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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕読むは三文の得/『崖っぷちの時代と川柳』
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毎木曜掲載・第138回(2019/12/19)

読むは三文の得

『崖っぷちの時代と川柳』(レイバーネット日本川柳班、2019年12月、500円)/評者:志真秀弘


*『崖っぷちの時代と川柳』を手にする乱鬼龍氏

 まずタイトルに引きつけられる。「危機の時代」はありふれていて工夫がない。「激動の時代」はどこかよそよそしい。「崖っぷち」には切迫感があり、他人事でない。さすが川柳子の本と思う。

 〈レイバーネット日本川柳班〉の本は『がつんと一句!―ワーキングプア川柳』(2010年)を皮切りに、『原発川柳句集―五七五に込めた時代の記録』(2013年)そして昨年暮れの『反戦川柳句集―「戦争したくない」を贈ります』とつづいて、これは4冊目の本になる。が、本といってもパンフレット様で、そこに気軽に手にとり、とにかく役立ててほしいとの狙いが感じられる。

 内容は、今年5月に開かれた〈『反戦川柳句集』出版記念シンポジウム〉の記録がおもで、高鶴礼子(ノエマ・ノエシス主宰/全日本川柳協会常任幹事)、宇部功(元小学校教諭/岩手県川柳連盟理事)、寺内徹乗(鶴彬を顕彰する会幹事/鶴彬通信『はばたき』編集)、楜沢健(文芸評論家/早稲田大学非常勤講師)の四氏は、いずれも川柳の今をとらえ、課題を提起している。それぞれの言葉に共通するのは〈川柳班〉へのつよい期待である。

 川柳が、江戸時代に世相・風俗を滑稽味や皮肉を交えて風刺する庶民文芸にはじまったことはことわるまでもないが、それを戦争と社会の現実をえぐる民衆文学へとたかめたのはまぎれもなく鶴彬(1909−1938)であった。〈川柳班〉は、その鶴彬に句作をとおして出会い、このシンポジウムはその「鶴彬体験」をいっそう深めるものになった。それが本書を読むと伝わってくる。


*5月19日のシンポジウム

 高鶴さんは、いまの政治にひそむ危うさを指摘しながら『反戦川柳句集』から「見たくないヒトがケモノになる姿」(一志)を引き、この句は戦争に材をとりながら、昨今の社会経済、あるいは日常生活、さらに人間の様相にも読める。そういうふくらみのある句こそ本質をとらえた句と評し、さらに「深い句を書いて」、そして「全身を賭けろ」と呼びかけた。宇部さんは、鶴彬のひとつの句を一週間かけて子どもたちと学んだ経験から、かれの句をいっそう広めたいと語る。寺内さんは、鶴彬は国民がおたがいに縛りあったその束を、ほどこうとしたのだと、川柳のあり方への見方を示す。さらに楜沢さんは、川柳の近現代史の大切さを説きながら、川柳欄を設けた『平民新聞』の先駆性を指摘する。そのうえでそれ以後の川柳史に『反戦川柳句集』を置いて考える必要性を説いた。

 楜沢さんは、著書『川柳は乱調にあり』(春陽堂書店、2014年)で「ワーキングプア川柳」以来の〈川柳班〉の活動を、非正規労働者、派遣労働者が急増する1990年代以後の状況下での先鋭な句作として評価した。「パニックが起こらぬように被曝させ」(笑い茸)、「水清き桜の国の汚染地図」(わかち愛)などの句とあわせ、乱鬼龍のプロフィール、笑い茸の川柳ビラ配布なども紹介されている。

 そうして今回の本=シンポジウム記録からは、あらためて鶴彬を導きの糸としながら、しかし、鶴彬の時代とは明らかに異なる社会状況を穿つために進もうとする〈川柳班〉の意欲も響いてくる。本書中の「沈黙の少女怖がるヤマトビト」(独狼)の示す国際的な視野はこれからへのひとつの手がかりかもしれない。ともあれこの「崖っぷち」からどう跳ぶか、〈川柳班〉への希望も大きく膨らむ。最後に付された「鶴彬年譜」はときどきの代表句が織りこまれた労作である。

 「名句とは、わかりやすく鋭くて深いもの」(乱鬼龍)だが、本書はそのための基本から応用までのヒントにあふれていて、読めば三文の得がある。

★報告集『崖っぷちの時代と川柳』は12/21のレイバーフェスタのブースで初販売します。レイバーフェスタの詳細

★購入のお申し込みはレイバーネット事務局まで。送料は3部まで180円です。TEL03-3530-8588またはメールで。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。


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