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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『日中戦争 前線と銃後』
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毎木曜掲載・第68回(2018/8/2)

いまの日本につながるもの

●『日中戦争 前線と銃後』(井上寿一 著、講談社学術文庫、1010円)/評者:大西赤人

 本書は、2007年に刊行された単行本『日中戦争下の日本』(講談社)の(内容はほぼそのままの)改題文庫版である。井上は、旧版「あとがき」に「この本を書きながら、『昭和戦中期の日本とは、今の日本のことではないか」と錯覚に陥ることがあった』と、新版「まえがき」には「旧著の刊行当時も今も日本は、日中戦争下の日本と同様に、格差社会が問題になっている」と記し、十一年前も今も、日中戦争時代の日本と現代の日本との共通性を指摘している。

 筆者は、この本のサブタイトル――「前線と銃後」に関心を惹かれた。反戦・非戦の立場に基づく人々は、当然ながら戦争の暴力性、非人間性を強調し、巻き込まれる多くの一般人の悲惨を言わば圧倒的な猗鏗沖瓩噺做して訴える。そこに一面の真実はあろうが、ある時期からの大西は、併せて幾分の不審をも感じるようになった。たしかに敗色濃厚の末期に至ればそういう色合いが濃かったろうが、戦争を通して、総ての日本人が無力に翻弄されていたはずはなく、そこには日常的な欲望や思惑が平時と変わらず蠢いていたに違いあるまい。そして、人々の側においても、自らに恩恵が予想される限りは、戦争支持・戦争推進の気運もあったであろう。「前線と銃後」という言葉は、そこの部分に焦点を当てているのではないかと推測された。*写真=井上寿一氏(ウィキペディアより)

 井上は、火野葦平が編集長を務め、検閲もなかったと言われる専門投稿雑誌『兵隊』(南支派遺軍報道部発行)の投稿――中国戦線にあった兵隊たちの生の声――を読み解くことに始まり、当時の様々な資料に当たりながら、日本・日本人が戦争を通して何を求めていたのかを探って行く。中国の戦場で命がけで戦った兵隊と、銃後たる日本社会との意識の落差懸隔が生々しい(既製品の「慰問袋」が各デパートで売られていたという話なども驚きだった)。一方、大東亜共栄圏、大政翼賛会、一定の知識としてはある概念や組織だが、それらは必ずしも日本において一枚岩ではなかったことも判ってくる。井上は、(合法)無産政党が戦争に賛同したこと、従来弱い立場に居た農民、労働者、女性などが戦争を利して実際に力を得たことをも指摘する。たしかに当時の指導層(の一定部分)には、中国以下のアジアと協同して欧米に対そう、それまでの資本主義的日本社会に「革新」をもたらそうとの真情も実在したのだろう。もちろんそこには決定的な欠陥があり、失敗に終って行くわけだが、それらを矮小化し、人心から離反した軍部などの一部が暴走したと位置づけ、反戦・非戦の陣営とは精神的に対極としてしまうことは、むしろ認識を誤らせるものに思われる。本書のような検証は、我々の側にとっても意義深いものと感じる。

 さて、1970年発売、「戦争が終わって 僕らは生まれた 戦争を知らずに 僕らは育った」と始まる『戦争を知らない子供たち』(作詞・北山修)は、ベトナム戦争下における猗神鐡瓮侫ーク・ソングである。北山の同題のエッセイ集もベストセラーとなり、この言葉は、当時の若者を象徴するものとして今に残っている。「戦争が終わって 僕らは生まれた」なる端的な歌詞の通り、北山は1946年生まれ、この曲を口ずさんだ彼の同世代もまた、いわゆる燹1947年から1949年に生まれた)団塊の世代瓩凌諭垢任△蝓1970年には20代前半だったということになる。大西は当時はまだ中学校三年生だったが、「戦争を知らない子供たち」という言葉には、非常に共感を抱いた。歌詞を改めて読んでみれば感傷的で気恥ずかしくなりそうな部分もあるものの、少なくとも、自分(たち)が直接的な戦争を経験していない、経験せずに生きてきた、これからも経験しなくて済むだろう、という状況に信頼し、それを最大級の幸いと感じていた。狎鐐茲鬚靴茲Ν瓩爐靴蹲狎鐐茲したい瓩繁召狄諭垢存在し得るということ自体、理解の外だった。

 間もなく、1970年からなお50年! 上述の爐海譴らも経験しなくて済むだろう瓩蓮△なり怪しい。併せて、狎鐐茲鬚靴茲Ν瓩爐靴蹲狎鐐茲したい瓩繁召狄諭垢存在し得ないと未だに考えるとしたら、おめでたさにもほどがあるだろう。1970年の「戦争を知らない子供たち」は、とにもかくにも「大人たち」になり、今や「老人たち」となりつつある。実に喜ばしい話だ。それでは、2018年の「戦争を知らない子供たち」は、これからどうなるのであろうか。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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