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「中国脅威論―中国包囲網」は日本社会に何をもたらすか

高井弘之

*レイバーネットTV7月放送「米中対立」より

米日軍隊による「中国包囲網」の構築

「中国脅威論」が国家・社会に蔓延し、実際に、米日を中心とする軍事的・外交的「中国包囲網」が着々と築かれている。

琉球弧(南西諸島)には中国の空軍・海軍を想定した「対空・対艦ミサイル」網―自衛隊基地群が新たにつくられ、その射程を中国本土まで延ばそうとしている。さらに米軍は、強大な既成の基地に加えて、中国に対する中距離ミサイル網を日本列島―琉球弧に配置しようと企てている。

そして、この間、日本・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ等の軍隊が、さまざまな組み合わせで、南シナ海・東シナ海・日本近海・九州など、「中国の近く」で共同軍事演習を繰り広げている。これらの国々は、1840年代から1940年代の100年に及ぶ時期のいずれかに中国への侵略を行ったいわゆる帝国主義列強と呼ばれた諸国である。つまり、旧列強の軍隊が再び、中国近海へと戻って来ているのである。

最近しきりに謳われる「自由で開かれたインド・太平洋を」とは、この、「中国への包囲・圧力網」構築の意味である。

中国包囲網は国内に何をもたらすか

これらの軍事・外交戦略は日本国内に何をもたらすか。

まず、奄美・沖縄に住む人々は、すでに、この新基地建設の過程とそれが造られたいま現在において人権や民主主義を蹂躙され続けている。そして、ひとたび「有事」となれば、ミサイルのある島は標的となり、再び、その暮らしや命を真っ先に奪われる。つまり、日本国家の軍事戦略の結果として再び「捨て石」にされる。

国全体においても、「中国からの安全」を名目に、軍備とその予算を際限なく拡大し続け、さまざまな社会福祉予算は削られ続けるだろう。「安全と防衛」を名目とする軍事体制構築が最優先され、そのために人権を制限することも正当化され、それが、「普通のこと」になるだろう。「全体の安全」の前に、〈個人の尊重〉は吹き飛ぶのである。

国家・社会の「外敵」を前にして、そこから防衛されるべき「内部」はひとつに強固にまとまり、排他的「一枚岩」と化すだろう。すでに、反中・嫌中意識と中国脅威論がこれほどまでに蔓延している中での「反中国―中国包囲」戦略の発動なのだから。

そしてそれは、植民地支配を正当化したままでの独善的「反朝鮮・反韓国」意識―外交と連動している。実際、内政において政府に批判的な政党・論客なども、韓国・朝鮮・中国のことになると排外的姿勢で一体化することは、すでに、この間、多く見てきたところである。中国包囲戦略のエスカレート化は、この傾向を徹底させ、自己中的全体主義状況をさらに招き寄せるだろう。

100年にわたる欧米日の蹂躙を経ての中国の台頭という東アジアの新たな歴史的状況を前にして、いま没落しつつある日本は、その近代における出発時とそれ以降の自らの歴史――欧米列強と共にする東アジア隣国への侵略と敵対姿勢――を省みることなく、隣国への相も変らぬ排外的・敵対的な軍事・外交戦略しか発動できないでいる。このことが、上のような国内状況を進行させている。

中国脅威論の実像

たしかに、中国は大国化し、軍備も拡大している。しかし日本では、政府も野党の多くもメディアも、それをのみ焦点化して強調するばかりで、それが、アメリカのどのような姿勢・戦略との関係の中にあるか、そして、アメリカがどのような「脅威」を中国に与えているかといったことについては、ほとんど、顧みない。あるいは、香港や台湾が中国にとってどういうことを意味するのかを歴史的に考察することもなされない。

たとえば、九州の南端から宮古島の西、台湾の東を経てベトナムの海岸線へと至る「第一列島線」と言われているところ。ここを、米軍の侵入を拒否するための中国の最重要の「防衛線」と見做したアメリカは、この「線」を突破できるための軍事能力形成を進めている。中国の防衛線に対して、アメリカは、それを突破し、その防衛域内を支配し得る能力を獲得しようとしているのである。(「統合エアシーバトル構想」→「海洋プレッシャー戦略」)

つまり、いま日本がアメリカと共に進めている軍事戦略は、「中国の脅威からの防衛」体制構築というよりも、中国に対する極めて攻勢的・支配的な性格のものなのである。

琉球弧における自衛隊のミサイル基地群の新設も、米欧日による共同軍事演習も、そのような軍事戦略の一環としてある。もちろん、集団的自衛権や他国軍への軍事協力を認める「戦争法」体制もこの戦略に大きく貢献し、その一翼を担っている。

「歴史的現在」としての東アジア

また、香港や台湾に住む多くの人々にとって、中国という国家が強権的・大国的姿勢であることの問題性と同時に、中国を侵略した帝国主義列強と中国との関係において、つまり、その侵略を克服―「回復」して建国した中国の政府やその多くの人々にとって、香港・台湾がどのような存在かということも認識し、理解しておく必要があると思う。

香港は、アヘン戦争によってイギリスが中国から奪った―「割譲」させたところであり、台湾は、日清戦争によって日本が中国に「割譲」させたところであるという歴史的事実を、中国を侵略し奪った側の国の構成員として、私たちは知り、理解をしておく必要がある。

そして、150年前の、東アジアにおける日本の台頭期、日本は周辺諸国への軍事侵略―占領を次々と展開し、人々を殺戮―支配し、「脅威」などではない巨大な実害を与えていったが、いまの中国から、経済的圧力などを受ける国はあっても、軍事侵略され、殺戮―支配されている国はないことも、私たちは想起すべきであると思う。

〈平和と共生の東アジア〉に向けて

日本は、アジアの人々・国々に対する支配・加害者―敵対者として、独自に、あるいは欧米列強と共に、東アジアの平和を奪ってきたこの近現代150年の歴史を深く内省し、その「150年」の歴史的転換期のいま、これまでとは違った進路を選択し、歩み始めなければならない。

東アジアの平和の破壊にしかつながらない現在の軍事・外交路線をその根本から転換して、アメリカとの軍事同盟を解体し、旧帝国主義列強との軍事協力関係を止め、諸国間の平和的関係の構築による〈東アジアの平和〉を目指さなければならない。覇権や軍事同盟に依らない、東アジアの国々の対等な多国間関係や地域機構の創設などによる、〈平和と共生の東アジア〉の実現に向けて、日本は汗を流すべきである。

そして私たちは、すでに存在する東アジア市民・民衆による交流・連帯関係を深化・拡大させ、民衆の側から――東アジアピープルの側から、〈平和と共生の東アジア〉構築の機運を創り出していかなければならないと思う。


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