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日韓請求権協定で被害者個人の請求権は消滅していない〜国際人権学術シンポジウム

 4月20日、東京・弁護士会館において「戦争及び植民地支配下の人権侵害の回復と平和構築に向けて」と題されたシンポジウムが開催され、200人以上が参加した。シンポジウムでは、韓国の元徴用工に対する日本政府の対応に関して、日韓請求権協定に詳しい有識者や元徴用工訴訟に関わる韓国弁護士がパネリストとして参加した。

 冒頭に主催者挨拶として登壇した日弁連副会長・白承豪さんは「本日取り上げる強制動員問題は、専ら日韓両国の国家間の政治問題としての側面が強調されているが、被害者の人権の回復と平和構築について世論に惑わされることなく、冷静に考えて頂きたい」と開催趣旨を述べた。

 続いて山本晴太弁護士(日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員)が「日韓両国政府及び裁判所における日韓請求権協定の解釈の変遷について」と題して基調報告を行った。山本弁護士は、日韓両国政府の日韓請求権協定の解釈がそれぞれ変遷してきたことを日本外務省の国会答弁や最高裁判決、韓国外務当局の答弁や韓国裁判所判決を示した上で、「日本国内の全メディアは、日本政府と全く同じ立場に立って『国際法上ありえない判断』と報じた。しかし、元徴用工の個人請求権を認めた2018年10月の大法院判決は過去の解釈を変えた訳ではない。日本マスコミは被害実態や被害者の声を報道していない問題があり、日本政府及び日本マスコミがこのような態度を取るのは、被害者の人権への無関心、植民地支配への反省の欠如があるからだ」と指摘した。

 パネルディスカッションでは、国際人道法・国際人権法の専門家である阿部浩己さん(明治学院大学教授)、日韓請求権協定の成立過程などを研究されてきた吉澤文寿さん(新潟国際情報大学教授)、韓国内の戦争被害者の救済に関わってきたチェ・ボンテ弁護士(大韓弁協日帝被害者人権特別委員会委員長)、中国人強制連行被害者の救済に関わってきた内田雅敏さん(弁護士)がパネリストとして出席した。

 阿部浩己さんは「国際法における『人権』は、国境や時代を超えた普遍性を持っており、国際人権法の解釈は成立当初ではなく解釈時点における支配的な法体系であるべきで、日韓請求権協定の解釈についても現在の法体系に寄るべきだ。現在の法体系に寄れば、過去の重大な人権侵害からの救済は被害者中心のアプローチが主流になっている」と日本政府が請求権協定成立時の解釈に固執していることの問題点を指摘した。

 吉澤文寿さんは「日韓請求権協定成立の過程においても、元徴用工に対する補償問題は解決することができなかった。日本政府は、植民地支配が合法であったことを前提にして植民地支配に対する賠償を認めていない。日本政府が植民地主義を正当化している以上、今後の日朝国交正常化交渉も進むはずがない」と日本の歴史認識問題についても指摘した。

 チェ・ボンテさんは「日本国内では『慰安婦』や徴用工についての人権侵害が行われたという認識が弱まっていると感じている。韓国の被害者は、日本の裁判所で救済されなかったために韓国の裁判所に救済を求めたのであるが、日本の裁判所でも被害の事実認定はなされている。日韓両政府が協議をして一日も早く被害者の救済のために動き出して欲しい。また日本のマスコミも被害者の声や韓国国内の動きを正確に報道して欲しい」と訴えた。

 内田雅敏さんは「戦争被害者に対する補償問題における解決の原則は、加害国が加害行為の事実を認めること、被害者に対する和解金の支給、加害行為を繰り返さないための将来の教育を実施することである。和解のための事業によって、問題の解決だけではなく当事者・当事国同士の理解を深めることができるはずだ」と述べた。

 韓国元徴用工裁判については、韓国国内での追加訴訟や日本企業に対する資産差し押さえ、さらには韓国原告側から国連・海外でのアピール行動などが予定されている。日本政府が対応を求められていることは、日韓請求権協定を盾にした対抗的な措置ではなく、韓国元徴用工被害者の人権回復のために植民地支配への反省を行動で示すことだ。

 また日本メディアにおいても、官邸や霞が関の対応ぶりを中心に報道しているのでは事実上の政府広報機関になってしまい、読者・視聴者離れが加速するだけだ。韓国国内の世論や韓国政府・民間団体が日本政府に対応を求めている背景について、相手国の文化や歴史、感情を理解してより踏み込んだ報道をすれば、マスコミの役割を大いに果たせるはずだ。〔金子通〕


Created by staff01. Last modified on 2019-04-22 16:47:04 Copyright: Default

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