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LNJ Logo 山口正紀のコラム : 新型コロナの感染大爆発は「患者見殺し政策」による人災だ
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●山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第13回(2021/8/25 不定期コラム)

*筆者の体調不良により、5月以来休載していたコラムを再開します

新型コロナの感染大爆発は「患者見殺し政策」による人災だ〜菅首相らはTBS「報道特集」が伝えた「自宅療養」の現実を直視せよ


*TBS報道特集(8月21日放送)

 新型コロナの感染大爆発で、1日の感染者数が全国で2万5000人を超え、昨年来の死者数は1万5615人に達した(8月21日)。「自宅療養」という名で放置された感染者は全国で9万7000人に上り、首都圏4県では7月以降少なくとも18人が自宅で死亡していたことが明らかになった(22日付『朝日新聞』)。安倍晋三、菅義偉と続く自公政権が、PCR検査体制や病院・スタッフの拡充、臨時医療施設の設置など政府として取るべきコロナ対策を怠り、「GoToトラベル」や東京五輪など、大企業優先・選挙目当て政治にうつつを抜かしてきた結果だ。8月21日夕放送されたTBS「報道特集」は、この「自宅療養」の実態が「患者見殺し」以外のなにものでもないことを在宅医療の現場から生々しく伝えた。菅首相や政権幹部らは、メディア監視を目的に官邸で録画しているはずの「報道特集」を見て、放置された患者たちの絶望と苦しみ、現場の医師たちの苦悩と正面から向き合うべきだ。

●「もしかしたら、亡くなっているのでは」

 まず、報道特集「感染爆発で医療崩壊の現実」の概要を紹介しよう。
――玄関のカギが空いており、部屋は電灯も点いておらず、真っ暗。独り暮らしの80代男性宅を訪れた田代和馬医師は、「もしかしたら亡くなっているのではないか」と大慌てで部屋の電灯をつけた。東京都大田区の「ひなた在宅クリニック」でコロナ患者たちの在宅医療に奔走する32歳の若い院長だ。

 男性は息をしていた。「ああ、よかった」と田代医師。だが、酸素不足と脱水症状で唇は紫色。オキシメーターで測ると、血中酸素飽和度は75%と極めて重篤な状態だった。

 男性は2年前から同クリニックの在宅医療を受けていたが、8月初めコロナに感染していることがわかった。病状は深刻だった。だが、入院先が見つからず、「自宅療養」。田代医師は毎日2回、男性宅を訪ねて診察・治療に当たってきた。

 田代医師は男性の口に氷を含ませ、サイダーを飲ませた。「うまい」。男性の意識が戻ってきた。「ああ、よかった」。田代医師の表情がようやく柔らいだ。

 こんな「中等症」以上の深刻な患者を田代医師は今、20人も診ている。保健所の支援が届かない独り暮らしの患者には、クリニックで食糧支援もしている。


 菅首相は「在宅でも適切な医療が受けられる体制を作る」と言っていた。だが、その実態は「自宅療養という名の放置ですね」と田代医師。別の日、30代男性の部屋。田代医師が保健所の要請で往診すると、血中酸素飽和度は92%と酸素吸入が必要なレベルだった。しかし、入院先は見つかっていない。

 5日後、「容体が急変した」との連絡で急行すると、男性は意識障害を起こしていた。沖縄から駆けつけたという母親に「人工呼吸も必要なほど厳しい状況です」と告げた。「息をしているかどうか、毎日見ています。こんなにひどい状態で、日に日に弱っていくんです」と母親。この男性はその後、入院先が見つかるまで8日もかかった。

 田代医師が呟いた――「ある患者さんの家で、酸素が下がって意識がもうろうとして、生死の境にいるような人を治療している時、ふとテレビを見たら、都知事が着物を着て旗を振ってて、やっぱり愕然とした」

 メダルラッシュに沸いた東京五輪の閉会式のことだ。田代医師が毎日直面する在宅医療の深刻な現場と比べ、なんという大きな落差か。

 このクリニックでは、患者の部屋に置いた酸素濃縮装置が不足して一刻を争うため、本来業者に頼む装置の回収や輸送も田代医師自身が行ない、次の患者のもとに運び込むことまで引き受けている。それには苦渋の選択も強いられる。

 病院でCTやレントゲン検査を受けるべき人、酸素吸入を開始すべき「血中酸素飽和度92%」以下の人たちが自宅で喘いでいる。そんな症状の重い患者たちのうち、だれに優先的に酸素濃縮装置を回すか。トリアージ(災害現場などで緊急度や重症度に応じて傷病者の治療優先度を決める選別作業)に似た作業まで田代医師たちは強いられている。

 「終わりが見えない」――田代医師が苦しそうにもらした言葉が私の胸に突き刺さった。


●「自宅療養が基本」と持論の「自助」を打ち出した菅首相

 「報道特集」の番組中、何度か出てきた血中酸素飽和度。簡単に言うと血液中の酸素の量のことで、正常値で99〜96%とされている。それが95%以下になると患者はどうなるのか。田代医師は「92%まで下がると酸素吸入が必要」と説明した。

 経験がない人にはピンと来ないと思うが、「血中酸素飽和度92%」は、患者にとってかなりきつく苦しい状態だ。実は私自身、今年に入って抗がん剤の薬効がなくなり、肺がん(ステージ検砲良他が進行して、しばしば「92〜93%」まで下がった。

 体内に酸素が十分回らず、息切れが激しくなる。歩くことはおろか、座っているのもトイレも辛く、一挙手一投足がたいへんな苦行になる。食事も大仕事になり、途中で放棄する。それでなくとも「がん」に栄養を奪われがちなのに、必要な栄養が摂取できず、どんどん痩せていく。私は今年初めからの半年間で約15キロも体重が落ちた。

 日々体力が低下し、鏡を見ると自分でも驚くほど衰弱している。こんな体調・体力で、「いざ」という時、ふだん治療を受けている都心の病院までたどり着くことができるか。そんな不安にも苛まれた。この窮状で何とか心身ともに私を支えてくれたのが、地域の訪問医療・訪問看護、栄養士による指導、理学療法士によるリハビリなどの支援だった。

 私は訪問医など皆さんの見守りによって辛うじて体力を維持し、体調を整えることができた。そうして7月末、「がん増殖遺伝子」をピンポイントで叩く分子標的薬による治験開始にこぎつけた。それが劇的に奏功し、ようやく危機を脱出することができた。

 こんな苦しい体験をしてきただけに、「報道特集」のカメラが映し出すコロナ感染者たちの苦しみが痛いようにわかった。患者や家族たちが、在宅医療で訪問してくれる医師にどれほど勇気づけられ、頼りにしているか、その思いが画面からひしひし伝わってきた。

 コロナ感染が爆発的に拡大した8月初め、政府は「入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化し、それ以外の人は自宅療養を基本とする」との方針を打ち出した。菅首相の持論「自助、共助、公助」そのままの冷酷なコロナ禍対策だ。

 その後、菅首相は「中等症でも酸素投与が必要な方や重症化リスクがある方は入院していただく」「入院は医師の判断によって行い、自宅の患者についてもこまめに連絡を取れる体制を作り、症状が悪化したらすぐ入院できるようにする」とややニュアンスを変えた。ただ言葉の上では軌道修正したが、実態はまさに「自宅療養が基本」のままだった。

 PCR検査で陽性と分かり、肺炎を起こしてもすぐに受け入れてくれる病院がない。保健所は時々、電話やオンラインで症状を確かめてくれるが、病状が悪化してもすぐ駆けつけてくれるわけでもない。菅首相が約束した「すぐ入院できるよう」にはしてくれない。

 8月19日には、コロナに感染して「自宅療養」中だった千葉県の30代妊婦が早産となり、搬送先が見つからないまま自宅で出産、赤ちゃんが死亡する痛ましい事件が起きた。

 そんな「自宅療養」による死者が全国で相次いだ。だれにも看取られず、苦しみながら亡くなっていく患者たち。こうした報道に接すると、「ひなた在宅クリニック」のような親身な在宅医療を受けられる患者は、「まだ恵まれている方」なのかもしれないとさえ思う。

●それでも強行された「東京五輪」――総選挙で菅政権に終止符を

 菅首相は6月に行われた党首討論で東京五輪による感染拡大のリスクについて、「国民の生命と安全を守るのが私の責任だ。守れなくなったら、(五輪を)やらないのは当然」と述べていた。だが、まさに「国民の生命と安全が守れなくなった」感染爆発真っ只中の7月23日、世論の圧倒的多数の反対を無視して、東京五輪を強行開催した。

 4日後の27日、「感染者数が下げ止まらない中で五輪を続けても大丈夫か」との記者の質問に、菅首相は「中止の選択肢はない」「人流は減少している。心配はない」「ワクチン接種は進んでいる」などと強弁した。そうして五輪に多数の医療スタッフを動員した。

 今年に入ってほぼ出しっ放しの「緊急事態宣言」。そのターゲットは飲食店と若者だちで、政府として激増する感染者・重症患者の根本的な対策は何も実行されない。厚労省も都も、「自粛」を求めるだけで、医療機関や飲食店などへの経済的支援には及び腰だ。

 そうして、「県境を越える移動は控えて」と自粛を呼びかけながら、「国境を越える大移動」である東京五輪を強行した。菅首相が先頭に立って、「人流は減少している」とコロナ禍を軽視する風潮を助長したと言うべきだ。「緊急事態宣言が出ていても、オリンピックを開けるのなら、外出してもいいんじゃないか」という心理が広がったのは当然だ。

 ブレーキとアクセルを同時に踏む「観戦=感染」策。それがもたらした深刻・重大な結果が、8月に入ってからいっきに全国に拡大した感染大爆発だった。

 菅政権に対する支持率は、ついに「危険水域」とされる30%を割った。追い詰められた政府、厚生労働省と東京都は8月24日、改正感染症法に基づき、都内の全医療機関に「病床確保・人材派遣」を要請した。「正当な理由がないにもかかわらず、応じなければ勧告し、従わなければ医療機関名を公表する」という、半ば「脅し」のような「要請」だ。

 コロナ専用病棟など医療機関の確保、体育館やプレハブなどによる緊急医療施設の設置、医療スタッフ確保のための経済的保障・支援など、政府や都が取るべき対策を「正当な理由」なく、サボタージュしてきた。その責任を、一方的に医療機関に押しつける暴挙だ。

 その一方で、菅首相や自民党幹部たちは総裁選、衆議院総選挙に向けた党内駆け引きに汲々としている。だが、22日に行われた横浜市長選は、菅首相が推した候補が野党系候補に12万票もの大差で惨敗した。市民の視線はそれほど甘くなかった。首相の地元での大敗は、自民党内に「菅で総選挙を戦えるのか」との疑心暗鬼を生み出している。

 コロナ禍のこれ以上の拡大を止めるには、菅政権を退場させるしかない。その大きなチャンスが年内に行われる衆議院総選挙だ。菅首相ら政権幹部は「報道特集」を見て、「自宅療養」の名で放置・見殺しにされた患者、医師や医療スタッフの苦境を直視すべきだ。彼らがそれをしないのなら、市民の手で権力の座から引きずりおろすしかない。(了)


Created by staff01. Last modified on 2021-08-25 20:06:29 Copyright: Default

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