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毎木曜掲載・第247回(2022/3/17)

日本国憲法こそ反戦平和の砦

『憲法は、政府に対する命令である。』(増補版、C.ダグラス・ラミス、平凡社ライブラリー、2013年8月刊、1000円)評者:志真秀弘

 ウクライナ戦争をきっかけに国内で軍備増強の主張が広がっている。岸田首相は、3月13日の自民党大会で、憲法9条への自衛隊明記、緊急事態条項の創設を含む「改憲4項目」を緊急課題だとして、「今こそ党是である改憲を」と訴えた。

 1946年11月に交付され翌年5月3日に施行された日本国憲法は、75年経って最も大きな改悪の危機を迎えたと言って過言ではない。7月実施とされる参院選で改憲派の議席を減らす、それがいま私たちの緊急最大の課題となった。どうするか。あらゆる場所で憲法をめぐる討論を巻き起こしたい。消極的改憲論に立つ人とも話し合い、一人でも改憲反対の人を増やす。本書はその討論のために書かれたと言ってもいいかもしれない。

 本書の初版は2006年8月の発行、2013年8月に加筆・修正のうえ、書き下しの「付論 自民党憲法改正草案は、国民に対する命令である。」(約60ページ、文庫版本書全体240ページの約4分の1)を加えて、増補版として再刊された。本書の題名「憲法は、政府に対する命令である。」は、内容を適切に表現している。大日本帝国憲法(1890)は〈明治天皇の臣下(日本国民)に対する命令書〉であった。それに対して現行憲法の主語は主権在民の〈民〉であって〈朕〉(天皇)ではない。*写真右=著者

 つまり現行憲法は政府(天皇を含む)に対して私たち〈民〉が発する命令書である。この事実・上下関係を本書のタイトルは端的に示している。この二つの憲法の主語の違いは、私たち〈民〉にとってなにを意味していて、それはどれほど大きいものか。それを強調する著者ラミスの意図ははっきりしている。彼の思想の根幹には、〈国・国家あるいは政府〉と住民である〈人民・市民〉とをつねに厳しく区別すべきだとする捉え方がある。

 明治憲法から現行憲法への転換について、改憲派の決まり文句に占領軍「押しつけ」説がある。「現在の日本国憲法の制定が可能だったのは、歴史のなかで、あの第二次世界大戦直後のわずか数ヶ月間だった」と、憲法制定の歴史的経緯のきわめて微妙な特徴・時期を著者は指摘する。だが「押しつけ」たのは、もちろん占領軍総司令部(GHQ)であり、「押しつけ」られたのは、旧大日本帝国であり、旧大日本帝国天皇ヒロヒトであり、旧大日本帝国政府であって、けして日本人民ではない。むしろ人民はこの憲法の内容を歓迎し、その押しつけに加担した。「もし、憲法案の作成があと半年遅かったら、今のような憲法にはなっていないはずだ」とラミスは付け加えている。

 この経緯を〈あるくラジオ〉「93歳のわたしと憲法」(2月23日放送)でゲストの笠啓一さんは具体的に語っている。「こんなひどい戦争がなぜ起きたのか」。日本だけでなくアジアでも数えきれない犠牲者を出した。二度と戦争してはダメだ。みんなの身体に、平和憲法は空気のように染み込んだ。笠さんはラミスのいう「わずか数ヶ月」の日本の状況をそういきいきと伝えてくれた。

 廃墟の中に生まれた自由と解放感、その稀有な自由空間での津々浦々の青年たちの活動を笠啓一は語ったが、その希望に満ちた行動は再現可能だとかれは強調していた。改憲を狙う政府に対し、わたしたちは75年の間、政府に憲法を「押し付け」る仕事をずっとやってきた。ロシア軍の侵攻がウクライナに広げた戦火を目の当たりにする今こそ、日本でわたしたちはこの平和憲法を拠り所に反戦の声をあげるときだ。それはわたしたちの使命でもある。

 著者ラミスは安保条約と憲法9条との矛盾を、何よりも沖縄から考える。さらに憲法に入り込んでいる天皇主義、人権条項とくに思想・言論・表現の自由について、平等のさまざまな意味、政治活動とその主体となる市民について、国家と宗教つまり政教分離の問題、さらに憲法を改正するとはどういうことかなど、ひとつひとつを行動の手引きとして論じている。ぜひこの本を手に取って読み、活動のマニュアルとして使ってほしい。

 なお著者のC.ダグラス・ラミスは1936年、サンフランシスコ生まれ。今は沖縄に住み、3月19日、沖縄市民会館で発足集会が開かれる「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」の呼びかけ人・共同代表の一人。 

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。<


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