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これでは真実はわからない〜ベネズエラ情勢をめぐる大手メディア報道

   森広泰平(アジア記者クラブ事務局長)


*2月号に掲載された風刺画


*記事の目次

 アジア記者クラブ2月号(313号)は、特集「いかにメディアはベネズエラ報道で合意の捏造を続けているのか」を組み、5本の重要記事を掲載している。同クラブ事務局長の森広泰平氏は同号の「編集後記」で邦字メディアの問題点を痛烈に批判している。以下、紹介する。

 * * * * * *

 米政府がベネズエラへの軍事介入も辞さないという政権打倒宣言を1月下旬に行ったことを受けて、それに迎合する邦字メディアの目に余る報道内容のデタラメさを座視できず、本特集を組むことにした。邦字メディアの記者も読者も全く関心と反応を示さないことが想定されるので、時間と労力を要するこのような特集を組むと徒労感に襲われるのだが、心を奮い立たせて、このベネズエラ報道がジャーナリズムに突きつける問題が何なのかを明らかにしたい。

▼テレスールの革命20周年の写真ルポは、チャベス前大統領(当時は中佐)が空挺部隊を率いて決起した1992年2月4日と並んで重要な日を伝えた記事なのだが、この写真(↓)を見てお分かりいただけるように、政府支持者は人種的にはミックスの人ばかりだという点に注目していただきたい。チャベス前大統領も先住民とスペイン人とアフリカから連れて来られた黒人のミックスだった。彼の口癖は「ミックスとはいいものだ」。

▼欧米のテレビや動画、邦字メディアも同じなのだが、政府批判を述べる人の圧倒的多数が白人だという点。ベネズエラの人口の70%が貧困層で、その大部分が政府を支持している。邦字メディアのように富裕層が住む地区だけで取材すると現実と全く違った世界を報道することになる。アジア記者クラブのツイッターにRTされる「独裁国家だ」という説明動画に登場する人物もなぜか白人だった。

▼中南米は世界で最も貧富の差が激しい地域であることを見逃してはならない。地平線まで自分の土地だという大地主もいれば、トタン屋根のバラックに大人数の家族がひしめき合って暮らしている。この両者は生まれた瞬間にこうした人生が決まってしまう。こうした不公平な社会を潰して正義を体現した公正な社会の実現を唱えて大統領に当選したのがチャベス大統領だった。中南米の歴史の中で、悲惨な現実に目を瞑らなかった政治指導者の多くは米国が支援する軍事クーデターで葬られてきた。

▼2002年4月のクーデターの直前、ベネズエラのスラム街バリオに入ったCNNのライブ放送を見ていた時のことだ。記者が疲れきった表情の住民女性の一人に尋ねた。「あなたはベネズエラがキューバのような国になってもいいのですか」。女性「ここには電気も水道もきていません。子供を学校や病院にやることもできません。キューバのような国になって、電気と水道がきて、子供を学校や病院にやることができるのなら、その方がいいです」と言った途端に画面が真っ黒になってしまった。忘れもしない場面だ。このバリオの住民は政府を支持している。こうした欧米主流メディアの歪みが国際衛星放送局テレスール開設の大きな理由になった。ちなみにCNNは、中国が海外放送を遮断して画面が真っ黒になると今も非難している。

▼2月1日にプレスセンターで、堪りかねたのか、セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使が情勢について記者会見を開いた。主要メディアは在京の地方紙も含めて勢揃いした。1時間続いた質疑応答で在京全国紙の外信部編集委員が述べた質問が「石油資源も豊富な国で、なぜ経済危機と食料不足が起こるのか」。現地駐在の経験もあり、イスパニア語学科卒。なぜこうしたレベルの低い、素人同然の質問が出るのか。理由は2つ。ラテンアメリカに関心がないこと。バイアスの激しい欧米主流メディアの転電ばかりして自分の頭で考えてこなかったからだ。これは邦字メディア全体について言えることだ。

▼今般のベネズエラ情勢を巡る報道をどう考えるかという問題は、ジャーナリズムのあり方を根本から問いかけているのではないか。日ごろ調査報道の必要性を説く記者も全く関心を示さないばかりか、何が問題なんだという口調(問題意識)だ。本通信で指摘したように、邦字メディアの鏡、NYT紙とWP紙を頂点とした欧米主流メディアが米国やNATOの国益や戦争に関わる記事になると、いかに歪められ好戦的なのか、検証を迫っているからだ。在京全国紙の社説も無残であった。読者や視聴者のメディアリテラシー(情報判読能力)が確たる基準を満たしていれば、100%見放され信用を失うのではないか。

▼チャベス前大統領が陸軍士官学校生の1974年、ペルー左翼軍事政権のファン・ベラスコ・アルバラード将軍(大統領)と面談して、著作『ペルー革命』を贈られて、チャベスは座右の書にしてきた。小学校は素足で通ったほどの貧困家庭の出身ながら陸軍士官学校まで首席で通し、白人で構成された軍上層部で先住民の血を引きながら陸軍参謀総長まで上り詰めたアルバラードはクーデターで政権を握った。公表されなかったインカ計画は社会主義計画であった。国連児童基金(ユニセフ)に表彰され、後に武装闘争で名を馳せたペルー共産党からも支持された軍事政権を率いた。現在のペルーからは想像できない政治の時代だった。ベネズエラの軍と民衆の関係を考える上で重要なヒントがここにあると考えている。

▼米軍の軍事侵攻があった場合、ベネズエラは抗戦できるのか。2002年4月のクーデターが失敗した直後、軍関係者が多数関与したことで、大統領警護隊長らは軍の再編を訴え、この15年間、実行されてきた。チャベス前大統領の後輩ばかりになった。ムーン・オブ・アラバマは「腐敗した軍部」と辛辣だが、キューバ軍との交流、同国の軍事顧問団の影響がどこまで及んだのかは分からない。10万の民兵部隊にはカラシニコフの最新型AK103が配布され、チャビスタ(チャベス支持者)や労働者が武装することになれば文字通り革命軍となる。米軍も一筋縄ではいかないだろう。

▼ベネズエラ報道で最も深刻な問題は、ジョンソンの完全ガイドがNYT紙のケースで指摘しているように、加害者と被害者を逆転させていることだ。同じ米国とその為政者が日米同盟の重要性を説き、イラン制裁を実行し、中国に制裁を課し、北朝鮮との非核化交渉を担っている。日米同盟に矛盾はないのか。ベネズエラから日本の姿勢はどのように見えるのだろうか。

アジア記者クラブHP


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