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毎木曜掲載・第112回(2019/6/6)

大正天皇の実像が照らすもの

『大正天皇』(原 武史 著、朝日文庫、朝日新聞出版、820円)/評者:大西赤人

 一国だけで通用する平成から令和への元号移行を大きな社会的転換であるかのごとく位置づけて大騒ぎした先頃の日本の光景は、心理学的成語である「同調圧力」を超えて、むしろ人心における「同調願望」あるいは「同調欲求」と未確立の表現で呼ぶほうが相応しいとも感じられた。たしかに、牴甬遒鯔困譴襪吻瓩箸猯鮖砲乏悗椶Ν瓩箸と小うるさい事を言っているよりは、2019年5月1日なる極めて半端な区切りであろうとも、これをして狄兄代の訪れ瓩泙燭廊狷本の伝統ってすげェ!瓩箸いΩ諺曚砲劼燭垢蘓箸鯒い擦討くほうが安楽かもしれない。

 もちろん、今回は上皇明仁の生前退位に伴う改元だったから、とりわけ昭和天皇死去時の陰鬱な「御病状」報道や社会の過度の「自粛(萎縮)」を知る者であればなおさら、言わば明るく前向きに代替わりを受け止めることが出来たことは間違いあるまい。だが、それにしても、新天皇即位にあたり、衆議院が全会一致で可決した「賀詞」における「天皇皇后両陛下のいよいよの御清祥と 令和の御代《みよ》の末永き弥栄《いやさか》をお祈り申し上げます」なる文言の「御代」には仰天した(ちなみに、参議院の「賀詞」のほうは、「天皇皇后両陛下が御清祥であられ 令和の時代が悠久の歴史に新たな希望と光を添えるものとなりますよう 心からお祈り申し上げます」とまだしも控えめである)。

 安倍首相との際立った対比ゆえに、平成時代の天皇は、護憲、平和主義、民主主義などを文字通り象徴するかのような存在と化していた。いわゆる「左派」「進歩派」とされる人々であっても、言わば安倍批判の裏返しとして、天皇の――当然ながら直接に政治的な言動は許されないという範囲にせよ――言動を支持・称賛する姿が珍しくなくなった。そのような世相を踏まえれば、今後、安倍政治への表層的なカウンターパートとして、開かれた皇室のイメージとともに、新天皇がその存在感をますます増大させて行く可能性も大いに想像される。仮にそれが一旦は安倍政治へのブレーキ役を果たすとしても、より本質的にいかなる意味を持つかについては、冷静に考えなければならない。

 本書は、近世日本の天皇の中では、明治天皇(在位45年・59歳歿)、昭和天皇(在位64年・87歳歿)、そして上皇明仁(在位31年・85歳退位)に比して格段に影が薄い大正天皇(在位15年・47歳歿)の実像を掘り下げようとしたものである(2000年に朝日選書として刊行され、毎日出版文化賞受賞。2015年、文庫化)。著者の原は、「大正天皇は生まれながらの病弱で精神を病んだ天皇であった」という人口に膾炙《かいしゃ》した風説に疑問を抱き、天皇の周囲にあった皇族、重臣、侍従などの日記や証言、あるいは折々の巡啓、行啓の模様を報ずる新聞記事などを引きながら検証を試みる。(*写真右=大正天皇)

 言うまでもなく、何せ対象は天皇であるし、時代背景にも鑑みるならば、彼らによる様々な――伝聞をも含む――言及が、もとより真実ばかりであるとは限らない。しかし、それらの描写は、むしろ現代の我々のほうが過剰に警戒・自制しているのではないかと感じてしまうくらいに率直だ。大正天皇が生後間もなくから脳膜炎(髄膜炎)で生死の淵をさまよい、幼少期は病弱ゆえに種々の病を繰り返して学業も遅滞し、青年期(皇太子時代)には一旦回復して壮健さを見せたものの、即位後の激務により再び悪化したという経緯は確実と思われる。また、その自由奔放な行状には、今で言う発達障害や学習障害の気配も感じられる。12歳時、東宮大夫(皇太子一家の世話役)による明治天皇への報告は斟酌《しんしゃく》ない。

「(読書や馬術は著しく進歩したが)御読書御進歩ノ割ニハ意味ヲ解セラルルコト御乏シト、算術ハ他ニ比較スレハ御困難ナリ」

 1921(大正10)年11月、後の昭和天皇が摂政に就いた当日、宮内省が発表した大正天皇の病状もまた、次のようにあまりにも直截である。

「大正三、四年の頃より、御起居以前の如くならず、御姿勢は端整を欠き、御歩行は安定ならず、御言語には渋滞を来たす様ならせられたり」
「御脳力は日を逐ひて衰退あらせらるゝの御容体を拝するに至れり」
「御脳力の衰退は御幼少の時御悩み遊ばされたる御脳病に原因するものと拝察することは、拝診医の意見一致する所なり」

 ただし、それは、大正天皇が終生無能の人であったことを意味するわけではない。様々なエピソードは、大正天皇が――明治天皇や(特に戦前の)昭和天皇に較べれば――遥かに人間味のある存在であり、天皇という不自由な枠に縛られることを忌避していたことを物語るかもしれない。そして、だからこそ大正天皇は、日本という国家が明治天皇から昭和天皇へと強大な天皇制のもとで引き継がれていく過程において、周囲の思惑により、好都合な飛び石ないしは捨て石として利用されたように感じられる。今日《こんにち》、大正天皇について改めて知ることは、別の意味の狄兄代瓩遼れに備える手がかりとなり得るように思う。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、ほかです。


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