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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕戦争に物申す俳優たちがいた/『俳優と戦争と活字と』
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毎木曜掲載・第173回(2020/10/1)

戦争に物申す俳優たちがいた

『俳優と戦争と活字と』(霤銚Ω 著、ちくま文庫、1100円)評者 : 大西赤人

 筆者は、日本における映画全盛からテレビ成長への端境期に幼少時を過ごした。親が大変な映画好きだったので、三つ四つの頃から近所の映画館へ頻繁に連れて行かれていたらしい。もちろんその頃の事は覚えていないわけだが、幼い字で「うたまろをめぐる5にんのおんな」(『歌麿をめぐる五人の女』監督=木村恵吾、1959年公開)と書いた手帳が残っていたりするし、『刑事』(監督=ピエトロ・ジェルミ、1960年公開)のチョークで象られた死体のシーンなどは、今でもハッキリ記憶にある。

 しかし、その後は足が悪くて外出が次第に困難になったため、十代後半に松葉杖を使いはじめるまでは、映画館に出かける機会は全くなくなってしまった。それでも映画への愛着は続き、映画雑誌を購読したり、猪俣勝人、田山力哉による文庫版『(日本、世界)映画名作全史』『(同)映画俳優全史』(社会思想社)シリーズや、大判の『世界映画作品・記録全集』(キネマ旬報社)シリーズを買い揃えたりして、繰り返しページをめくっていた。つまり、実際に観てはいない作品や俳優であっても、ブッキッシュな知識としては一定程度持っていたということになる(それに加えて、親から昔話として聞かされる情報もあった)。

 本書の冒頭、著者・霤弔蓮◆崗赦造乏萍した俳優が好きで、そうした人たちが書いたり、語ったりしたものを高校時代から蒐《あつ》めてきた。映画・演劇・放送関係の本や雑誌、俳優が書いた(語った)本、プログラムや広告の類いまで、いろいろである」(「はじめに」)という。1974年生まれの彼は、大西よりも約二回り若い。その霤弔蓮◆崘侏イ燭舛修譴召譴綴り、語った」「戦争体験、メッセージ」を一冊にまとめることにより、「見えてくるもの、聞こえてくる声があるのではないか。戦争を知らない世代の、これもひとつのアプローチの仕方ではないか。そう考えて、この本を書いた」と記している。

 ここには、数多くの(主に)俳優たちが登場する。たとえば阪東妻三郎(写真)、山田五十鈴、片岡千恵蔵、鶴田浩二というように、現在でも相当程度知られているであろう人に留まらず、たとえば友田恭助、信欣三、佐々木孝丸、江見俊太郎というように、通人でなければなかなかピンとこないかもしれない人にもそれぞれ紙幅が費やされている。上記した通り、筆者の場合は実際の見聞に加えてブッキッシュな知識も幾らかはあるので、ここに出てくる俳優たちの大半については幸いにも一定のイメージが湧く(それでも、まるで知らない個々のエピソードは多々あった)。しかし、とりわけ若い世代にとっては、個性豊かな綺羅星のごとき俳優たちが並んでいても、単なる記号のごとき名前の羅列に見えてしまうのかもしれないと思うと、残念ではある。

 霤弔蓮俳優たちの単著はもちろん、テレビのインタビュー、新聞・雑誌のコメントまで、戦争に関する彼らの言及を丹念に掘り起こし、再現する。それらを見ていて強く感じる事は、戦争の悲惨を体験した俳優たちが――自身が意識的に口を鎖さない限りは――思いのままに言葉を発していることだ。当然、敗戦から間もない時期であれば、反戦的、厭戦的な発言もしやすい、むしろ歓迎される嫌いさえあったかもしれない。しかし、なお十年、二十年、三十年が過ぎてからも、戦争に対して明確に物申している姿が窺われるのである。

 言うまでもなく、今日においても同じように発言を行なう人々は存在する。しかし世間は、俳優――あるいは芸能人一般が――僅かに政治批判的なコメントをしただけでも、一斉に「反日」「非国民」と吊し上げにかかりかねないほどに歪んでいる(ここには、霤弔「あとがき」で「映画・演劇界の国策協力と戦争責任論など」に触れられなかったことを自ら「戦後八十年に向けての宿題か」としているように、背中合わせの大きな問題もあろう)。

 終戦時二十歳だった人が今では九十五歳、十歳だった人でも八十五歳である。現役の俳優として戦争を体験した人、それを語ることが出来る人は、どれほど残っているだろうか。離散しかねない多くの証言を集約し、活字に定着させたものとして、意義ある一冊と思う。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子・志水博子、ほかです。


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