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LNJ Logo 山口正紀のコラム:メディアは「少年法厳罰化」に加担するのか
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●山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第6回(2020/8/21 不定期コラム)

メディアは「少年法厳罰化」に加担するのか――少年の立ち直りを妨げる「実名報道解禁」案

 新型コロナ禍のどさくさにまぎれ、安倍晋三政権・法務省が、少年法の精神を踏みにじる「実名報道解禁」など「18・19歳少年法厳罰化」の大改悪を企んでいる。

 法制審議会の少年法・刑事法部会は8月6日、少年法「改正」に関する議論の「取りまとめに向けたたたき台」を公表した。法務省が目論む「少年法適用年齢の18歳未満への引き下げ」は見送られたが、実質それに近い「18・19歳の厳罰化」が盛り込まれた。家庭裁判所から検察官に送致(逆送)して少年を刑事裁判に付す対象事件を大幅に増やし、検察官が起訴すれば氏名や顔写真など本人を特定できる「少年実名報道」も解禁するという。(*写真は8月6日の法制審議会/報道より)

 凶悪犯罪も含め少年事件が大幅に減少する中で、今なぜ厳罰化なのか。メディアは「少年実名報道」で安倍政権・法務省に加担するのか。報道機関のあるべき姿が問われている。

 この議論のきっかけは、成人年齢を18歳とする民法改正(2022年4月施行)。法務省は17年2月、民法改正に合わせて「少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非」について法制審に諮問した。ことあるごとに「少年法厳罰化」を進めてきた法務省と自民党は、民法改正に便乗し、少年法適用年齢の引き下げを目論んだ。

 しかし、これをめぐっては、少年事件に関わってきた元裁判官や家裁調査官、少年院の関係者、弁護士などの間から、適用年齢引き下げに反対する声が次々と上がった。

 まず、少年事件そのものが大幅に減少している。警察庁の「犯罪白書」(19年版)によると、18年の少年刑法犯の検挙件数は約2万3000人で15年連続して減少し、08年に比べて約4分の1に激減、殺人などの凶悪犯罪も一貫して減少傾向を続けている。

 そんな中で、今なぜ適用年齢を引き下げる必要があるのか。処罰より立ち直りのための教育を重視する少年法は有効に機能している。可塑性の高い18・19歳を少年法の枠組みから外してしまうと、立ち直りの機会を奪うことになるのではないか――。

 こうした反対論に押された法務省は、適用年齢の引き下げについて当面、判断を見送る方向に転換した。代わって登場したのが、「18・19歳厳罰化」方針だ。

 少年法では、罪を犯した少年は全員家裁に送られる。現行法は、このうち殺人、傷害致死などの重大事件に限り、成人と同じ刑事裁判に付すため家裁から検察官に送致(逆送)する仕組みをとっている。この「逆送対象」を大幅に増やそうというのが、今回の「たたき台」。18・19歳については、「法定刑の下限が1年以上の懲役などの罪」にまで対象を広げ、強盗、放火、強制性交なども「原則逆送」となる。

 日弁連(荒中会長)は8月7日の会長声明で、「原則逆送の範囲を、犯情の幅が極めて広い事件類型にまで拡大することは、家庭裁判所において諸事情を考慮した上で対象者の立ち直りに向けた処分をきめ細かく行うという現行少年法の趣旨を没却し、その機能を大きく後退させるもので、到底許容できない」と強く批判した。

 「たたき台」のもう一つの柱が、「実名報道解禁」。少年法61条は、20歳未満の時に起こした犯罪について、氏名や住所、年齢、職業、顔写真など本人が推知される報道(実名報道)を禁止している。「たたき台」はこれを改め、18・19歳については、起訴(公判請求)された段階で実名報道を解禁する方針を提示した。

 成人の場合でも、新聞・テレビなでに実名(犯人視)報道されると、本人ばかりか家族もバッシングの対象となり、社会復帰の重大な妨げとなる。また、容疑が無実であっても、いったん報道されると犯人視世論が定着し、冤罪を晴らす闘いの大きな壁になる。これは、あまたの冤罪事件で冤罪被害者たちが体験してきたことだ。 ただ、20歳以下の少年については、少年法61条が盾となって(一部週刊誌を除き)実名報道による人権侵害を防いできた。その盾を取り払い、「18・19歳の少年も起訴されれば実名報道で社会のさらし者にしてもよい」というのが「たたき台」の考え方だ。

 8月7日の新聞報道で実名報道解禁案を知った時、以下のような場面が頭に浮かんだ。某検察の取調室。家裁から逆送され、容疑を否認する18歳少年に検察官が語りかける。

 〈いつまでも否認していると、検察官としては起訴するしかなくなるよ。そうなったら、テレビや新聞、ネットはキミの名前も顔写真も全部出す。そんなことになってもいいのかい?罪を認め、反省していることがわかったら、キミを起訴しないですますこともできる。そうなれば、名前や写真がネットにさらされることもなくなる。さあ、どうする?〉

 そうして虚偽自白させた後は、「起訴しない」約束などホゴにする。悪夢の未来図だが、同じような場面は実際、痴漢冤罪事件などでたびたび繰り返されてきた。実名報道による脅しは、警察・検察が冤罪被害者に虚偽自白をさせるための常套手段に使われている。

 「たたき台」はこれを、18・19歳の少年事件にも拡大しようというのだ。

 本来、起訴の段階では、被疑者は無罪を推定されている。にもかかわらず、日本では起訴されると、裁判も判決も待たずに犯人扱いされて実名も顔写真も報道され、さらし者にされる。こんなメディアによる集団リンチ(=私的制裁)が少年にも拡大される。

 《少年法61条は、未成熟な少年を保護し、その将来の更生を可能にするためのものであるから、新聞は少年たちの狄騰瓩領場に立って、法の精神を実せんすべきである。罰則がつけられていないのは、新聞の自主的規制に待とうという趣旨によるものなので、新聞は一層社会的責任を痛感しなければならない。すなわち。20歳未満の非行少年の氏名、写真などは、紙面に掲載すべきではない》

 これは、ほかならぬ日本新聞協会の「少年法第61条の扱いの方針」(1958年決定)だ。当時に比べ、ネットの影響が格段に大きくなった現代、新聞・テレビなどの実名報道は直ちにネットに拡散され、社会復帰を著しく困難にさせる。もし、それが冤罪・誤報であっても訂正は不可能に近く、実名報道された少年の被害は取り返しがつかなくなる。

 《18・19歳少年法厳罰化へ/刑事裁判の対象拡大/法制審要綱原案/起訴後実名報道可に》(『朝日新聞』1面)、《少年法18、19歳厳罰化/要綱案/起訴後の実名報道解禁》(『読売新聞』社会面)――各紙は8月7日、この「たたき台」を大きく報じた。

 しかし、「実名報道」の主体となる報道機関として、それをどう受け止め、どのように対応しようとしているのかについては、各紙とも何も触れていない。

 法制審は、9月にもこの「たたき台」を正式決定し、法務省は来年の通常国会に「改正」案を提出する意向、という。もしこの法「改正」が通れば、メディアは検察の言いなりになって少年を実名報道するのか。それとも、新聞協会の「方針」を守り、少年法の精神を実践するのか。報道機関としての自主的判断と社会的責任が問われている。(了)


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