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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『港町』『ニッポン国VS泉南石綿村』
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<木下昌明の映画の部屋・第240回>

日本の爐い沺蹐鬚箸蕕┐織疋ュメンタリー〜想田和弘『港町』/原一男『ニッポン国VS泉南石綿村』

●過疎化した漁港の日々を「観察」

 想田和弘の「観察映画」が面白い。第1弾の『選挙』が2007年に評判になった。川崎市議補選で自民党から出馬する友人を自由に撮ったもので、同時に自民党の選挙の仕組みばかりか街の人々の営みにも光を当てていた。

 観察映画の第7弾にあたる『港町』は、前作の『牡蠣工場(かきこうば)』と同じ岡山県の牛窓という港町が舞台。前作は中国人労働者を雇って養殖カキの殻を剝(む)く労働の日々を描いていたが、今作は、工場の内外のにぎわいから離れた静かな空き家の多い、過疎化した漁港を観察の中心にすえている。

 想田映画の特徴は、観客を誘導する音楽やナレーションを排し、カメラで、「現場」に介入してそこの日常性をじっくり撮るところにある。

 映画はモノクロなので、港の風景は海の澄んだ暗さが美しい。港ででくわしたおしゃべり好きな老女のシーンからはじまる。家々の間の路地や一軒一軒を回る獅子舞、散歩する白猫などまるで一枚の写真のようだ。

 想田は、網を繕う耳の遠い86歳の漁師の船にのる。老人は沖合に出て、昼は網を投げ入れ、真夜中に網を引き揚げる。かかった魚はナイフで網を切りさいて取る。だから終日網を繕っているのだ。「死んだ魚は半値だ」と、そのまま魚市場に運び、セリにかける。そこに威勢のいいおかみさんがいて、想田は、今度は彼女を追いかけ、鮮魚店で魚が手ばやく商品になっていく模様を撮る。彼女は車で街々に売りにいく。その様子は見ていて飽きることがない。そこでは働いて食って、出会いがあって、といった生きる基本がドキュメントされているからだ。

 最も興味深かったシーンは、通りすがりの人物にしかみえなかったあの冒頭の老女が、いつのまにか主人公のようになっているところ。彼女が道案内しつつ自分の人生を話す内容にあっけにとられる。ドラマではない人生の、得体(えたい)のしれないドラマがとらえられているからだ。そこにドキュメンタリー映画とひと味違った観察映画の真骨頂もある。
(『サンデー毎日』2018年4月22日号)

※4月7日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

●大阪・泉南石綿訴訟の被害者に「密着」

 原一男監督の『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』は見応えのあるドキュメンタリーだ。これまで原は『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』で、日本映画のベストワンや大賞などに輝いている。この映画でも釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞している。

 映画は、驚くべきことに8年の歳月をかけて、石綿工場で健康被害を受けた元労働者とその家族らの裁判闘争を撮り続けたもの。石綿=アスベストとは、耐火・耐熱性に富んだ繊維状の鉱物で、多くの工業製品に使用されてきた。この大小の工場群が、大阪府泉南市の一画にあって、映画で描いているように、そこで隠岐島の人々や在日韓国人が働いていた。彼らが石綿の粉塵(ふんじん)を大量に吸い込み、突然、中皮腫や肺がんなどにかかって死んでいく。

 2006年、彼らは石綿の危険性を認識していながら放置していた国を相手取り、損害賠償の訴訟に踏み切った。

 原はその人々の闘いに密着し、カメラを回し続けた。最初は患者の病状や裁判に至る経緯を撮っていき、時には「もっと怒ってもいいのではないか」とおとなしい原告団を挑発したり、弁護団に「こんな闘いに果たして意味があるのか」と問うたり――。興味深いのは、原がこれまでとは違って、個人ではなく、集団に焦点を当てていることだった。といって、個人を無視するのではなく、一人一人の裁判にかける思いのいろいろにも光を当てている。また、原は地裁→高裁→最高裁と訴訟が長引くなかで、勝利を見ずに次々と亡くなっていく原告(21人)の最期にも立ち会う。改めてアスベストは狎鼎な時限爆弾″だと思い知らされる。

 映画の後半は圧巻である。最高裁で東京に来るようになって、首相官邸に押しかける原告たちや厚生労働省の一室で、病気をかかえた原告たちが入れ代わり立ち代わり官僚に訴える日々。これが21日間にもわたる。なかで、官邸前で道ゆく人々に涙を流して切々と訴える原告の女性に胸打たれる。何だかんだいっても、それは困難な闘いだったのだ。
(『サンデー毎日』2018年3月25号)

※現在、全国順次公開中

〔追記〕 本欄に掲載するにあたって、若干加筆しました。


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