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 第74回・2020年12月27日掲載

軟禁日誌第2章(4)マリアンヌ(共和国の象徴)は血の涙を流す


*「(悪)法もいらない、王もいらない」

 マクロン政権が次々と法制化を進める自由の侵害と監視・警察国家への歩みは、大勢の市民の抗議運動、国際人権機関の批判や国務院、憲法評議会の一部却下によって、多少停滞したところで年末休暇に入った。12月15日からロックダウンは部分解除されたが、文化施設は閉まったまま、夜間は外出禁止のため社会活動・付き合いはできず、クリスマスの過剰消費のみを促す措置。新型コロナ感染は抑えられず、入院患者(集中治療含む)数は多すぎる値で横ばい状態である。

●11月30日(月)

 前コラム、11月26日の日誌に記した事件の追加情報:黒人音楽プロデューサーにひどい暴力をふるった警官3人と、催涙弾を投げた警官の4人が起訴された(うち拘置は2人のみ)。援軍で来た十数名の警官に対しては何の罰則もなし。とりわけ、この異常な事件の責任をラルマン警視総監も内務大臣もとらない。ダルマナン内務大臣は今晩、一連の警察による暴力について国会で聴聞を受けたが、「何人かの個人による」暴力を認めただけで、機構として問題なのは警官の職業訓練と人員、備品が足りないことだと述べた。ラルマン警視総監を擁護し、レイシズムも認めず、独立した監査機関を設けることに反対し、「グローバル治安」法案24条も擁護した。つまり、何の進歩もない。

 一方、与党の「共和国前進」党内部でも批判が高まり、マクロンの要請により、緊急に話し合って「24条を書き直す」と党のトップ(前内務大臣のカスタネール、「黄色いベスト」の弾圧などの責任者)は述べた。しかし、可決された法案はこれから元老院で討議されるわけで、議会政治の規則をまたもや無視した混乱ぶり。それに、書き直して改良の余地はないし、自由の侵害は24条に限らないから、全法案を撤回させないと意味はない。毎日、警察による新たな暴力例(デモ参加者やジャーナリストへの暴力、私服の警官が車を止めさせ、何もしていない若者に向けて発砲した例など)がSNSに流れている。だが、マクロン政権は警察機構に根本的な問題があるとは意地でも認めないだろう。


*「あなたがたは安月給。私たちをがんがん殴り倒す」(治安部隊に対して)


*「あなたがたは安月給。でも私たちをちゃんと治療してくれる」(医療従事者に対して)
●12月5日(土)

 「グローバル治安」法案の撤回を求めて、再び各地で「自由のための行進」。大勢の市民がまた路上に出た。マルセイユなど平和的に大規模なデモを行えたところもあるが、パリの北東端ポルト・デ・リラから出発した首都のデモはすぐに止まってしまった。先頭で衝突が始まり、催涙ガス弾が打たれた。ブラックブロックがいたにしても、治安部隊はデモ参加者全体に催涙弾を多発した。また、治安専門のCRS機動隊と憲兵隊ではなく犯罪取り締まり部隊(とりわけ暴力的な警官たち)を多用し、最初から挑発的・攻撃的な対応をしたため、先週の土曜とは異なり前に進めなくなった。今日のデモは失業・貧困の増加を訴える労組と合同だったが、CGTの治安部員(隊列の先頭と横で安全を保つ人たち)も警官に殴られ、また負傷者が出た。パリ警視庁は暴力をエスカレートさせようとしたとしか思えない。それに治安部隊6000人に対して、パリ警視庁はデモ参加者5000人と発表したが、現場を見た人なら、先週のデモが4,6万人(内務省発表、主催者発表は20万)で今日のが5000人のはずはない(少なくとも10倍?)とわかるだろう。警察も政府も虚言ばかりで、本当にうんざりする。

 ところでマクロンは昨日、Brutというインターネット・メディアから長いインタビューを受けた。マクロンはいつものように、べらべらと中身のない言葉、真実でないことを語り続け、ジャーナリスト(先日警察から暴力を受けたレミー・ブイジンヌ)たちはそれでも警察による暴力などについて食い下がったが、マクロンは薄っぺらい言葉しか吐かなかった。ジョージ・オーウェルは『1984年』の中で「ニュースピーク」novlangueを描くことによって、気取ったレトリックや意味のない言葉によって思考が堕落することに警鐘を鳴らした。政治家やジャーナリストはますますニュースピークを使うようになったが、マクロンとその家来たちはニュースピークの頂点だ。彼らが行うのは政治ではなくてマーケティングコミュニケーションなので、言葉は全て空虚なだけでなく、言うことと正反対のことをする。政治から、人間から、社会から、信頼・信用が失われる。このマクロンのインタビューについて、いかにも民主的な為政者の態度のごとくフランスメディアの日本特派員がツイートしたが(日本の政治家はペラペラ質問に答えないから)、これはマクロンのいつもの見せかけパフォーマンスだから、誤解しないように。

 マルセイユではデモの最後、2年前の黄色いベストのデモの際、自宅で窓を閉めようとした時に催涙弾を受けて亡くなったアルジェリア女性ジネブ・レドゥアンの追悼が、音楽と共に行われた。パリのデモではATTACのうまいポスター(写真3枚続き)を見たので訳しておく。

「あなたがたは安月給。私たちをがんがん殴り倒す」(治安部隊に対して) 「あなたがたは安月給。でも私たちをちゃんと治療してくれる」(医療従事者に対して) 「あなたがたは高給取り、でもいったい何の役に立っているの?」(マクロン大統領、ダルマナン内務大臣、パリ警視総監ラルマンに対して」

感染者数合計2 281 475人 死者合計54981人 入院患者26040人(集中治療3220人)

●12月7日(月)

 今夜はスカラ座の初日のコンサートをラジオでやっている。このところひどい内容の暗い現実の記録ばかりなので、美しい音楽を聞かないともたない。でも記録しておかなければと思う。

 「グローバル治安」法案は国民議会での採択後、11月24日に元老院に移された。マクロン党に続きカステックス首相(保守出身)も、委員会を作って24条を書き直すなどと立法の規則から外れたバカなことを言ったので、元老院はむろんそれにも怒り、法案はまだ討議の予定が示されず放っておかれている。しかし先週(12月2日)、内務大臣は警察・憲兵(公安)の治安ファイル3種について3つ政令をこっそり発布し、4日金曜にそれが布告された。つまり要注意人物やオカルト集団などの監視ファイルだが、それに「国益と共和国の機構に害を与える危険がある」人物の情報をのせることができるようになり、情報の内容に「スポーツ、生活習慣、心理的・精神的・行動障害、SNS活動」が加えられ、これまで「政治・組合・宗教活動」は記されていたが、それが「政治思想、宗教的・哲学的信念」に拡張される。情報・自由委員会が懸念と批判を突きつけたが無視された。12年前に「思想」を記すファイルができかけた時、市民の反対運動で「政治活動」だけに限られた。警察国家への道はどんどん進む。

 そしてまた不愉快なニュース。先日、警官から黒人の音楽プロデューサーがひどい暴行を受けた事件で、内務大臣は加害者の警官を罷免すると言ったのに、パリ警視総監ラルマンは彼ら4人の訴訟費用を公務員だからと国(内務省)が払うことに決め、内務大臣もそれに従ったというリベラシオンの記事が出た(犯した罪が個人の大きな過ち、職業倫理に逆らうものの場合以外は、行政は公務員を保護する義務がある)。あの暴行はどう考えても職業倫理に逆らう行為のはずだが。被害者のミシェル・ゼクレールは自分の税金から、彼にひどい暴行を働いた加害者の訴訟費用を払わされるのである。

 警官たちのやりたい放題はデモ参加者への暴力だけでなく、たがが外れてしまったようだ。金曜のインタビューでのマクロンの発言(一部の警官による暴力や一部のレイシズムを少しだけ認めた)に怒った警察組合の一部(極右)は、抗議アクションを行った。道路で通行中の車を全部止めて職務質問をやったり、移民系の人を止めて「職務質問ではない証書」を与えたり・・。このところデモでよく見かけるスローガンは「フランス、警察の権利の国」(人権の国をもじって)。

●12月12日(土)

 「グローバル治安」法案、警察の監視ファイル強化政令(12月7日参照)、今週から審議が始まった 「共和国の原理の尊重を強化するための」法案(内容はイスラム規制というか反イスラム)反対で再び大勢の人がデモ。異常な数と攻撃的な治安部隊。ジャーナリストは異常な職務質問と暴力を受け、参加市民も異常な暴力を受けた。ブラックブロックを多数逮捕したと警視庁と内務大臣は発表したが、ブラックブロックではない人々が捕まった。デモ隊列に治安部隊が割り込み、不条理にいくつかの部分に分けてケトリング。不条理に暴力をふるい、警視庁に申請したデモに参加した人たちをまともな理由なしに不条理に逮捕、拘置。それでもシャトレからレピュブリック広場まで人々は歩いた。デモでパーカッションを演奏するミュージシャンが棍棒で殴られたが、顔が血まみれのままパーカッションを叩き続け「僕は音楽をしているんだ」と叫んだ。その場面をBFMというテレビ局が「血は化粧だ」と報道し(!)、あとから謝罪した。パリで、この国で、市民のデモの権利は警察・国によって奪われつつある。この事態を誰も撮影・報道できないように、マクロン政権は「グローバル治安」法案やその他さまざまな自由侵害政策を続ける。マクロンは7日月曜、エジプトの独裁大統領アッ=シーシーを公式にエリゼ宮に招待し、レジオンドヌール勲章1等グランクロワを授与した(パリ市長アンヌ・イダルゴもこの独裁者を市庁舎に迎えた。コミュニケによれば、エジプトでの政治犯の解放と人権擁護市民の擁護を訴えるため)。フランスのメディアではそれらの映像は一切報道されなかった(記者会見のみ)ので、あるメディアがエジプト大統領のサイトの映像を見つけて流した。サウジアラビアにせよエジプトにせよ、マクロン政権は武器を買ってくれる相手ならイスラム原理主義も人権侵害も問題にしない。

 イスラム攻撃が主旨の新たな法案については別の機会に書くが、今週金曜には未成年の刑法改悪法案が国民議会で採択された(1回目の採択)。1945年に制定されたオルドナンス(政令)では、子どもの保護の観点から教育面が重視されていたが、その後何度も改正され、どんどん刑罰が厳しくなっていた。その状況を子ども・未成年の保護部門に関わるNGOや人々、弁護士や専門の判事などが摘発し、子どもの権利条約の精神に則った改正を要請していたが、マクロン政権の法務大臣は法的処置のスピードアップと「合理化」を謳い、実際には罰を重くし、刑を犯した子どもに未来を与えない内容の法案を提出した。女性・子どもに対する暴力の問題にも深く関わってきたパリ弁護士会副会長のドミニック・アティアス(女性)は、それについて「フランスは子どもを愛さない」という素晴らしいスピーチをして議員たちに訴えた。ところが、この法案についてはほとんどニュースにならず、採択は全体採択(議員全員の投票)さえ拒否され、たった50人の投票(保守は105人中1人、社会党は29人中1人、1人もいない会派もあった)でマクロン党多数で可決された。まったくもって、フランスは子どもを愛さないのだ。果敢に議会で反論し続けた「屈服しないフランス」のユーゴ・ベルナリシスは、今後、改悪を正して教育と保護の理念に戻す固い信念と意思を表明し、ジャック・プレヴェールの言葉をツイートした。「子どもだった僕、彼の涙を今も僕はもち続けている。彼の笑いをもち続けている。そして彼のすてきな秘密も。」(1972年)

 コロナ感染は毎日1万以上を下らないので、15日からのロックダウン解除は延期。映画館、劇場、美術館は閉まったまま、なんと20時から(!)の夜間外出禁止令がしかれることに。文化・芸術など生産・消費以外の人間の営みは、この政権から全く軽視・蔑視されている。クリスマスの過剰消費のために店は開けてよい(2週間前から再開)、クリスマスイヴだけ夜間外出してよい(大晦日はダメ)という信じられない不条理な決定を、例によって誰の意見も聞かずにマクロン(防衛理事会)が決めて、首相と大臣が木曜に発表した。南ドイツ新聞だったか、外国のジャーナリストはフランスを「不条理王国」と呼んでいる。

感染者数2 365 319人 死者57 761人 入院患者24 948人(集中治療2851人)


*血の涙を流すマリアンヌ

●12月14日(月)

 12日土曜の「自由のための行進」デモについて、内務大臣が142人の「暴徒」を逮捕したと喧伝し、主要メディアはそれを垂れ流した。しかし現場を見た者には、治安部隊がめちゃくちゃな暴力を振るい、未成年やジャーナリスト・カメラマン、弁護士を含む大勢の平和的市民を逮捕したことを知った。逮捕にまともな理由もなく、「暴力的行動の準備」(行為を犯す前の予防逮捕)や「顔を隠した」(マスクをしないと罰金を取るくせに)、「傘を持っていた」(雨がときどき降っていたのだが)など。要するに恐怖を与え、警察署のひどく不潔な檻の中に拘置し、デモに行く気を削ごうという戦略だ(「黄色いベスト」の時もそうだった)。昨日の日曜は、いくつかの区に拘置された人々を解放せよと、市民や議員が足を運んで訴えた。今日月曜の夜、拘置できる限度の48時間経っても解放されない人もいる。ダヴィッド・デュフレンヌの映画でインタビューされた黄色いベストのメラニーや、息子の母校の学生など、政権が語る「暴徒」とは似ても似つかない女性たちもその中にいる。ATTACのスポークスマンのオレリー・トゥルヴェは、未成年を含む市民に対する不当逮捕・拘置に抗議し、自由・人権を侵害する専制的な政治を批判した。彼女はマクロンのポートレートを市役所から持ち去る平和的アクションにおいて逮捕・拘置された経験を持つ。

 次々と市民の自由を侵害する立法を進め、警察による暴力を野放しにして共和国の「自由・平等・友愛」とは真逆の方向に進むマクロン政権の現状を告発するために、14日未明に創造的アクションが行われた。パリなどでは集合住宅の壁に、ストリート・アーティストによる巨大な壁画が描かれているところがあるが、地元13区のそうした壁画の一つ、アメリカ人のシェパード・フェアリー(またはオベイ、オバマの似顔絵が有名)の描いたマリアンヌ(共和国を象徴する女性)の絵に、血の涙が描き加えられた。そして標語の「自由・平等・友愛」は白色で消された。これはストリート・アーティストなどが呼びかけた「創造でレジスタンス」運動に応えたものだという。「黄色いベスト」運動では、片目の潰れたマリアンヌの絵を掲げる人たちがいた。そう、今マリアンヌは血の涙を流しているが、創造によってレジスタンスを続けよう。明日は文化・芸術部門の人々の抗議集会がバスティーユで行われる。


*「アーティストは路上に繰り出した」

●12月15日(火)

 映画、演劇、音楽、文学、美術……文化・芸術の様々な分野の大勢の人がお昼、バスティーユ広場に集まり、店と宗教施設は開けても映画館・劇場・美術館など文化・芸術活動の再開を拒否する政権にノンを突きつけた。この不条理な決定の急速審理を16日に要請するが、たとえそれが蹴られても「私たちは演じる、演奏する」と宣言。かつてフランスは文化は商品ではないと「文化特例」(自由貿易に含めない)を主張したが、マクロンの先日の演説に「文化」という言葉はなかった。文学青年だっという伝説の化けの皮はすでに剥がれていたが、アーティストたちもここまで文化・芸術が蔑視されるとはすぐに気がつかなかったようだ。さあ、どんな創造的なレジスタンスが生まれるだろうか。ちなみに、昨日紹介したマリアンヌに血の涙を流させたアクションについて、壁画の作者シェパード・フェアリーは、「創造でレジスタンス」の呼びかけをのせたサイトにメッセージを送った。「私は不正・不公平に抗議する人たちの側にいる。このアクションの意味がそうであるなら理解する」。

●12月26日(土)

 クリスマス休暇が始まってデモもお休み。12日のデモでレインボーカラーの傘を持っていたムーンという女性が逮捕され、「ブラックブロックの扇動」容疑で起訴された。ムーンは「黄色いベスト」デモの常連で、平和のシンボルであるレインボーカラーを掲げる。デモの先頭に近い場所にいるため、「傘を掲げるのはブラックブロックへのサイン」だと警察にいちゃもんをつけられた、と弁護士は呆れる。家宅捜索で催涙弾が見つかったのは、彼女がデモで拾ったものを蒐集しているからだという。ムーンの傘をデモの最中に持ったメラニー(12月14日記)は起訴されなかったが、マクロン政権の市民に対する威嚇と嫌がらせの滑稽さを象徴する話だ。しかし「不条理王国」と笑えず、心が寒くなる。

 良いニュースは二つ。一つは国務院(コンセイユ・デタ)がパリ警視庁に、デモの際のドローン使用を禁止したこと。インターネット上の市民の権利と自由を擁護する市民団体が訴えたもので、警察が法的な根拠なしにドローンを使用している状況が浮き彫りになった。主要メディアで大きく取り上げるべきニュースだ。もう一つは憲法評議会が、大学・研究分野改悪法の中、大学構内への不法侵入を犯罪化する条項を却下したこと。あとは全部通ってしまったのだから、ごく小さな歯止めでしかないが。

 年末のBrexitを控えたヨーロッパ大陸にはフランスも含め、新型コロナの変異種がイギリスから届いた。

感染者数2 550864 死者合計62 573人 入院患者24 444人(集中治療2640人)

飛幡祐規(たかはたゆうき)


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