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●アメリカのホットな労働運動を伝える〜国際部の新企画スタート

 レイバーネット日本国際部では、4月から毎月25日に、アメリカの草の根の労働者ネットワークの月刊機関誌『レイバー・ノーツ』の記事を1本翻訳して掲載することになりました。その第一回はレイバー・ノーツ誌4月号に掲載されているメンフィス清掃ストライキ50周年に関する2本の記事を取り上げます。公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング牧師は1968年4月4日、テネシー州メンフィスで暗殺されました。牧師はメンフィスの黒人清掃労働者のストライキ支援のデモを組織するためにメンフィスに滞在していたのです。このストライキとキング牧師の暗殺は公民権運動と労働運動の共闘の象徴として、50年後の今日でも語り継がれています。そしてその精神は今日の「黒人の命は大切だ」運動や教員の山猫ストライキの波に引き継がれています。(国際部 山崎精一)    *   *   *

アトランタ市介護交通労働者ストライキ−メンフィス・ストに励まされて

   ホール・マクレナン(ATUローカル732組合員、退職整備工)

 アトランタ市の介護交通運転労働者たちは一日ストライキをバレンタイン・デーの2月14日に敢行し、「団結した労働者は決して分断されない」と声を上げてその愛を示した。マーチン・ルーサー・キング牧師がその命を捧げた1968年のメンフィス清掃労働者のストライキの50周年に勇気づけられた労働者たちは「私は女だ」「私は男だ」のプラカードを掲げていた。

 米国最大の介護交通サービス供給会社であるMV交通社と請負会社アトランタ交通サービス社に対して75人の労働者がピケを張った。アトランタ市交通局は都市交通労組(ATU)ローカル732や障がい者団体の反対にもかかわらず2015年に介護交通事業を民間委託している。

 MV交通社とその委託会社によって介護交通労働者の賃金と労働条件は引き下げられてきた。ローカル732のマイケル・マジェト委員長は、「障がい者と高齢者の交通手段を切り捨て、安全を手抜きし、この重要なサービスを提供している労働者を抑えつける」ことにより利潤を急増させた、とMV交通社を批判している。

 執行委員のスタンリー・スモールズによると運転手たちは乗客の健康を心配している、と言う。介護交通の車は「車内に排気ガスが入ってくるので、運転していると頭が痛くなる」と言う。

 ATU労組は交通局の下請け化に対して調停を申請して勝利したが、市交通局は裁判でその調停を覆すことに成功した。組合はMV交通社と労働協約交渉を進めながら、控訴審を闘っている。

 1971年にアトランタ市交通局が設立されてから公式のストライキが行われるのはこれが初めてであった。

黒人の雇用危機―メンフィス・ストから50年

    スティーブン・ピッツ(カリフォルニア大学バークリー校労働研究センター副所長)

 1968年2月1日、メンフィス市の清掃労働者であった黒人のイコール・コールとロバート・ウォーカーは仕事に出かけたが、生きて帰ってくることはなかった。ゴミトラックの故障により回転盤に巻き込まれて死亡した。二人の死亡事故をきっかけに1300人の仲間たちがストライキに突入した。

 ストライキが勝利したのは、何か月にもわたる抗議闘争、地域社会の支援活動、南部キリスト教指導者会議SCLCの仲介とマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺の後だった。

 このストライキはキング牧師の最後の闘いとして記憶されているが、よく見てみると1960年代後半から70年代にかけての黒人労働者の活発な運動の中の重要な事件であった。

 その後、バルティモア市とサウスカロライナ州のチャールストン市の病院労働者がストライキにはいった。多くの労働組合で黒人労働者たちが組合内に自主的組織、コーカスを結成したが、その中で特に重要だったのは全米鉄鋼労組USWと全米自動車労組UAWのコーカスであった。ナショナルセンターAFL-CIOの保守的な指導部に対抗して、黒人の組合指導者たちは黒人労働組合活動家連合CBTUを立ち上げた。黒人労働者は民間労組でも公務員労組でもストライキの波や組織化運動で活躍した。

 メンフィスのストライキから50年が経過し、黒人労働者運動の高揚、経済エリートによる労働者の収奪、経済的不平等の拡大、右派の独裁の高まりを経て、黒人労働者の現状はどうなっているのだろうか?

【目立つ格差】

 黒人労働者の労働条件は一部では改善されたが、まだ白人労働者に追いつくほどではない。労働者全体の労働条件が攻撃されているのもその理由の一部である。

 1970年代中頃からの人種的不平等の背景の一部は労働生産性の伸びと賃金の伸びの大きな隔たりである。1979年から現在までに労働生産性は64.2%上昇したが、賃金は10.1%しか上昇しなかった。この隔たりは経済エリートがすべての労働者を激しく攻撃したことを示している。現在黒人労働者は白人労働者の賃金の82%しか得ていないが、これでも1968年の時の格差よりは改善されている。しかし、両方の賃金はさほど伸びていない、黒人労働者の賃金引上げ率は年0.6%に対して白人は0.2%であった。

 この50年の間、黒人の失業率は白人の2倍に留まり続けている。(別表参照) 監獄に収監されている割合は黒人の方が急増している。1968年には黒人は白人の5.4倍だったが2016年には6.4倍となっている。(別表参照)

 キング牧師は暗殺される一月前に黒人労働者についてこう語っている。「問題は失業ではなく、不完全雇用である。パートの賃金でフルタイム働かされているのが問題なのである。」この事態は今日でも変わっていない。

 今日の定義では「低賃金」はフルタイム労働者の中位の賃金の三分の二以下の賃金であるが(全国的には時給12.6ドル以下が低賃金である)、2010-12年では黒人の38.1%が低賃金で、白人では25.9%であった。

【活発化する運動】

 1970年代のブラック・パワー運動が黒人労働者の抗議の波を生み出したように、今日の「黒人の命は大切だ」Black Lives Matter運動は黒人労働者の新たな活動を生み出している。ミズーリ州ファーガソンでの黒人マイケル・ブラウンの射殺をきっかけに、AFL-CIOは人種正義委員会を立ち上げ、労働組合の中での人種差別についての公聴会を全国で開催した。全米サービス従業員労組SEIUも同様の取り組みを行い、自らを人種正義のための組織となることを誓った。

 アメリカ州郡自治体従業員組合連合AFSCMEの「私は2018年」I Am 2018運動は1968年のメンフィス・ストライキの英雄たちを称え、その闘いを労働組合として引き継いで行くことを約束するものである。全米食品商業労働者組合UFCWAは元受刑者たちの権利を回復する活動を支援してきている。

 全米縫製繊維産業・ホテルレストラン労組UNITE HEREはホテル産業での黒人の雇用を増やす努力を再び強めている。公務員労組は共闘組織「人種正義のための団体交渉」Bargaining for the Racial Goodに参加することにより、団体交渉の目的を拡大するための会議を重ねてきている。

 公式の労働組合運動の外でも、ファイト・フォー・フィフティーン運動Fight for $15がファースト・フード産業の最低賃金を引き上げる運動と警察による黒人虐待に対する闘いを積極的に結び付けてきた。レストラン機会センターROCは、黒人やラテン系労働者を裏方ではなくウェーターやウェートレスに雇用することを要求して、レストラン産業での人種隔離と闘ってきている。

 アワー・ウォルマートOUR Walmartはウォルマートの有色人種の労働者が感じている人種差別について意識を高める教育をメンバーに対して行っている。シカゴの複数の労働者センターでは派遣業界での黒人差別と闘ってきている。

 全国黒人労働者センター・プロジェクトNational Black Worker Center Projectの各地の参加組織では様々な運動が行われている。ロサンゼルスでは建設産業での雇用を確保し、ベイエリアのアラメダ郡では郡政府に元受刑者を直接雇用するよう要求し、ニューオーリエンズでは住民が支払う交通違反罰金を引き下げるよう闘っている。

 普遍的ベーシック・インカム、雇用保障計画、新たな国内都市マーシャル・プランなどのような人種的経済的不平等を解決する包括的な政策について議論するのは結構だが、そのような議論は持続的な組織化と現場での力を付ける闘い抜きにはありえない。

上の表 黒人と白人の失業率の比較 1968年と2017年
下の表 黒人と白人の10万人当たりの収監率の比較 1968年と2017年

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