本文の先頭へ
LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『楠勝平コレクション 山岸凉子と読む』
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item hon224
Status: published
View


毎木曜掲載・第224回(2021/10/7)

「市井の、庶民の」生きる姿を静かに描く

『楠勝平コレクション 山岸凉子と読む』(楠勝平 著、ちくま文庫、900円)評者:大西赤人

 近年、子供たちが憧れる職業ランキングでは、国内外を問わず「YouTuber(ユーチューバー)」が上位を占めるようになっている。古い感覚で言うと、そもそもYouTuberって「職業」なの?瓩箸気┿廚辰討靴泙Δ里世、ここまでネット社会が強化・確立されている以上は、仮想空間の中を駆け巡る情報を発信するという曖昧な行為も、子供たちの眼には心惹かれる魅力的な犹纏瓩箸靴同任襪里任△蹐Αもっとも、新世代における魅力的な文化が旧世代にとってはしばしば顰蹙の種となることは、SNS、スマホ、ゲーム、ロック、テレビ、漫画……いつの時代にもありがちな話だ。

 大西の子供時代においても、世間一般にはテレビ、漫画が槍玉に上げられていたものだが、我が家においては、少なくとも漫画に関しては一切文句を言われることはなかった。なぜなら、1960年代から70年代の当時、父親自身も大の漫画好きで、手塚治虫、水木しげる、石(ノ)森章太郎、永島慎二らのコミックスを繁々と買い込んできたからである(漫画本の在庫が豊富な行きつけの古本屋で珍しく普通の本を買ったら、店主から真顔で爐客さんは漫画以外の本も読むんですね!瓩噺世錣譴燭箸いο辰鯔更でもない様子で繰り返していたものだ)。そんな中で父親も筆者も最も愛読していた漫画家は、白土三平だった。『忍者旋風』『忍者武芸帳(影丸伝)』『サスケ』『ワタリ』、そして『カムイ伝』『カムイ外伝』。とりわけ『カムイ伝』に描かれていた歴史観は、大西のそれに未だに色濃く影響を残していると自覚する。

 『カムイ伝』が連載されていた雑誌『月刊漫画ガロ』(青林堂)は時おり買ったことがある程度だったと思うけれども、同誌に作品を発表していた楠勝平については、読んでいたかもしれないものの記憶がない。楠は、白土三平のアシスタントを務めていたとのことで、白土とともに『ガロ』を創刊した編集者の長井勝一は、「白土三平さんのただひとりの弟子なんだけど若くして亡くなったからね…まさしく夭逝の天才だよ」と同誌の中で語っていたそうだ。1944年生まれの楠は、中学時代に患った心臓弁膜症が後に悪化し、1974年、30歳の若さで早逝したのである。

 本書には、山岸凉子の選んだ12本の――1966年から1973年にかけて楠が発表した――短編作品が収められている。やはり『カムイ伝』が目当てで『ガロ』を読んでいたという山岸は、解説の中で「声高でなく『誰が読んでも楽しめる』楠作品は目立ちにくく、さらっと読み流してしまいがち」と記し、毎回楽しみに読んではいたものの、「楠さんの本当のよさに気づくのはもう少しあとになってのことでしたが……」と述べている。短編という条件も含めて、強烈なインパクトはないかもしれないが、使い古された言葉を選べば犹坩罎劉甅狃醋韻劉畧犬る姿を過剰な説明を排して静かに描いた作品は、流して読めば淡々と終ってしまうが、頻繁に切り替わる場面場面を噛み締めながらページをめくると、非常に深い描写の積み重ねと感じられる。

 特にそこには、自らの限られた未来を悟っているかのような死への想いが窺われる。本書中で唯一の現代モノである『大部屋』は、楠の実体験が投影されていると思しき入院病棟の情景がリアルに描かれて印象的だ。そして、より末期に描かれた『ゴセの流れ』や『彩雪に舞う…』では、死はむしろ恐怖の対象から親近の相手へと昇華しているように見える。ネットにおける本書への感想の中で、「マイナー・ポエット」という言葉を眼にした。「マイナー・ポエット」とは、元々は狎ご崚知名度こそ乏しいけれども、その存在を無視しがたい作り手瓩魄嫐するのであろうが、ニュアンスとしては、もう少し矮小な評価を感じさせてしまう。たしかに楠勝平が白土や手塚を上回る漫画家と見做されることはないかもしれないが、こうしてその作品に遅れ馳せにも触れ得たことは、筆者にとって確実な喜びである。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2021-10-08 09:28:13 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について