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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕安冨歩『満洲暴走 隠された構造』
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毎木曜掲載・第128回(2019/10/3)

「立場主義」に毒されていないか

『満洲暴走 隠された構造』(安冨 歩、角川書店、880円)/評者:大西赤人

 本書は、「東大話法」、女性装、選挙出馬などで近年何かと話題の多い経済学者・安冨歩が2015年に出した一冊。「現代日本には未だ『満洲』が残っている」との刺激的な惹句が踊っているが、元々安冨は満州国の経済史が専門の人なので、本来のフィールドにおける著書である。冒頭には――

「『満洲』という言葉を聞いて、皆さんはどんな風景を思い浮かべるでしょうか」
「お若い方ならそもそもイメージが湧かないかもしれません。それどころか……『「満洲」って、なに?』言葉そのものをご存じではない方もおられるでしょう」

――と書かれているけれども、実際、インターネットのGoogleで「満洲」を調べてみると、トップに出てくる検索結果は、「ぎょうざの満洲」である……(ちなみに、同社・金子梅吉会長は社名の由来について、「満洲里、一番最初に付けた屋号です。中国の満洲里から取った屋号です。この後に付けた屋号は満洲飯店」「私は昭和11年生まれ」「兵隊帰りの人が(中略)中でも満洲帰りの人が多かった」「たまたま私の兄が満洲からの復員兵で、満洲での生活が長かった。兄に良く聞いた食べ物が餃子の話でした」「中華と言えば満洲〜何も迷わず屋号に満洲とつけてしまいました」と語っている。当時の「満洲」が持っていた一面を表すとも言えよう)。

 本書の中で安冨も「日本の教育におけるこの『近現代史軽視」は「都合の悪いことの隠蔽工作」と述べる通り、明治以降、日清、日露戦争の狆〕瓩忙呂泙蝓太平洋戦争の決定的敗戦に至る日本の歴史において、極めて重要な要素となっていたであろう「満洲」に関する知識・情報がどこまで今の日本人に浸透しているかとなれば、極めて疑わしい。著者は、「社会においては、さまざまな物事が関連し合い、関係が連鎖して運動」し、「因果は一方向に流れるものではなく、循環」しているから、「『原因→結果』という枠組み」にこだわることなく、「ある要素とある要素との間に相互促進作用が生じる」「ポジティブ・フィードバック」に着目する。これは俗に言えば「雪ダルマ式」や「風が吹けば……」に似ているし、少しスマートには「バタフライ・エフェクト(爛屮薀献襪任猟海留ばたきが、テキサスで竜巻を引き起こすか?瓩箸いΕオス理論の問いかけ)」にも通じるかもしれない。

 「大森林・大草原・大湿地帯」でしかなかった満洲は、各国の思惑が絡まり合う中、鉄道、馬車、大豆などの要素が連動しながら、短い年月で狄燭段燭蕕並臚θの地平線に夕陽が沈む疔洲へと変貌する。もちろんそこには、満鉄(満州鉄道)、関東軍、満州国というように、日本の大きな関与・介入が存在したわけである。安冨は、この「ポジティブ・フィードバック」は折々の時点で誰かが決断すれば止め得たと考えるのだが、実際には、「すでに起きてしまったことを受け入れ、『前向き』 に捉えてなんとかうまく処理する態度を賢明」と見做すカッコ付つきの「現実主義」を生み出し、壊滅的な暴走へとつながってしまったと分析する。

 このいわゆる「満洲」成立の経緯は、満洲の大地に蓄積された有機物が大豆粕(肥料)の形で輸入されて日本の農業生産性上昇につながったとか、中国の「廟会」は(日本の「初詣」が鉄道各社のPRで定着したように)満鉄によって一大行事化されたのではないかとか、満洲で拡大した大豆生産は今や世界的には家畜飼料の役割が大きく日本人がハンバーガーや牛丼を食べると結果的に(大豆畑に転用されて)アマゾンの密林が消えて行くとか、「ポジティブ・フィードバック」のスピン・オフ的な出来事も知らされて面白い。

 本書を読んでいて、話し言葉ふうの軽さが時おり気になるところがあったのだが、「あとがき」に至り、この本は、講演の録音を起こしたテキストと議論を基にながたかずひさ(脚本家・作家)が初稿を書き、さらに安冨が手を入れたものと判った。そのせいもあってか、満洲における「ポジティブ・フィードバック」と同様の状況を現代に見出す後半部分は、やや実証性に乏しく、大雑把な印象を受ける。それでも、大西として非常に感じるところがあったのは、「立場」、それに基づく「立場主義」「立場主義イデオロギー」という概念、そして「いまもなお続く日本の宿痾《しゅくあ》、それが『立場主義』です」なる安冨の断言であった。詳しくは本書現物に譲るとして、著者は、「自分の立場を守ったり、他人の立場を脅かさないため」に「筋道が通ってなくても、効果がないどころか逆効果でも、だれかの立場を守るためなら、それらが延々と実行されます」と「立場主義」を厳しく批判する。安冨の指摘がそのまま大西の言動に当てはまるとは考えないが、少なくとも「立場」という言葉を日頃からしばしば使っている――むしろ多用している――ことは間違いないように思う。知らず知らず「立場主義」「立場イデオロギー」に毒されてはいないか、今後、自省すべしと考えた次第である。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子ほかです。


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