紹介 : 映画『返校』と呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』 | |||||||
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歴史的な労苦を市民が共有する〜映画『返校』と呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』紹介森健一台湾映画『返校 Detention 言葉が消えた日』(2019年)を11月に観た。また、呉叡人の『台湾、あるいは孤立無援の島の思想――民主主義とナショナリズムのディレンマを越えて』(2021年、みすず書房)を読み通した。この2作を紹介したい。 映画『返校』では、台湾映画『非情城市』(1989年)を思い起こすが、1946年、中国大陸で共産党軍に敗れた、蒋介石の国民党軍が台湾に移駐、台湾の本省人を政治迫害し始めた。同作は1962年の事件を描いている。高校内の読書グループさえ抵抗の芽を摘むとして、蒋介石の憲兵隊は学校ごと蹂躙した。同作は1987年の台湾民主化後の若者に追体験できる工夫、仕掛けになっている。 呉叡人〔1962年〜〕『台湾、あるいは孤立無援の島の思想――民主主義とナショナリズムのディレンマを越えて』は、1987年の民主化に至るまで、1895年の日本植民地化と1947年以降の国民党の強権支配のなかで生まれた、市民的な政治教養と台湾人としてのナショナリズム、そして中国に近接する地域ゆえのアイデンティティを説いている。 呉叡人は、南北朝鮮、琉球、台湾、香港の5つの、帝国の狭間に置かれた〈辺境〉の地域が、新たな政治主体となりうると説く。ここで帝国とは米・中・露や日本をいうのだろうが、大江健三郎『ヒロシマ・ノート』と『沖縄ノート』を引きながら、ヒロシマ以後の日本人、憲法前文や1995年の「村山談話」にある、アジア諸国への向きあい方を将来に継承すべきと説く。そこから戦後の日本人は、帝国ではなく底辺、辺境である「沖縄に帰属せよ」と主体性を問うている。 同書からは、戦前の矢内原忠雄の言葉「虐げられるものの解放、沈めるものの向上、而して自主独立なるものの平和的結合」の真の意義を改めて理解しはじめよ、や戦後の丸山眞男・政治学が、国家に対する自立した市民の存在意義を説いたことが台湾や韓国の知識人らに受容されていったことが分かる。 先日、社会学者の宮台真司が「悲劇の共有が市民を生む」との格言を紹介していたが、韓国映画『1987年 ある闘いの記録』(2017年)にしても、こうした歴史的な労苦を市民が共有しているからこそ、現代の韓国政治があるし、台湾の蔡英文政権も台湾人のアイデンティティを大国化した中国に主張できている。戦後の日本人が、さきの戦争体験を歴史認識として共有できていないことと戦後の民主化が遠のき、1990年代から「失われた30年」を経、各分野で劣化をひた走るのは理由のあることだと思い知らされた。 Created by staff01. Last modified on 2021-12-09 11:52:38 Copyright: Default |