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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 騒々しい出来事・事件をいかに受け止めるか
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 ●第39回 2020年1月10日(毎月10日)

 騒々しい出来事・事件をいかに受け止めるか

 新年早々から、矢継ぎ早に大きな意味を持つ出来事が続いた。1月9日(木)朝の新聞各紙の紙面では、イランがイラクにある米軍基地に報復攻撃、レバノンに逃亡した日産前会長カルロス・ゴーンが開いた記者会見、45名の障碍者を殺傷した「津久井やまゆり園事件」第1回公判という、平穏な日であれば、それぞれが幾面もの紙幅を独占するであろう3件のビッグ・ニュースをいかに配置するかで苦労した痕跡があちこちに見られた。この短い紙幅では、別途何度でも論じるべき「やまゆり園」事件を除く2件に触れたい。

 米国軍が、或る国の軍事指導者を、米国ではないまた別な国の領土内で殺害する「軍事作戦」は、さて、国際的にいかなる根拠で正当化され得るのかという問題は、事の発端として当然にもある。過てる「反テロ戦争」を2001年10月以降発動してきた米国の、傲慢なる超大国主義が感じ取られて、許しがたい。それでも、この事態を受けての米国とイランの政治指導部の言葉上のやり取りからは、それほどの緊迫感を感じなかった。私が18歳の時に遭遇した1962年10月「キューバ・ミサイル危機」の時には、学生下宿ゆえテレビもなく新聞報道で知っていただけだったが、展開されつつあったキューバ革命への熱い思いと共に、本当に震える思いで核戦争の危機を実感した。あの時に比して、さほど切迫感を感じない今回の「危機」の本質は何だろうと考えていた。テレビのニュース番組にも出演する某氏の呟きによれば、氏が米国・イラン関係は大事には至らないだろうと「予言」すると、他の出席者から微かな「失望」の反応を読み取ったという。戦争が勃発したり拡大したりすることを阻止するための言動を行なう草の根の人びとが存在する一方、「戦争を待望」する雰囲気がこの社会の「片隅に」渦巻いていることの証しだろうか。今後の情勢も予断を許さないが、事態は米国とイランの政治・軍事指導部の間でのやり取りのみで展開していくわけではない。常に理性的な判断を期待できるかと問えば、絶望的な資質の人物がかくも多くの国々の大統領や首相として君臨している時代である。社会の基層をなす民衆は、そのことを肝に銘じて、それぞれの状況で的確な選択をしなければならない時代が続く。

 多国籍企業の辣腕経営者時代のカルロス・ゴーンについては、批判的に指摘すべき事柄は多い。この〈非合法的な〉出国・逃亡劇も、途方もない金権を持つ者にして初めて可能になったものであることは明らかだ。同時に、現在ここで明かされた問題の核心の一つは、日本の司法制度の在り方に関わる次元においてだ、と確認することも重要なことだ。ゴーンが記者会見で訴えた、取り調べ検事による自白の強要、人質司法、人権無視の諸制限措置などは、内外の金権なき「容疑者」が夙に繰り返し訴えてきたことだ。その声は、ゴーンの派手な主張の1%も報道されてきていない。その意味でもこれを機に、弁護人としてゴーンに「裏切られた」高野隆の記したブログの文章は一読に値する。http://blog.livedoor.jp/plltakano/ 

 ベイルートにおけるゴーンの記者会見に対抗して、真夜中の反駁会見を行なった森雅子法相は「潔白というのなら司法の場で無罪を証明すべきだ」と語った。その後慌てて言い直したが、「有罪の立証責任は検察官にあり、被告に無罪の立証責任はない」という原理が、弁護士資格を持つ法相の内面で血肉化していないのだろう。共産党の志位委員長も1月6日の記者会見で「あれだけの重大犯罪の容疑者に対して、一定の保釈金を払えば保釈するという甘い対応をした結果」だと語り、「こうしたことが、曖昧なまま許されたら、日本はもう、法治国家の体をなさなくなる大問題」だと決めつけている(1月7日付け「しんぶん赤旗」)。そのうえで、お定まりの「検察、法務当局、法務省、政府の責任」を問い、「(保釈を認めた)裁判所の判断の問題も問われてくる」と語るのである。権力の座にある者も、これに対抗しているかに見える野党党首も、「被告は推定無罪」だとする刑事司法の原則を投げ捨てて発言していることは明らかだ。この場合は、とりわけ野党党首の「権力批判」の水準の〈低さ〉、言い換えれば「見当違い」を思う。

 迫りくる戦争の危機についても、或る事件の容疑者とされている超有名人の不法出国事件についても、ひたすら扇情的な報道に惑わされることなく、問題の本質を摑みたい。


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