〔週刊 本の発見〕『黄色いベスト運動 エリート支配に立ち向かう普通の人々』 | |
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大きな岐路に立つフランス堀茂樹、松尾匡、コリン・コバヤシほか『黄色いベスト運動〜エリート支配に立ち向かう普通の人々』(ele-king 臨時増刊号 2019 vol.1)/評者:菊池恵介
周知のとおり、問題の発端となったのは、ガソリン税の値上げである。2017年に当選して以来、マクロン大統領は、大企業や富裕層への減税を打ち出す一方、公共サービスの縮小や社会保障費の削減、逆進性の高い税制改革などを粛々と進めてきた。イギリスのブレア政権(1997-2007)やドイツのシュレーダー政権(1998-2005)が実施した構造改革をフランスで断行し、大企業の国際競争力を高めて行こうという戦略だ。地球温暖化対策を名目に打ち出されたガソリン税の値上げも、「いわば周回遅れ(の)新自由主義」(堀茂樹インタビュー)の一環をなしている。だが燃料費の高騰は、賃金水準の低迷と物価の上昇にあえぐ中流層・低所得層の生活を直撃した。とりわけ、公共サービスの縮小により、近所の病院や学校、郵便局などが閉鎖し、マイカーなしには通勤や買い物さえままならない地方の住民たちの怒りに火をつけた。こうして、昨年5月にインターネット上で、増税反対署名が始まり、やがて11月17日のデモへと発展していった。 「黄色いベスト運動」が始まった当初、翼賛化する国内の主要メディアは、デモ参加者たちを「暴徒」、「排外主義者」、「ポピュリスト」などと報じるネガティブ・キャンペーンを展開した。イギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ当選に続き、フランスでもルペンを支持するポピュリズムが台頭し、温暖化対策に取り組むマクロンの辞任を求めて暴徒化しているという報道である。だが本書が示しているのは、新自由主義へのあらゆる対抗勢力にポピュリズムの烙印を押し、批判を封印するエスタブリッシュメントの退廃ぶりである。 1980年代以降、新自由主義が左右の二大政党の間で既定路線となってから、ヨーロッパにおける階層格差・地域格差はじりじりと拡大してきたが、この間、生活苦をじっと耐えてきた「声なき大衆」の忍耐力も、いよいよ限界に近づいている。このまま富裕層優遇の政治を続け、21世紀の階級闘争に突入していくのか。あるいは、地球にも環境にも優しい別な経済システムへの移行を目指すのか。「黄色いベスト運動」の登場により、いまフランス社会は大きな岐路に立たされている。 →「黄色いベスト運動」を知るのに最適のビデオ。ぜひご活用ください。 Created by staff01. Last modified on 2019-06-28 11:10:55 Copyright: Default |