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投稿者 : 愛知連帯ユニオン・S

本の紹介 木下武男著『労働組合とは何か』(岩波新書)

 「あとがき」にあるように、本書は、労働運動史の専門家ではない木下先生が、アカデミズムの研究と運動現場をつなぎ、活動家が運動の展望を議論するためのツールとして、労働組合の形態転換論の観点から労働運動史を切り取り、まとめたものです。木下先生の意図する通り、労組の活動家が最低知っておくべき歴史と知識が280ページに読みやすくまとめられています。また、第8章の2では、「日本における産業別労働組の登場」として関西生コン支部の運動とそれへ弾圧について25ページを割いて端的に記されています。

1,本書の内容

 本書の内容を少し紹介します。
 ヨーロッパでの労働組合は中世市民社会の「対内的平等」と「対外的独占」を原理としたギルドをルーツにしており、それが職業別労働組合(クラフトユニオン)に進化して労働者階級の階級意識の形成が始まった。産業革命によって大量の不熟練工が生み出される中、産業別労組(あるいは産業を単位とする労組の集合体である一般労組・ゼネラルユニオンをめざす運動)が職業別労組に取って替わっていく。

 米国では、最初に熟練工と自営農民となった北西欧の移民が流入した後、南東欧のから流入した第2次移民が大量の不熟練工を形成した。それは職業別労組・アメリカ労働総同盟(AFL)から産業別労働組合(CIO)、さらには「ワンビックユニオン」をめざしたIWWの結成に向かった。これに対して、企業側はアンチ・ユニオニズムの強硬な攻撃に訴えつつ、他方でカンパニー・ユニオン(従業員組織)を作り、運動を会社の中に封じ込めていった。その後、米国ではニューディール政策の中で1935年ワーグナー法が成立、産業別労組が再生していくが、ヨーロッパのような産業別労働協約体制は築けなかった。

 日本の場合、熟練工の萌芽は渡り職人にあったが、高揚する労働組合運動を個別企業内に抑え込む土台となったのが欧米にはなかった企業内技能養成制度とそれに基づく年功賃金であった。ここに日本労働運動の宿痾ともいえる「年功賃金と企業内労組」の原型が形成されていった。1946年に163万人で結成された産別会議は共産党の政治主義もあって瓦解、1950年には企業内組合をまとめあげた総評に席を譲る。しかし、戦後労働運動の一時代を築いた総評は、労働者間競争を規制する産業別団体交渉の方法と制度的方法が欠落しており、1960年までに民間大企業が第二組合の結成で、その後の官公労の運動も1975年スト権ストの敗北を最後に停滞へと向かった。

 1992年のバブル崩壊以降、貧困と雇用不安が日本を襲い、膨大な非(弱)年功賃金労働者と非正規労働者が生まれている。熟練工から非熟練労働者への転換が職業別労組から産業別労組の転換の土台になったように、日本は、今、企業内労組ではないユニオニズムの創造、労働市場への規制力を持つ本当の労働組合の形成をめざすべき時だ。変化は必然だが自動的ではない。組織主体の意識性が不可欠だ。

2,若干の感想

 本書が呼びかけるように、自覚的意思で結ばれた活動家集団によって、「ワンビックユニオン」をめざして、膨大な非年功賃金労働者と非正規労働者を産業別労組に組織し労働組合を再興していきたい。

 歴史的なストライキはどれも単なる労働の放棄・同盟罷業ではなかった。ピケッティングのないストライキはない。労働組合の団体行動権を守り抜こう。

 ヨーロッパに産業別労組が確立する過程は、歴史的には欧米列強による帝国主義の世界支配が成立していく過程であった。米国では第1次世界大戦に反対したIWWに弾圧が襲いかかり、ニューディール政策では大恐慌から脱出できずに第2次世界大戦へと向かった。日本の産別会議は朝鮮戦争に先立つレッド・パージで壊滅させられた。現在、膨大な非正規労働者が生み出さていれる世界は、同時に世界支配のパワーシフトの進行する時代でもある。帝国主義の世界支配と労働運動の関係は、もうひとつの重大なテーマだと思う。


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