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既存メディアにはない活動や作品が受賞〜第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞贈呈式

 12月8日、東京・内幸町の日本プレスセンターにおいて、第24回平和・協同ジャーナリズム基金賞の贈呈式が行われた。同賞は特定の団体や個人に寄らず、一般の市民による寄付金で運営されており、反核・平和、人々の協同・連帯、人権擁護の推進に寄与した作品を制作したジャーナリスト、映像関係者らを顕彰している。

 今回は、基金賞に琉球新報編集局政治部の「沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道」(写真上)、アジア記者クラブの一連の活動、「沖縄スパイ戦史」製作委員会制作のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」(三上智恵・大矢英代監督作品)、毎日新聞記者・栗原俊雄さんの戦争責任・戦後補償に関する一連の著作、中村由一著・渡辺考聞き書き・宮尾和孝絵「ゲンバクとよばれた少年」(講談社)、荒井なみこ賞に水野スウさんの「わたしとあなたの・けんぽうBOOK」「たいわ・けんぽうBOOK+」(いずれも自費出版)、特別賞に疾走プロダクション制作のドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」(原一男監督)が選ばれた。

 冒頭に基金代表である岩垂弘さん(写真)から基金の説明があった。岩垂代表は「私達の平和・協同ジャーナリスト基金というのは、一言で言えば平和と協同に関する報道に大きく寄与されたジャーナリストを顕彰することだ。基金ができたのは1995年で、当時は東西冷戦が終結した直後だった。冷戦終結によって世界は平和になるのではないかと考えたが、事実は逆だった。そこで我々が話し合ったのは、人類にとって一番大事なのは『平和と協同』であろうとの結論だった。『平和と協同』を進めるためには、世論をそういった方向に向けていかなくてはならない。『平和と協同』を大切にするような世論を形成しなくてはいけない。世論形成で一番重要なのは、メディアであり、ジャーナリズムの在り方なので、『平和と協同』に関心を持つジャーナリストを増やし、育てていこうではないかと考えている。残念ながら、今のメディアでは『平和と協同』の担い手が少ない上、貧弱である。最近目立ってきたのは、リベラル系雑誌がほとんど壊滅状態にあり、非常に残念だ」と述べた。

 映像部門を選考した鎌倉悦男さんは「ドキュメンタリーは、視聴率の関係でゴールデンタイムに放映されない。さらに地方局制作の作品は、在京のキー局の作品とは違い、多くの国民の目に触れない事情がある。今回選んだ映像作品についても、大手の映画館では放映されないものの、非常に優れた作品を選んだ」と述べた。

 受賞者に対する祝辞として、基金代表委員を務める田畑光永さんからは「昔は日本国内においては『55年体制』、海外においては東西冷戦で、当時はその座標軸があれば仕事をすることができた。ところが最近のニュースは訳が分からない。世界の首脳達の物言いが非常に激しくなり、世界の格差は広がる一方である。これらの問題は何か、ジャーナリズムの視点から解を求めたい」と述べた。

 続いて、受賞者からスピーチがあった。琉球新報東京報道部長の滝本匠さんは「沖縄県知事選当時は、特別なことをやっているという感覚はなかった。もともと沖縄県に対しては、いわゆる『沖縄フェイク』と呼ばれる誤った情報がある。こういった素地があった中、正しい情報で有権者が投票すべきであり、そのことが民主主義を実現させるものだと考えた」と述べた。

 朝日新聞記者の青木美希さん(写真)は「東日本大震災発生から時を経るごとに報道が減っている。それに反比例して、被災者の生活はどんどんと厳しくなっている。『助けてください』という電話が朝も夜も鳴り続ける。朝日新聞社内では担当者が次々と替えられるが、私は7年間の取材活動をこの本にまとめた。国の生活支援はどんどんと打ち切られているが、避難者の苦しみは続いている」と述べた。

 アジア記者クラブ代表委員の森広泰平さんは「アジア記者クラブの活動は、縦割りのマスコミ業界の中にあって、定例会や毎月発行の通信を通じて、メディアの論点を率直に議論し、何が問題点なのかを明らかにしようとしている。インターネットの普及によって、今まで情報源を独占していたメディアというものが読者・視聴者にさらされ、新聞・テレビが報じているネタ元が露見するとともに、新聞・テレビが報じていない世界があるということが認識された。日本の報道が批判される大きな理由というのは、国際報道の質が低いということと伝えていない情報があまりにも多すぎるということ。伝えられないことによって、世の中に存在しないものとなってしまう。若い人やメディア関係者には、本来ジャーナリズムとはおもしろいものだと分かってほしい」と述べた。

 ドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」の三上智恵監督は「映画制作・上映を通じて感じたことは、『平和偏差値』の高い上映参加者ですら『沖縄は大変ね』という声が多いことだ。私は、沖縄が大変だから沖縄のことを分かってもらいたいと思ったことは一度もなく、日本が壊れていることの当事者としてこの作品を制作した。沖縄のことは対岸の火事ではなく、私達自分のこととして考えるべき」と述べた。

 毎日新聞記者の栗原俊雄さんは「私の取材は自分一人でやっているので、時折社内で疎外感を感じることがあるが、このような賞を受けることができて非常に嬉しい。ジャーナリズムの役割は、権力者の不正を暴くことと権力者の不正に苦しんでいる社会的弱者に光を当てること、戦争を絶対に起こさせないことだと思っている。その点で今回の作品は、その役割の一端を果たせたと思っている」と述べた。

 長崎の被爆者・中村由一さん(右)とNHK福岡放送局放送部番組制作チーフ・ディレクターの渡辺考さん(左)は「長崎の原爆被害と被差別部落出身という二重の差別を受けた過酷な経験を子ども達に語りかけて、後世に伝えたい。この気持ちを全てこの本にぶつけた」と述べた。

 エッセイストの水野スウさんは「このような賞を頂けたのは、非常に名誉なことです。全国で知名度のない私を呼んで頂いて感謝しています。多くの知識が無くても対話をすることが平和につながることだと思います」と述べた。

 ドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」の原一男監督は「視聴者は少ないが、見た人は全員が評価してくれた。予想よりも大幅に視聴者が伸びず不満はあるが、それでもいい作品を作り続けたいと思う」と抱負を述べた。

 既存メディアの中には、国益や中立性という美名の下、自己規制、忖度された報道が存在する。しかし、このような報道姿勢はメディア、ジャーナリズムの役割を放棄したもので、メディアに対する不信を広めるだけだ。それとともに、メディアに無関心になったり、あきらめてしまってはそれで終わりなので、生産的な議論や活動が必要だ。〔金子通〕


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