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LNJ Logo 太田昌国のコラム「サザンクロス」 : 政治家と官僚の愚劣な言動に映っているのは、誰の姿?
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 ●第19回 2018年5月14日(毎月10日・25日)

 政治家と官僚の愚劣な言動に映っているのは、誰の姿?


*NHK「時論公論」より

 前回に引き続き、朝鮮をめぐる情勢の急展開について書き留めておきたい。日本政府の対応ぶりやメディア報道のひどさについて書くのは、もはや徒労感しかもたらさない。だが、それこそが――私たちを呆れさせ、精神的に疲労させ、その挙句に物言うことも億劫にさせることが――彼らの狙い目だと思えば、やはり書き残しておかねばならぬ。まずメディアから。すべてを見聞きできているわけでは、もちろん、ない。それにしても「非核化」報道が変わることなく、ひどい。NHKは、BSのワールド・ニュースも含めて、アナウンサーが読む文章では「北朝鮮の非核化」と表現している。先日の板門店宣言はこの問題に関して「南と北は、完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と述べている。別な文脈でも、「南と北は、北側が取っている自主的な措置が、朝鮮半島の非核化のために大胆で意義ある重大な措置だという認識を共にし」と言っている。当事者が「朝鮮半島の非核化」と言っているにもかかわらず、それをごまかして表現する日本の報道者の姿勢は許しがたい。

 なぜか。朝鮮半島だけをとってみても、在韓米軍をどうするのか。在韓米軍は、核を有する在日米軍と一体化しており、それを保証している日米安保体制や沖縄に作られつつある米軍のために新基地をどうするのか――そのように、韓国・米国・日本の在り方をも同時に問うているのが、非核化という課題だと捉えなければならない。広く東アジア地域において有機的な繋がりをもって軍事的な展開を行ない、しかも核を有する米国と、その傘の下にある日本が、朝鮮国の非核化を要求するのならば、自らが有する(あるいはその傘の下にある)核をも同時に廃絶する意思を示さなければならない。この問題意識のかけらも示さないのが、日米の一般的な反応なのだ。

 報道されている米朝間の水面下の交渉項目を見ると、米国は、朝鮮国の核技術者2000人から3000人を国外に移住させることを要求しているという。私は朝鮮が核開発を放棄することには大賛成だが、この報道を知って思うのは、米国の核技術者(いったい幾人いるのだろう?)はどうするのだ、ということだ。中露英仏、イスラエルなどの核技術者たちは?

 対等ではない国家間関係の現状に、批判精神を眠り込ませてはいけない。同時に思い出す。イランや、フセイン時代のイラクでは、核技術者が不審な死を遂げたことがずいぶんとある。国外で殺害された人もいた。案件によっては、イスラエルの諜報機関モサド、米国CIA,英国MI6の共同作戦であり、米国がもつ「テロリスト・リスト」に名前のある人物が傭兵として利用されたと報道されたものすらあった。大国である自分には許すが、小国が同じことを行なおうとすると、決して許さない――大国のこの傲慢さに刺激されて、軍事的な冒険に走る小国の指導者(独裁者)が生まれるという悪循環は、現存する非対称的な大国−小国関係を変えることなく、断つことはできない。

 次は日本政府について。5月8日の日中韓首脳会談は、さながら「東京で開かれた中韓首脳会談」という体をさらした(命名は、佐藤優氏による)。会談の内容や発表された宣言を読むと、この印象が強い。表面的に取り繕った言動はともかく、会談の直後に放映されたBSフジの某番組での首相の支離滅裂な言動には、(いつものこととはいえ)こちらが言葉を失う。「なぜ日本は直接言ってこないのか」との金正恩氏の言い分を文在寅氏が明らかにした感想を聞かれて、首相曰く――「おそらく金正恩委員長に直接言う事であろうと思います。文氏やポンペオ氏は直接会っている。つまり『なぜ日本は直接言って来ないのか』という事だと受け止めている。見方によっては応じるかもしれない、という事かもしれない」。

 この発言を聞いたキャスターは、その言語不明瞭さを衝くわけでもない。「(北朝鮮との)対話のための対話は無意味」を言い募ってきた首相を放置してきたツケは、ここまでの醜態を晒すに至っている。思い起こせば分かるように、首相の言動は第一次政権の1年間も、第二次政権後の5年半有余も、何につけてもほぼこの程度のものでしかなかった。現在日々報道されている政治家およびトップ官僚たちの信じ難いまでに愚劣で低劣な言動には、こんな首相を辞任に追い込むこともできないでいる私たちのありのままの姿が映っている。そのことを肝に銘じたい。


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