓,鮖愿Δ垢襦成田は冒頭から「今の日本の政治や社会は、若者の政治参加や選挙に行くといった生ぬるい行動で変わるような、そんな甘っちょろい状況にない」と断言し、「政治にも、政治家にも、選挙にも、私はまるで興味が持てない。どうでもいい……そう感じてしまう」「この本のテーマについて私は素人」としながらも、「選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか考える」と記し、システムの改善策を具体的に探って行く。

 多数の人々の意志を選挙=投票によって集約し、少数意見に配慮しながらも基本的には多数決によって物事を進める民主主義は、一定以上――相対的に多くの人々が健全・妥当な判断を下し得るという前提がなければ成功しない。インターネットやSNSなどの加速度的な発展により、過激な、あるいは煽情的な見解でも容易に拡散され、それに多数が引きずられる傾向が生まれる。インターネットの勃興時には、それまで力に乏しかった一市民であっても、このツールを武器に世界に向けての発信が可能となるという期待も見られた。実際にそういう実例もあったとはいえ、大きな流れとしては、誹謗、中傷、ヘイト、デマ、フェイク・ニュースなど、マイナスの要素が拡大していることは確実だろう。そこで、民主主義に対する昔ながらの否定的言説として、「衆愚政治」「哲人(独裁)政治」の対比が登場する。

 もちろん大西も民主主義の弱点については日頃からしばしば感じるところなのだが、それでも民主主義を信頼する一つの基盤として、場違いな話ながら、ギャンブルがある。たとえば競馬を考えよう。馬券を買う者は誰しも、どの馬が勝つかを予想する。そして、中には出目(出走馬の枠番号のみに注目する)や占いや陰謀説など非論理的な部分に頼る人間も居るものの、多くのファンの場合は、馬の実績やローテーションや過去のタイムや騎手の技倆など、ひとまず合理的・科学的条件に基づき検討を重ねる。さて、こうして不特定多数の総意――言わば猝碓姚瓠宗修箸靴毒老売り上げの人気(オッズ)が定まるわけだが、そうすると、毎年必ず一番人気馬の勝率が一番高いのである。そして、同じく必ず二番人気馬の勝率が二番目であり、三番人気馬が三番目になる(遥か下位の人気に関しては、そもそも勝率が極めて低いので、時たま逆転が生じる)。もちろん、一番人気に支持された対象が必ず勝つはずもなく、加えてギャンブルには配当という要素があるので、ファンは、一番人気馬が勝つ確率が高いと知りながらも他の馬を買うことにもなる。しかし、勝ち馬を見出すという至上の目的に関して、当たり外れはあるとしても猝碓姚瓩料択結果が常に最も正解に近いという現象は、民主主義の妥当性を如実に体現してはいないだろうか?

 成田は、民主主義における猝碓姚瓩僚弧鷦蠱覆箸靴徳挙は完全に時代遅れであると述べ、投票という積極的な意思表示に政治家が頼るのではなく、全国民の無意識をあらゆるチャンネルを使って常に網羅的に汲み上げ、そのデータをアルゴリズムによって処理し、方針を決めて行こうと提唱する。

 「民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール装置である」

 無意識データの収集手段(過剰な管理社会化の回避)、アルゴリズムの作成方法、アルゴリズムの改修責任の所在など課題点は容易に思い浮かぶし、成田も「未解決」「模索」などの留保を再三付しているのだが、暴れ馬となった資本主義に対する手綱となるべき民主主義の再生という意図は判る。ただし、彼の言う「無意識データ主義」が成立した場合、データの基盤となる人々は、少なくとも現在の投票行動に向かう人々よりも確実に無意識即ち無自覚になると思われ、たとえアルゴリズムを経由したところで、その無自覚な総意が猝碓姚瓩箸靴得気靴ち択に結びつき得るのかについては、大きな疑いを感じる。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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