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安倍1強の暗闇国家を阻止せよ〜望月衣塑子さん、金平茂紀さん

    林田英明

 安倍晋三首相と石破茂元幹事長による自民党総裁選が進む時期に、東京新聞記者の望月衣塑子さん(43/写真左)とTBS「報道特集」キャスター、金平茂紀さん(64/右)のトークセッションがあると聞けば、駆けつけないわけにはいかない。「幕引きをさせてたまるか!森友問題 アベの大罪を暴く」と題された集会が9月16日、大阪府豊中市立文化芸術センターで開かれ、800人の参加者が2人の発言に聴き入った。森友学園問題を考える会主催。

●官邸のある東京に萎縮と忖度

 司会は「新聞うずみ火」代表の矢野宏さん(58)。安倍1強のもたらす政治状況を憂いつつ、2人に水を向けていく。まずは望月さん。いきなり立ち上がり身ぶり手ぶりを交え、麻生太郎副総理兼財務相らの声色をまねての熱演である。えっ、こんな人だったの? 聴衆の多くは驚きに包まれながら喝采。ぐんぐん話に引き込まれていく。聞けば舞台女優が志望だったという。児童劇団に入っていたこともあり、その物おじしない性格は菅義偉官房長官の記者会見で何度も食い下がって質問する猪突猛進に生きているのだろう。大きな声と感情移入しやすい性格は演劇で身についたものだ。「衣塑子」という名前は、大正時代の詩人、萩原朔太郎にちなみ、創造的な人物になってほしいという母の願いがこもっている。

 望月さんはまず、森友問題の現場・大阪と官邸のある東京との意識の違いを説明した。事件の主役は森友学園の籠池泰典前理事長夫妻である。塚本幼稚園児が教育勅語を唱和し、運動会では「安保法制、国会通過良かったです。安倍総理ガンバレ!」と選手宣誓する、戦前戦中の教育をほうふつさせる映像が関西で流れても3〜4日は東京では放映されなかった。安倍首相の妻昭恵氏が視察する動画も含まれていたことも影響したのだろうか。

 忖度には伏線がある。2014年11月、衆院解散の前日、当時の自民党筆頭副幹事長の萩生田光一氏が選挙期間中の報道の公平性を確保するため出演者の選定やテーマなどに配慮するよう在京キー局の編成局長と報道局長宛てに文書を流したのだ。望月さんは「アメリカ流のジャーナリストなら、通知を丁寧に受け取って後ろを振り向いたところでポイッと捨てる」と笑う。では、日本のメディアはどうしたかと言えば、団結して抗議声明を出すなどすればよかったのだが、それは金平さんや故岸井成格さんら一部個人のジャーナリストに限られ、局として大きく異議を唱えることはなかった。ゆえに、その後、政権に批判的なコメントが取れても「公平」意識に縛られ、萎縮・忖度がテレビ局を中心に一気に進んだと望月さんは感じている。

●セクハラ疑惑も擁護する腐臭

 しかし今回、塚本学園の映像を関東ですぐに流した局が1社だけあった。それはテレビ東京。目を引く内容だけに視聴率を取り、スポンサー収入を心配した各社が追随して、ようやく森友疑惑は全国の問題として知られることになった。「なぜテレビ東京が」との疑問には、同社が経済を活動の中心とする媒体のため官邸とは距離を置けたからではないかと望月さんは解説する。逃亡や証拠隠滅の恐れがほとんどないにもかかわらず籠池夫妻が逮捕から10カ月も長期勾留されたのはなぜだろう。籠池夫妻がメディアに露出すれば、また森友問題が蒸し返される。望月さんは「籠池フィーバーの再現を官邸は非常にイヤがっていた」と振り返る。

 この集会のタイトルを見直せば、「幕引きさせてたまるか」である。つまり、世間では過去のものとなろうとしており、主催者もそれを意識している。タダ同然に豊中市の国有地が払い下げられた森友学園問題と、獣医学部新設のための「国家戦略特区」事業者選定で同様に首相の関与が疑われる加計学園問題に合わせてフタをしようとしているのが官邸サイドだ。望月さんは、昭恵氏の名前が削除されるなど文書改ざんが横行した異常を新聞記事の紹介とともに反芻しながら、佐川宣寿元理財局長に全責任を負わせて逃げ切りを図る権力者たちが許せない。安倍1強による腐臭は随所に表れるのだろうか。福田淳一前財務事務次官のセクハラ疑惑は、それを「はめられている」と擁護する下村博文元文部科学相と麻生氏に対して静かな怒りを望月さんは漂わせた。のみならず、彼らが全く自省のない様子には絶望すら抱いているように見えた。望月さんが口マネした麻生氏の「下々の皆さん」を思い出して笑いをこらえながら、しかしウイットのつもりの差別意識が恥ずかしげもなく表に出てくるような人物が今なおこの国のトップを支える政治状況は末期的だと私も思う。「おまえ、朝日新聞か?」などと記者会見でも記者を見下すようなエラそうな態度は改まっていない。

 フェイクニュースについても一言。「若手によるネットニュースのサイト『ねとらぼ』の調査を見習って」と学生から指摘を受けて望月さんは気づかされたという。個人ブロガーを装いつつ、実はバックに企業がついている例があるとの分析だ。ネットを主体にして新聞記事を読む人たちはフェイクニュースを信じやすい傾向にあるとすれば、メディア側もどう事実を提示していくか技術も問われる。

●政権の罪問わねば「放置国家」

 笑いと拍手に包まれた後に金平さんがマイクを握る。深刻な顔つきで解説するテレビの表情とは違って、望月さんの話術に何度も笑いをこらえられなかったからか「望月さんは女性講談師。この後はすごくやりにくい」と切り出した。

 しかし、すぐさま表情を引き締めて語る。42年に及ぶ記者生活を「報道バカ」と形容しつつ、モスクワやワシントンの支局長経験をはじめ世界の現場から日本を眺める感覚が肌に焼きついているのだろう、責任を取るべき政権中枢が逃げ切りを図ろうとしている森友問題についても「こんな恥ずかしいことがあったにもかかわらず罪が問われなければ、法治国家ではなく放置国家だ」と力を込めた。

 集会の2日前にあった自民総裁選の候補者討論会では日本記者クラブの編集委員からも厳しい質問が飛んだといい、読売新聞の橋本五郎氏や毎日新聞の倉重篤郎氏の名を挙げた。ところが、森友問題に対して安倍首相は「昨年の総選挙で国民の審判を仰ぎました」と述べる。相変わらず不都合な事実には正面から答えず、かわしの一手。金平さんが改めて指摘するまでもなく、森友問題の真の構造が見えたのは今年3月、朝日新聞が放った「文書書き換え」スクープからである。後に「改ざん」へと移行している事実に向き合おうとしない。金平さんは「胃液が逆流するような思い」と憤りを隠さなかった。

 のんきな「赤坂自民亭」の写真とコメントが7月5日、ツイッターにアップされたのも、今の政権の体質がよく表れている。若手議員が閣僚や党幹部とざっくばらんに意見を交える宴会は決して悪いことではない。腹を割って話す意味と効果もあるだろう。党も一枚岩となる。しかし、西村康稔官房副長官らがアップした時期は西日本豪雨の危険が高まり、気象庁も会見を開いて「記録的な大雨となるおそれ」と警告を発していた。自民亭に初めて現職の首相が出席したこともあって、いつもより多い50人ほどが集まったというから、参加者の視線は災害の危機ではなく安倍首相に向いていると取られてもしかたがないだろう。これでは200人を超える豪雨の死者は浮かばれないし、甚大な被害に今も苦しむ被災者は納得できない。初動対応と危機管理が欠落している。金平さんは「自民亭に参加していた人の名前と顔を確認してほしい」と口元を結んだ。パソコンが不調でその写真が会場に映し出されることはなかったが、上川陽子法相が締めのあいさつをしたといわれる。金平さんは「上川法相がそこにいたことに衝撃を受ける」とウェブの「漂流キャスター日誌」(94)で触れている。それは、オウム真理教死刑囚7人の死刑執行命令書に署名し、半日後に執行される間の宴会に参加したことになるからだ。

 メディアへの注文もある。ぶら下がり取材に番記者が豪雨を問いかけることがない。安倍首相の「和気あいあいでよかったよ」で自民亭の問題が終わりなら、これからも首相の暴走は止まらないだろう。むしろ、政治部の中には「森友・加計問題をいつまでやっているのか」と公言するメディアもある。金平さんの歯がみが聞こえる。「何ができるか。取材して事実を突きつけなければ」。森友問題については4点を挙げた。

(1)近畿財務局職員自殺の遺書の中身を見ているのはNHKだけ。何があって彼は自殺したのか。
(2)佐川元理財局長は今どこで何をしているのか。彼は一人でかぶった。口をつぐんだまま墓場まで秘密を持っていかせてはいけない。
(3)籠池氏は、思想信条は違うが不思議に人の心をつかむ人。彼は切られた。森友事件を籠池事件と矮小化されようとしている。
(4)昭恵氏と同氏付職員だった谷査恵子氏への取材を継続すべきだ。

●「自由」こそ一番大事な価値観

 金平さんが望月さんに感心して評価するのは、その“鈍感力”といえようか。これまでの記者会見は予定調和が常態化していた。番記者は、政治家に密着することで情報を得ることができる。裏返せば、相手を怒らせることなく「なあなあ」に陥ることで得る“果実”が社内での評価や出世につながっていく。そうした記者の近視眼的世界観を金平さんはイラ立たしく思っていたから望月さんの執拗な質問姿勢が新鮮だった。先進国と呼ばれる国の会見は、ウソが発覚すれば首が飛ぶ真剣勝負。ところが日本では、会見が長引いてしまう質問が続くと「秩序を乱す」と否定される。これでは事実が白日の下にさらされない。

 金平さんは最も好きなアーティストにRCサクセションの故忌野清志郎を挙げる。その中で『軽薄なジャーナリスト』を紹介した。清志郎はこう歌う。もう30年前の曲だ。最後のくだりが強烈である。 〈軽薄なジャーナリズムにのるくらいなら/軽薄なヒロイズムに踊らされるくらいなら/そんな目にあうくらいならあの発電所の中で眠りたい〉

 「あの発電所」とは、チェルノブイリ原発事故から間がないので原発のことと推察される。金平さんはうなった。「今のジャーナリズムの現状をそのまま歌っている。清志郎はすごい人だったんだな」

 そして、エコーチェンバー現象を胸に刻みたいと説く。同じ意見がこだまのように響いて大多数と錯覚してはいけない。つまり、一歩、外に出てみれば安倍首相の支持率は3〜4割あり、仲間内だけで批判の感度を高めても自己満足になりかねないということだ。「安倍政権、いいじゃん」と思っている層にどう伝えるか。それには、人を引きつける魅力や楽しさがいる。「悲壮感を漂わせると人はついてきません」は金平さんは断言する。反対運動にありがちな「われわれは許さないぞ〜!」といった肩に力が入ったシュプレヒコールが金平さんは嫌い。だから、安保法制反対時に出現したSEALDs(シールズ、自由と民主主義のための学生緊急行動)がラップやコールを使って自分の言葉で一人称の主張を展開したような学生運動に一筋の光を見る。希望も込めて「若い人を信用している」とも金平さんは言った。

 恩師にジャーナリストの故筑紫哲也さんを挙げる。権力の監視役を果たし、多様な意見や立場を登場させ、社会に自由の気風を保つ。この3点を遺言と受け止める金平さんが一番大事にする価値観は、だから「自由」。それは、勝手気ままを意味するものではない。自由をそれぞれが考え、行動することでこの国は変わるということだろう。「自由を失ってしまったら暗闇になる」と忠告してマイクを置いた。

 森友問題がトカゲのしっぽ切りで終わればどうなるか。上滑りした言葉だけの無意味な反省を並べたてる安倍首相が突き進むこの国の未来は、やがて暗闇に包まれる。


*最後まで丁寧に自著にサインする望月衣塑子さんと金平茂紀さん


Created by staff01. Last modified on 2018-10-12 13:07:27 Copyright: Default

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