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毎木曜掲載・第97回(2019/2/21)

安倍政治を支えているのは誰か?

●『さらば!検索サイトー太田昌国のぐるっと世界案内』(太田昌国著、2019年2月刊、2000円、現代書館)評者 : 志真秀弘

 メディアに流されていくとはどういうことだろうか? たとえば安倍首相の答弁のインチキぶりを指摘することはたやすい。その嘘を隠そうとするメディアの報道を批判するのもむずかしいことではない。それでも政権支持率は下がらない。なぜだろう?本書はそれを解く重要な手がかりを与えてくれる。

 2016年以後のときどきの国際政治から国内の政治・社会問題の時評、さらに映画『チリの闘い』から詩人ロルカ、「拉致問題」、さらに死刑問題まで論じながら、本書で著者は、わたしたち自身に潜む問題をも示している。

 たとえばメキシコ国境からアメリカに向かう「難民」。その背景に2009年のホンジュラスの政変があった。アメリカによる新自由主義経済政策は、中米諸国の人々の生きる糧を奪う。当時の中道左派政権を倒したクーデターの背後にはアメリカがいて、以後ホンジュラスでは親米政権が続いている。人びとは「因果の『因』に向かって移動していると捉えるべき」と著者は指摘する。著者は生活を奪われた「難民」の側にどこまでも立って、事態をみている。

 ところが、メディア報道に慣れてしまうと、この「移民キャラバン」を「メキシコ国境に押し寄せる難民たち」などの先入観で捉え、ごく当然のようにアメリカの側に立ってみてしまう。メディアの言葉は、とどのつまりは大国の言葉に他ならない。が、それは意識されにくい。日常生活をとおして、無自覚のままメディアに取り込まれてしまっているからだ。わたしにしてからがそうだ。たとえば近くのコンビニに行く。レジは若いベトナム人女性。名札に「研修生」とあっても、その時、過去3年の間(正確にいうと2015年から17年)にベトナムはじめ海外からの研習生69人もが病気や自殺で亡くなっている事実に思い至らない。

 あるいは昨年暮れに、新宿の大型書店がベトナム語書籍数千冊を常備するというチラシを見た著者は、調べると「いまや24万人のベトナム人が日本で働いている」と知って、「不明を恥じつつ言うが」驚いたと書いている。

 生活のなかにあっても、自分で「調べる」ことが大切なのだ。著者の謙虚な姿勢はそれを教えてくれる。

 メディア報道にわたしたちが呑み込まれている状態の中に、安倍政権延命の秘密も隠されている。ソ連はじめ社会主義諸国が崩壊した90年代、「社会主義は終わった」論が「常識」になった。この機を捉えて「日本会議」(1997年設立)につながる勢力が力を得て、右翼イデオロギーをメディア中枢にもちこみながら、平和と「戦後民主主義」に連なる価値観の破壊をはかった。この時期、著者は『諸君』『正論』などによった右派言論への批判を持続して展開している。この大国意識は、さらに世紀の変わり目を経て、「反中・反韓」を軸にした傲慢な排外思想へと展開する。安倍を支える価値観は、浸透した大国意識を梃子にアジアへの優越感に根ざした民族排外主義として、いまや日本社会の中央に居座っている。この現実に無自覚であってはいけないと著者は強調する。

 著者は本書で、こうした歴史過程にまで遡りながら、安倍的価値観を粘り強く、そしてラディカルに批判している。さらに若い日の南米大陸の放浪、そしてスペイン語圏文学の日本への普及を業としたこと、あるいはネット上の言論活動のあり方への論究も興味深い。落ち着いて丁寧な語り口にも共感する。これは近来少なくなってしまったすぐれた時評集である。

 本書には一昨年から「太田昌国のコラム サザンクロス」として当サイトに連載中の時評も全て収録されている。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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