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毎木曜掲載・第131回(2019/10/24)

現実と虚構とのあいだで

『物語は人生を救うのか』(千野帽子 著、ちくまプリマー新書、924円)/評者:大西赤人

 牾┐里茲Δ鉾しい瓩箸い手垢のついた表現がある。この言い方は、人の手(技巧)が加えられた絵画は――対象が人であれ風景であれ――原物よりも綺麗に・美化されているという前提によって成立する。しかし、絵を前にすると、今度は猖槓みたい瓩△襪い廊犲命燭澆燭き瓩箸いι掌世しばしば使われる。もちろん、その場合、対象は原則として細密なリアリズムの絵画ということにはなるだろうが、ともかく、原物の美しさを原物に則して映し出す(はずの)写真にも等しい素晴らしい絵画という意味合いには違いあるまい。そうなると、三者――原物、絵画、写真――の関係性は入り交じり、犲命燭里茲Δ鉾しい絵瓩覆匹函判るような判らないような実は矛盾めいた話にもなってくる。

 これに似通った例に、ノンフィクション(現実)とフィクション(虚構)との対比がある。やはり手垢のついた犹実は小説よりも奇なり瓩箸いΩ斥佞猟未蝓⊆尊櫃傍きた出来事=リアルは、人の想像・創造した物語=ストーリーを超えていることが少しも珍しくはない。文芸評論を手がける文筆家・千野帽子(筆名は俳号)による『物語は人生を救うのか』は、前作『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書、未読)に続き、人間とストーリーとの関係、人間がストーリーを求める理由などを論じている。

 ストーリーの代表は小説などの形式によるフィクションだが、「できごとの法則、あるいは予測」もストーリーであると著者は述べる。ライフストーリーという言葉があるように、人は日々の無数の経験を取捨選択し、特にその因果関係を位置づけることによってなにがしかのストーリーを作り出し、認識し、解釈しようとする。本書の序盤に、千野はこんな命題を示す。

「犬が人を嚙むストーリーよりも人が犬を嚙むストーリーのほうが語る価値がある、と人はなぜ思うのでしょうか?」

 そして、「社会における〈 蓋然性の公準や道徳の公準〉から逸脱する」こと、珍しい出来事、けしからぬ出来事が「報告価値」を伴うストーリーの要点であるとして、爐修鵑覆療たり前と思うだろうが、そういう誰も言語化=可視化=意識しなかった事をわざわざ言葉にすることが、「文学理論の仕事の出発点」なのだ瓩筏す。このあたりからの展開は、本当はかなり難解な問題が読みやすく進み、自身曲がりなりにも物を書く人間の一人である大西として、非常に面白かった。

「虚構《フィクション》の対義語は現実《リアリティ》ではなく非虚構表象《ノンフィクション》(実話など) なのです」

 現実世界において、到底考えられないような出来事が起きる。それは間違いない。そして、実際に起きた事だから非虚構事象として示されれば否定しがたいし、文句のつけようがない。でも、同じような事象があくまでも虚構として綴られたら、爐△蠧世覆き甅爛螢▲螢謄がない甅猊然性がない瓩覆匹版妖櫃気譴襦B┐繊虚構とは、根本的には猖榲にありそうな事瓩任覆韻譴个覆蕕覆ぁF瓜に、虚構は、作り話であることを明示しながら立ち現われるはずであり、読み手はフィクションとノンフィクションとを混同してはならない。

「『噓は実話を装って流通するが、フィクションは公然とフィクションとして流通する』というわけです」

 千野は「偶然」に着目し、「偶然」を必然的な因果と解して自らのストーリーに取り込みがちな人間のありようの悪影響を指摘する。自分の経験を一般論に収斂させて判ったつもりになり、結果的に独自性を喪ってしまう。

 終章の第6章に至り、著者は、子供時代、毎年盆と正月に母方の祖父母の家を泊まりがけで訪ねていたのに、高校一年の夏を最後に行かなくなったという話を語りはじめる。顔を見せに行こうと思いつつも、十年後に祖母が亡くなるまで、ついに一度も足を向けることがなかったという千野は、それからまた二十数年が過ぎた2016年になり、突然、自分が祖父母の家を訪ねなくなった真の理由に気づく。その真相は際立って異常なものではなく、読む限りでは、いささか祖母に対して気の毒に思えるところもあったが、個々人の持つ世界観、それによって生成されるストーリーの結果として考えさせられるものだった。

 また、人が燹崋分が被害を受けた」という自覚を持つこと瓩鉢燹嵌鏗下坩媼院廚鮖つこと瓩箸琉磴い亡悗垢觸盤の言及についても大西の関心と重複する部分が大きかったけれども、他日に譲りたい。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子ほかです。


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