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 第65回・2020年4月15日掲載

監禁日誌7「忘れないぞ!」

 フランスのロックダウンは少なくとも5月11日にまで延長になった。マスクや検査はいまだ十分に供給できず、ロックダウンを解くために必要な疫学的措置も進まないのに、経済をなるべく早く元に戻そうとする動きが目立ってきた。市民は身動きが取れないので、バルコニー・デモやネット・デモを行っている。病院だけでなく老人ホームなど高齢者の施設での死亡者数は増え続け、4月14日に15000人を超えた。

●4月8日(水)

 23日目。パリではジョギング規制に多数の警官が動員され、思ったとおり違反者はほとんどいなかった。さて、一般の市民にもどんどんマスクが奨励されるようになり、型紙が出回っていることや、布マスクの洗い方とかがラジオから流れてくる。主要メディアでは、政権の宣伝機関的な要素がさらに強まった感じだ。イルドフランス地方の病院やEPHAD(医療つき老人ホーム)では危機的な状況なのに、「集中治療室の患者数の増え方(入った数から出た数を引いた数)は減っている」とか表現する。「黄色いベスト」への治安部隊による弾圧の件数を記録したジャーナリスト・作家のダヴィッド・デュフレンヌ(ロッックダウン下の治安部隊による暴力の記録も続けている)は、彼の昨日の「監禁日誌」でうまいことを書いていた。「死亡者の算出は黒魔術を使ったかのように、隣国のイタリアで死者数が爆発した時と違ってテレビはルポを流さない。(...)ここでは今晩、チェルノブイリ事故の時と同じになった(死の雲は国境で止まった)。」チェルノブイリのときフランスでは、「放射能雲は国境で止まった」と説明されたのだ。

 この国の今の為政者たちは、これが一時的な危機にすぎず(GDPの6%低下という数字しか見ていない)、感染がおさまったら「普通」に戻って前と同じように、いや「緊急事態法」で火事場泥棒した自由の制限や労働法壊しをさらに進めようと思っているのだ。そして、人々は喉元過ぎれば忘れるだろうと期待しているのだ。メディアを使ってうまく情報操作、雰囲気づくりをすればなんとかなるだろうと。

 そこで、#OnNoubleraPas「忘れないぞ!」というアクションがSNSで始まった。今晩のフェイスブック・ライヴでフランソワ・リュファンも紹介したが、彼らの嘘、無能、ひどい行為を忘れてはならない。コロナ危機の時に、ふだん軽蔑されている低所得、不安定雇用の人々、医療スタッフのおかげで社会が成り立ったことを忘れてはいけない。緊急事態法で弾圧を受けたり、雇用者に不当に扱われた事実を忘れてはならない。それらを付箋に書いて(画像も)ツイートしよう、というアクションだ。https://onnoublierapas.org/

 リュファンのライヴでは、マスクがないことを問題にした労働組合員が定職処分を受けたことや、不良品の上衣を供給された看護師がそのビデオを撮って流したらパワハラに遭った例が紹介された。EHPADで働く女性の証言もあった。EHPADでは住人の高齢者にも看護スタッフにもマスクや必要な用品は劇的に不足していたが、「マスクは使わないように」という指令さえ出たという。そうしたことすべてを「忘れないぞ!」

 今日はなぜかEPHADでの死者数の統計がなかった。これまでの合計10869人(病院7632人)、入院者数30375(重態7148人)

●4月9日(木)

 24日目。死亡者が12000人を超えたが、このところメディアは経済危機のテーマで人々の目を逸らそうとしているようだ。2000万人の給与生活者のうち690万人が部分的失業。テレワークができる管理職と異なり、工場労働者や店員その他、より低所得の人々はさらに収入が減る。自営や自由業、アーティスト(とりわけ低収入の人々)の状況も深刻で、貧困がますます広がるだろう。ところが主要メディアが強調するのはもっぱら、いかに以前の経済レベルに戻れるかという問いかけだ。コロナ危機以前のネオリベラル経済論理のまま、以前と同じ経済学者やコメンテーターばかり登場する。

 そもそも、新型コロナウイルスのような疫病が頻繁に起きるようになったのは、人口が増えて都市化が進み、広範囲の森林が伐採されて野生動物の居場所がなくなり、野生動物が人間社会と交わるようになった環境破壊が原因だという。また、大気汚染の微粒子も影響しているらしい。Covid19ようなパンデミックが起きた今、地球の温暖化を急速に進めたこれまでの経済、生産と消費体制を見直す(決別する)機会にしなければならない。今後また同じような、あるいはもっとすごいパンデミックや気候変動によるカタスロフィーが起きるだろうからーーとエコロジスト、環境・生物学者(例えば生物多様性研究のフィリップ・グランコラなど)、コラプソロジー(崩壊学)のパブロ・セルヴィーニュなどが言っているのに。

 それでも今日、国営テレビのフランス2の番組にフランソワ・リュファンがインタビューされて、生産を増やすためにもっともっと働けというシステムは自殺行為だと説明した。するとジャーナリストは「今、飛行機も車もなくなって消費も低下しています。このように質素で反成長の世界がいいのでしょうか。消費を減らせば仕事が少なくなりますが」と質問。リュファンの答え:「消費を少なくして、富をもっと公平に分配すればいいのです。ケインズは20世紀末には週に20時間で必要ものは供給できると計算しました。僕たちは5Gと健康のどちらが必要かを考えるべきなのです。これまで政府はずっと5Gが必要だと言ってきた。僕は『財産を少なくしてもっとつながりを』と主張します。」

 死亡者数12210(病院8044 EHPAD 4166) 入院者数30767(重態7066人、この蘇生治療の人数が初めて減ったと強調されたが・・・)

●4月10日(金)

 25日目。ランジスの中央卸売市場の冷却設備の整った建物に、死体保管所が設置されたことを4月3日に書いたが、その保管料や面会料を遺族に払わせることがわかり(6日間で159€、以後は1日に35€、1時間以内の面会55€)、けしからんという声が一斉に高まった。そこで、木曜の国民議会Covid19情報委員会で内務大臣は「管理は民間の会社だが遺族に負担がかかるのはおかしい」と述べ、その企業に圧力をかけたようで、今日その企業は死体保管に関するすべての費用は無料にすると発表した。

 さて、パリでは8日からジョギングが10時〜19時禁止になったが、案の定、19時からジョギングの人が一斉に道路に出たため、それまでより3倍くらい道が混雑したビデオと記事を見た。この愚かな措置は引き下げられるだろうか。

 ロックダウン3週間で外出禁止の職務質問(10万人の警官と憲兵)は実に820万件、罰金が48万件もあるとのことだ。フランスの人口は約6700万人だからその12%以上、異常としか言えない。都会だけでなく、人出の少ない田舎、林、海岸(ビーチは禁止だ)などにも治安部隊が出動し、ドローンによる監視も行われている(なんという税金の無駄づかいだろう、医療物資が不足しているのに)。頻繁に問題にされるのは、警官の意向によって不条理ないちゃもんをつけられ、罰金切符を切られることだ。生理用品やお菓子が「必需品ではない」とされたり、身体運動のために外出した人がスポーツウェアを着ていないので切符を切られたり、ホームレスに何度も切符を切ったり・・・そして、移民系の若者たちに対しては、ロックダウン以前と同様に不当な暴力が使われる例も頻発している。ダヴィッド・デュフレンヌによれば、ベジエでは警官に連行されて警察署で死亡した男性がいるとのことだ。

 「公衆衛生緊急事態法」により、行政(政府と警察)の異常に肥大した権力に対して、監視や対抗勢力のしくみがほとんどないことを、人権連盟(LDH)やアムネスティー・インターナショナルは抗議して、政府に対話を申し込んでも内務省と法務省には無視されるので、公開状を送った。むろん、市民団体や弁護士たち、市民たちはそうした権力の濫用を記録し、SNSやいくつかのメディアで訴えているが、これまでと同じく内務省が警察を咎めることはない。コロナウイルス対策とは関係なく、法治国家からの逸脱がさらに深刻に進んでいる。

 死亡者数14197(病院8598、EHPAD 4599)、入院者数31267(重症7004人)

●4月11日(土)

 26日目。2度目のネット・デモ#PlusJamaisÇa は大盛況で16万以上の参加。今日も初夏のようなデモ日和だった。もうこんなことは許さない、忘れないぞ、人の命を守る社会にしようというデモだ。

 一方、昨日の経済日刊紙レ・ゼコーに、経済危機になるから早くロックダウンを解かなければならないという論説が載った。ロックダウンが続くことによる経済危機の影響で死ぬ人の方が、コロナウイルスで死ぬ人より多くなるという論理による。今日はフランス企業運動(この国の経団連)の会長が、ロックダウン後はもっと働かなければならないと述べ、経済界の「早く以前の世界に戻ろう」の呼びかけは露骨になった。EUも同じで昨日、欧州投資銀行が5400億ユーロを出資することが決められたが、これまでと同じ論理で保証するだけだ。負債を共有するのでもチャラにするのでもないから、ダメージがひどい国(イタリア、スペイン、フランス)はギリシアのように負債を抱えて、構造改革と緊縮、気が遠くなるほど長期の負債返還を要求されることになるだろう。ドイツ政府のコロナ危機の措置は優れていて、フランスよりずっと国内の弱者に手を差し伸べているが、EUの勝ち組として負け組を助ける気はないようだ。

 コロナによる死か経済危機による死かと、比較することができない二つの現象を同じ表の上で計算する不吉な経済論理を持ち続けるかぎり、「コロナ後の世界」は破局へとまっしぐらだ。すでに「ショック・ドクトリン」は進行中であることが、「公衆衛生緊急事態」下でのマクロン政権のさまざまな行動に現れている。「屈服しないフランス」の調査委員会にヒアリングされた労働条件視察官は、労働省のトップは特定の産業部門を視察しないように視察官に圧力をかけていると証言する。ペニコー労働大臣は実際、ロックダウンが始まってすぐ建設部門の全国連盟(経営者団体)に工事現場を再開するよう圧力をかけた(3月20日の日誌)。労働法の尊重を使命とする労働条件視察官は、オランド政権下の労働法壊し(マクロン法、エル・コムリ法)とマクロンによる労働法のさらなる改悪に伴い、人数が減らされていた。しかし、ペニコー大臣は労働法を守る任務にあるはずなのに上場大企業の代弁者のようで、戦後最悪の労働大臣だと彼は述べる。

 「金持ちが貧乏人から盗むことはビジネスと呼ばれ、貧乏人が身を守ろうとするとそれは暴力と呼ばれる」(マーク・トウェイン)ペニコーは大臣になる前は「ビジネス・フランス」という公法人の総裁だった。

 死亡者数13832(病院8943人 EHPAD4889人)、入院者数31320(重症6883人)

●4月12日(日)


*病院の前の垂れ幕「LVMH, PSA(プジョー・シトロエン)、ブイーグ(ゼネコン)BNP(銀行)、税金を払え。病院は慈悲がほしいのではない」(公共サービスの予算削減は大企業の脱税が原因なのに、少しの寄付でイメージアップを図る大企業にふざけるなと言っている)

 27日目。明日月曜の夜にまたマクロンの演説があり、ロックダウンをいつまで続けるかなどが告げられる予定だという。Inserm(国立健康医学研究所)の研究者による予測モデルも発表されたとのことだが、モデルではなく現場の疫学調査(どのくらいの割合の国民が感染したかは検査がなくても世論調査の方法で割り出せる、どんな経路で感染したかも調査で推測できる)がなぜなされないか、と2003-5年に健康省の健康局長を努めた疫学者のウィリアム・ダブがいくつかのメディアで批判した。実態をつかんで、感染者をホテルなどに隔離する措置を計画的に進めなければ、ロックダウンはいつまでも続く(今の形のロックダウンは感染予防の努力を国民だけに押しつけている)という警告だ。そして、危機管理の指揮を誰がとっているのか不明瞭で、戦略がないように見えると表明。本当に、あたふたして後手後手の対応、でもいかにも「ちゃんと管理している」ふうに装おうことばかりにエネルギーを注いで、肝心な措置が全然進まない。医療部門は全力を尽くし、集中治療室の重症患者数は少し減ってきたようだが、テストもマスクも国から明確なプランは発表されず、ホテルの徴用もない。感染抑制を各自の自己責任だけに押しつけ、この先の経済危機も自己責任にさせられそうな、超無能・無責任で不誠実な為政だ(日本と似ている)。大勢の死者が既に出て、これからも出るのだから悲惨である。

 マスクといえば、町でマスクをつけた人がどんどん増えてきた。布製でもつけた方がいいという意見が優勢になったこともあるが、サージカルマスクをしている人も多い。前に紹介したメディアパルトの調査の続きが週末に掲載されたが、それによると国の発注は20億枚と言いながらそのうち3500万枚しかまだ入手できない状況だが、企業と自治体が発注した分は5000万枚以上が届いたそうだ。国(健康省)にマスクの供給を提供したが返答をもらえなかった業者が何人かいて、その後マスク輸入が自由化(3月21日、それ以前は国が徴用)されたので経産省に連絡して許可を受け、彼らのサービスは企業に向けられた。500万枚以上しか徴用できない政令を出したのが大きな間違いだったわけだが、医療スタッフ用に不足しているのだから迅速に変更すればいいのに・・・500万以上の地域圏の発注が国に徴用されたというスキャンダルもあった。医療スタッフなどに必要なFFP2マスクの数が何枚あるのかなど、情報がすべて不透明(曖昧な発表、虚偽の発表、正確な数は出さない)な点もひどい。医療スタッフなどのために、週に4000万枚が必要だとされている。(2億届いても5週間分)

 一方、配達の人にはまだマスクをつけていない人も見かける(とりわけUberEatsやDeliverooなどのフードデリバリー)。レストランはすべて閉まったかと思いきや、出前は許可されているのだ。でも何故だろう、必要不可欠の経済活動ではないはずだ。デリバリーのビジネスはコロナ危機以前から、労働法を犯したひどい搾取だと問題にされ、プラットフォーム企業に対する訴訟も行われてきた(従業員として給与を払い労働法を適用すべきなのに、自営業者としてすべて自己責任で働かされる)。ケン・ローチ監督の映画"Sorry, We missed you"を見た人も多いだろう。フランスでもフードデリバリーが近年、急激に発達したが、2017年にこの部門で働く若者たちが初めてデモを行った。パリではCLAPという団体が立ち上がり、労働条件の改善を求め、訴訟を闘っている。彼らは、衛生状況がただでさえ悪いフードデリバリーは、コロナ感染中は全部閉鎖すべきだと主張する(アマゾンなども同様)。この部門で働く不安定雇用の若者たち(闇で働く外国人にも)にはむろん国の援助が必要だが、感染の広がりを抑え、配達人の健康を守るためにはそれしかないと。

 死亡者数14393(病院9253人、EHPAD5140人)、入院者数31826(重態6945人)。ご存知の方も多いだろうが、コロナ感染について優れた論文(日本語)を教えてもらったので紹介する。 https://www.iwanamishinsho80.com/post/pandemic

●4月13日(月)

*壁の落書き「マクロンウイルスに殺された、愛は死んだ」

 28日目。今晩20時にマクロンはまた演説した。30分近くの演説のヴィジョンは支離滅裂で、疫病措置としてやるべきことの的が外れている。5月11日からロックダウンを解き(高齢者や障害者はそれより先)、保育園、小中高校を徐々に開校するという。つまり親を仕事に行かせるためだ。一方、レストラン、カフェ、映画・演劇など文化・娯楽部門は閉鎖のまま。大学も夏まで閉鎖。テストは症状のある人向けというから、既に感染したかどうかは不明のまま、社会的距離をとるのが難しい子どもたち(感染しても無症状が多いと言われる)の接触が増大する。テストと共にマスクの数も増え、「自治体長と連携して」支給するらしいが、具体的に何を何枚どう配布するのかわからない。

 具体的な措置は水曜の閣議以後、とりわけ2週間後に発表とのこと。要するに時間稼ぎだ。テストやマスクがまだ足りず、明確なロックダウン解除のプランは検討中ということだろう。そして、経済を元どおりにしようという意思が見え見えなのに(被害の大きい部門や貧しい層への援助を約束したが、具体的な内容はなし)、ロックダウン後は自ら「再発明」しなければならないと言い、「人間と市民の権利の宣言」(1789年)の第1条やCNR(全国抵抗評議会)が使った「幸福な日々」、友愛、連帯、健康のための計画などの言葉を散りばめる。「黄色いベスト」運動の時のスピーチのときと同じように、理解や同情を装うが、誠意が全く感じられない。いや、黄色いベストのときは身の危険を感じたせいか、もっとぐらついたようだった。15000人近くの死者が出て、ロックダウンで失業や未来の不安に苦しむ人が大勢いて、自由を制限された異常な日常をみなが生きているというのに、この男はおそらく何も学ばず、変わらない。先日、パリ郊外の病院をマクロンがメディア抜きで訪問した際、大統領官邸が医療スタッフの言葉を大幅に削って流したビデオはプロパガンダだった(抗議する医療スタッフを撮影した内部のビデオがSNSに流れて、実態がわかった)。

 一方、3月31日から必要不可欠な部門以外全ての経済活動を禁止したスペインではピークを超えたので、今日から少しずつ活動に戻る体制に入った(レストランや食料品以外の商店は閉鎖)。市民にはマスクが配布され、職場でも他の人との距離は2メートル取り、必要な防護用品をつけるなど明確な規則が設けられている。また、大規模な調査による国民の感染率の推定も進んでいるという。

 死亡者数14967(病院9588人、EHPAD 5379人)、入院者数32113(重症6821人)

   飛幡祐規(たかはたゆうき)


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