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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『朝鮮学校を歩く―1100キロ/156万歩の旅』
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毎木曜掲載・第127回(2019/9/26)

一歩踏み出して見えたもの

『朝鮮学校を歩く―1100キロ/156万歩の旅』(写真・文 長谷川和男、編 朝鮮学校を歩く刊行委員会、花伝社、1800円、2019年7月刊)/評者:佐々木有美

 2018年、スウェーデンの16歳グレタ・トゥーンベリさんは、温暖化に反対して一人で学校ストライキに立ちあがった。2017年、70歳の長谷川和男さんは「朝鮮学校にも高校無償化を!」の幟旗を持ち、九州から北海道まで一人で全国67の朝鮮学校を訪ね歩いた。登山で鍛えた体とはいえ、時には、暑さの中、熱中症寸前になったことも。高校無償化から外され、裁判を起こした朝鮮学校生徒たちを励ましたいという一心が、行動の原点だった。一人で始めるのには勇気がいる。でも、「一歩踏み出せば道は開けた」。

 旗を掲げての単独行脚。危険なことはなかったのだろうか。旅中、長谷川さんは、在日の人々はもちろん、多くの日本人からも激励をうける。「世の中、捨てたものではない」。マスコミ報道と現実はちがうのだ。もとは、東京の公立小学校の教員だった著者は、ずっと朝鮮学校との交流を続けてきた。「在日朝鮮人が学ぶ『民族教育』を保障するのは、植民地支配をした日本の責任ではないか。民族の言葉を学び、民族の歴史や文化を学ぶことを保障する責任は、日本政府にこそある」と考える。

 朝鮮学校のことは、それなりに知っているつもりだった私だが、本書を読んでそれがどんなに上辺のものだったのかを、思い知らされた。朝鮮学校は、東京や大阪の大規模校を別に、地方では小さな学校が多数点在している。小・中学校では20人規模から一桁まで。写真には、一人の先生に一人の生徒の授業風景もあった。生徒より教員、職員の多いところも。生徒数の減少などで、統廃合が進んでいるのだ。授業料でまかなえない費用は、親や、支援の人々の必死の努力で賄われている。長野の学校では、長谷川さんとの懇談中でも、オモニ(おかあさん)たちは、財政支援のためのチマチョゴリ人形作りの手を休めることはなかった。


*写真=著者、無償化訴訟・東京地裁「不当判決」の日(2017年9月13日)

 67の朝鮮学校には、それぞれ存立の理由がある。東京や大阪など多くの朝鮮人が住んでいたところはもちろん、和歌山には、1922年ごろから石油会社の労働者や紀勢線建設で動員された朝鮮人が多く住んでいた。岐阜に住み着いた在日一世は、ダム建設や鉱山、道路建設などに従事していた。愛知では、瀬戸の焼き物を作っていた一世がいた。戦後、植民地支配で言葉を奪われた一世たちが「国語教習所」として始めた朝鮮学校は、日本政府の弾圧にもめげず、大切に守られてきた。しかし、統廃合がすすむ今、北陸の学校は現在休校中だ。地元の在日の人は「朝鮮学校がなくなると、在日社会のコミュニティの拠点がなくなる」と嘆く。朝鮮学校の再建がみんなの願いだ。

 学校を訪ねると生徒たちに「日本人なのに、なぜそんなに熱心に応援してくれるのか」と必ず質問された。長谷川さんは、いろいろな答えをしているが、あるとき「自分のため、自分が誇りと尊厳をもって生きていくために」と答えている。この旅の期間に、三つの裁判の地裁判決が出た。大阪は勝訴したが、広島と東京は敗訴。広島の判決には「朝鮮学園が就学支援金を、本来の目的に充当するかどうか判断できない」とあった。長谷川さんは「何をたわけたことをぬかすか!」と憤った。「給料の遅配、欠配を度外視して働いている先生たち、オモニたちの苦労を知りもしないで、よくこんな判決が書けるものだ」。

 読んでいる中で、わたしの知人の日本人が何人も登場した。みなさん、教育問題にかかわっている人たちだが、彼らの持続する連帯の姿勢に心を打たれる。朝鮮学校は決して孤立していない。たとえば、「ウリの会」は、多摩地域の支援ネット。キムチ販売や毎月500円のカンパを集めている。札幌では、毎年公立学校の教員との交換授業会が開かれもう22回も続いている。拉致問題が浮上しても途切れることはなかった。また、新たに学校を地域に開く試みも始まっている。

 長谷川さんは、日朝の長い歴史の大半は、相互尊重、相互親善の関係にあったとし、「秀吉の時代と明治維新以降の近現代史だけが、暗く恥ずべき侵略の歴史として刻まれている」と書いている。平和で友好的な関係を私たちはどう取り戻すのか。無償化の問題は、もっとも身近な試金石でもある。

 全編、長谷川さんが生まれて初めてもったタブレットで撮った写真が多数収録されている。何より、子どもたちの笑顔が印象的だ。朝鮮学校のモットーは「一人はみんなのために、みんなは一人のために」。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子ほかです。


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