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「関西生コン事件」で起きていること〜閉塞感を打ち破る「長い名前の本」

   北 健一(ジャーナリスト)

 『労働組合やめろって警察に言われたんだけどそれってどうなの?(憲法28条があるのに…)』という、長い名前の本が、きょう(3/6)発売になりました。連帯ユニオン編、旬報社刊。1300円+税。私も一部を書いています(他の著者は錚々たる方々ばかりで恐縮します)。Amazon「労働法部門」5位。微妙な順位ですが、発売を待ちかねて買ってくれた人もいるのでしょうか。本書は、連帯ユニオン関生支部の役員、組合員らがのべ89人逮捕され、のべ71人起訴され、1年半にわたって身柄拘束で自由を奪われている人もいる事件(通称・関西生コン事件)をテーマにしています。

 本書は漫画家・葛西映子さんのストーリー・マンガで始まります。主役は関生支部組合員のオンちゃん、その妻ユニちゃんという猫たち。暴走する警察に一部マスコミが加担して作り上げられた「警察ストーリー」をまず描き、「実際」(実録バージョン)と対比し、世界の組合もコンプライアンス活動も紹介。まずはとくかく、これを読んで欲しいです。

 連帯ユニオン・小谷野毅書記長は一連の逮捕、起訴等を「労組壊滅作戦」(ルポライター鎌田慧さんのことば)の「3つの側面」を説明しますが、警察官、検察官が組合員や家族に「嫁さんが離婚すると言っている」とか「つづけているとまた逮捕される」などと言って組合脱退を迫っていることや、逮捕以外に組合員への解雇や就労拒否が相次いでいるというのが衝撃的です。

 宮里邦雄弁護士は働く者の団結が「犯罪」から「権利」へと転換した歴史から、それを逆に戻す関生弾圧を批判。「権利が侵害されたとき、侵害されそうなとき、これに抗するたたかいがなければ、権利は自壊する」。甲南大名誉教授の熊沢誠さんはイギリス労働運動史や関生の運動の特質に論及しつつ「労働条件の決定に対する参加権」「産業民主主義」の大切さを説き、関西の生コン業界において労使のたぐいまれな独力で築かれてきた産業民主主義を壊す攻撃への広い対抗を呼びかけています。共謀罪対策弁護団共同代表を務める海渡雄一弁護士は、この弾圧が共謀罪型であること、国連・恣意的拘禁作業部会への申し立てなどを報告。ベトナム反戦運動で「暴動罪の共謀容疑」で起訴され、無罪をかちとったシカゴ・セブンの言葉に胸打たれました。

 巻末では鎌田慧さんと竹信三恵子さん(ジャーナリスト)が対談しています。何冊も愛読してきた鎌田さんですが、若かりし日、全印総連の個人加盟組合の組合員だったことは初めて知りました。倒産争議での職場確保やストの赤旗が日常の光景だったその頃から労使関係が企業ファーストの方向になぜ変わってしまったのか? この苦い「現在地」を見据えつつ、ここからどうやり直すのか、考えさせられます。収録された労働法研究者、弁護士、自治体議員の声明は、ついに始まった反転の重要な一歩でしょう。

 私は、関生支部に特に深い理解があったわけでなく、何となく逮捕の初報(たしか産経のネット版)を見て、「何かやり過ぎでもあったのかな」と思った立場と、経済記者としていくつかの事件を取材してきた経験から、登記簿を取ったり現場に行ったり関係者の話を聞いたり公判を傍聴したり事件相関図を描いたりしながら、警察・検察の(起訴状にまとめられた)ストーリーを3事件について素朴に検証してみました。ひとたび警察が暴走すると、検察も裁判所も止められない。この事実に暗澹たる思いですが、前述した共同声明とともに、嵐のような弾圧の渦中で頑張り続ける組合員、家族の存在と支援の輪に加え、弾圧の前段で始まり、弾圧を利用してさらに広がる不当労働行為について、労働委員会が矜持と見識をもって救済命令を出していることは一条の光です。

 全体として本書は、関西生コン事件についての捜査当局ストーリー(その象徴が、関生支部・武委員長らが「大変なことになりますよ」とゼネコンを脅かした、というお話)に対し、アナザー・ストーリーを提示するとともに、憲法28条を無効化するかのような事件が起こるまでに追い込まれた労使関係をどう再構築していくべきかをめぐる社会的議論への一石となったように思います。働く場、だけでなくこの国を覆う閉塞感、息苦しさに違和感を抱き、何とかできないかなと感じている人々の手に届きますように。


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