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LNJ Logo 参院選に向けて〜「戦後日本の対米従属と官僚支配〜「特別会計」体制」を読む
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森健一さんのこの本は、厚さこそ160ページだが、およそこの100年に起きたあらゆる出来事が記載されており、政府に都合のいいことしか書かれていない「検定教科書」などよりよほどためになる知識が詰まっている。800ページにも及ぶ大作として送り出された「戦後史のなかの国鉄闘争」も併せ、改めて森さんの博覧強記ぶりに驚かされる。

本当はもっときちんと読み込んでから書評を書くべきなのだろう。だが、「本書は、2022(令和4)年7月10日に投開票される第26回参議院選挙に向けて書かれている」(はじめに)と森さん自身が記述しているとおり、参院選前に書評をしなければ意味がないので、エッセンスだけでもご紹介し、参院選に向けて私たちがどのように行動すべきかをまとめてみたい。

森さんは、本書の中で、戦後、官僚の「隠し財布」「隠し財源」といわれてきた国の「特別会計」制度からあらゆる形で利権が流し込まれた結果、有権者の25%が自民党の岩盤支持層に育ってきたという仮説を立て、それを検証するため、膨大な「戦後史の証言」を集めている。

特別会計制度については、小泉政権当時の塩川正十郎財務相の「母屋でおかゆ、離れですき焼き」という発言が比較的知られる。母屋(一般会計)では金がなくておかゆをすすっているのに、離れ(特別会計)ではすき焼きを食べているとして、官僚の隠し財布となっている特別会計制度の問題を指摘し、話題になった。

特別会計とは、国の特定の事業について、収支を可視化するため一般会計とは別に区分される予算のことだ。特徴的なのは、一般会計を財務省が所管するのに対し、特別会計はその事業を担当する省庁の所管となることである。例えば、社会資本整備特別会計は国土交通省所管。様々な原発関係交付金の原資になっているエネルギー対策特別会計のように、経産省、文科省、環境省の3省庁にまたがるものもある。これは、エネルギー対策特別会計予算の中でも商業目的のもの(電力会社など)は経産省、研究開発目的のもの(日本原子力研究開発機構=旧動燃など)は文科省、廃棄物処理や環境対策は環境省と、縦割り行政になっているからである。事業を担当する省庁が直接所管するため、財務省が口出しできず、聖域としてばらまき的無駄遣いがたびたび問題とされてきた。

一般会計予算は、形骸化が指摘されているが、一応は国会(予算委員会)で審議の対象となる。国会で審議されるのは、予算書の中の「項」の区分までであり、「目」以下は各省庁が財務省と協議して振り分けている。また、国会議員の中で予算書を本当の意味で読みこなせている人がどれだけいるかは心許ない。それでも国会で審議され、テレビ中継されること自体に意味があるし、細かい区分など知らなくても、国会では予算の規模や使い道、事業の妥当性などを質すことができる。ところが、特別会計に関してはほとんど闇の中で、審議らしい審議はされていない。

こうした特別会計は、最盛期には30を超えていたが、最近は整理が進んで十数会計にまで減った。民主党政権当時に大きな話題になった道路特定財源も、当時は道路整備特別会計という国交省官僚の隠し財布だったが、一般財源化された。毎年2兆円近くあった道路財源も、今では1兆円程度にまで減っている。

だが、本書を紐解くと、「特別会計の数も予算額も減り、国の予算は透明化した」などという御用経済学者の説明が全くの嘘であることがわかる。実際は、国の機関の独立行政法人化、政府系金融機関への資金運用委託など、特別会計の「民営化」が進んだ結果、膨大な国の資金の運用は昔以上に不透明になり、見えなくさせられている。国会でろくな審議が行われなくても、特別会計として国家予算の体裁を取っていれば、予算の専門家である会計検査院の検査が定期的に入るが、政府系金融機関などの民間企業は、出資金の半分以上が政府からのものでない限り、会計検査院も定期検査はできないのである(会計検査院法第22条5号)。このような、国会の目も会計検査院の目も届かないところから、公共事業や補助金を通じて政府資金が不透明な形で流れ、有権者の25%に及ぶ自民党の岩盤支持層が形作られているというのが本書のポイントである。

本書に登場する1つ1つの証言は、それだけでは「森説」を裏付ける根拠としては若干、弱いようにも見える。しかし、1つ1つは「弱い証拠」にすぎなくても、これだけたくさん集まると重みを持って迫ってくる。これだけ多くの証言が集まるということは、人の一生に相当する戦後80年という長い時代の中で、それだけ多くの人が同じように感じていることを意味するからである。

この本を手にした人は1つの疑問を抱くであろう。「自民党が支配維持のため岩盤支持層を築く必要性は理解するとしても、それがたったの4分の1で達成可能なのか?」という疑問である。

私が本書を斜め読みする限りでは、「なぜ4分の1なのか」についての説明は見つからなかった。だがこれに関しては、実は海外に興味深い類似例がある。「北朝鮮データブック」(重村智計・著、講談社現代新書、1997年)によれば、朝鮮民主主義人民共和国では、朝鮮労働党への「忠誠度」を基に、国民を「核心層」(忠誠度の高い岩盤支持層)、「動揺層」(社会情勢次第でどちらに転ぶかわからないと党中央が判断している中間層)、「敵対層」に分けて意図的に分断しているという。重村によれば、比率は「核心層」3割、「動揺層」5割、「敵対層」2割である。

北朝鮮における「核心層」3割という数字は、森さんが主張する自民党の岩盤支持層25%にきわめて近い。また北朝鮮での「動揺層」5割も、日本での無党派層(世論調査のたびに「支持政党無し」と答える層)45〜50%程度と近い数字である。北朝鮮での「敵対層」2割も、日本における左翼・リベラル層の数字がこれくらいと考えれば、驚くほどよく似ていると言えるだろう(余談だが、安倍元首相が自分に批判的な左翼・リベラル層を「こんな人たち」に負けるわけにいかないと発言して物議を醸したが、安倍元首相が私たち左翼・リベラル層を「敵対層」とみなしているなら、日本と北朝鮮はまるで双子のようにそっくりである)。

一党独裁か、それに近い政治体制が取られている国で、国民の半分が政治的無関心を決め込んでくれている場合、支配政党に忠実な層が国民の中に3割もいれば、十分統治可能であることを、北朝鮮の例は示している。世論調査のたびに「支持政党無し」と答える約半数の有権者が「選挙に行っても何も変わらない」と考え棄権することで、本当に何も変わらなくなってしまうのである。

 ●私たちはどう行動すべきか

残念ながら、2割程度に過ぎない「敵対層」の私たちがいくら頑張ったところで「核心層」(自公政権)を倒すことはできない。参院選で改憲を阻止するためには、寝た子ならぬ「寝た無党派層」を起こさなければならない。このところずっと選挙に行ってないという人が身近にいたら、立憲野党への投票を働きかけてほしい。

自民党の岩盤支持層は4分の1、25%。私たち「敵対層」も2割で少し負けているだけに過ぎない。無党派層の1割程度を起こすことができれば立憲野党にも勝ち目がある。そのことは、先日の杉並区長選でも証明されている。

参院選は、衆院選と違って政権選択選挙ではないが、もし、与党を過半数割れに追い込み「ねじれ国会」を再現できたらいろいろなことが可能になる。自公政権に挑戦するような法案を、参院先議で提案することができるようになる。国会の同意が必要な政府関係機関のいわゆる「同意人事」は、衆参両院の同意がなければならないため、参院が拒否権を発動することもできるようになる。

会計検査院には、国の予算が投じられている事業に関し、国会からの要請があれば特別検査を行うことができる権限があり、そのための専門部署(第5局)まである。この「特別検査要請」は衆参どちらか一方の院だけで発議可能なので、例えば「アベノマスク」「コロナ給付金」「東京五輪」など、国民的関心が高そうな分野から、検査要請を出して不透明な政府資金の解明を行わせることもできる。民主党政権成立前夜の「ねじれ国会」の時期には、実際にこのような多くの検査要請が参院によって行われた。参院に国会の持つチェック機能が戻ってくるだけでも、やりたい放題の政府与党に対する牽制になる。特別会計をはじめとするヤミ資金にメスを入れるため、日本版「動揺層」「敵対層」の有権者の中から、森さんの問題提起を受け止め行動する人が1人でも多く出てくることに期待している。

(文責:黒鉄好)


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