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●『フラタニティ』第9号=2018年2月号から転載

自由でゆるやかなネットワーク〜レイバーネット18年の歩み

    松原 明(レイバーネット日本・共同代表)

 インターネットを使って労働運動を活性化させたい。「はたらくものの情報ネットワーク」レイバーネット日本が設立されたのは2001年2月だから、ことし2018年2月で満18年を迎えることになる。こうした長い間、活動が続いたということは、それなりに存在根拠があったということだろう。当初始めたときは40人だったが、現在は560人の会員組織となった。しばりのないフラットなネットワーク体であるが、その中で有志による国際部・報道部・技術部・川柳班・音楽班・ブッククラブなどの「部会活動」もできるようになった。*写真=レイバーネットのパンフレット

 レイバー(労働)という看板を掲げているが、労働運動の活動家の集まりではない。「労働問題はじめ社会問題」に広く関心のある「個人」がベースになっている。年3000円の会費でだれでも入れるので、メンバーは労組員はじめ、学生・市民・研究者・弁護士・ライター・ジャーナリスト・編集者・表現者などさまざま。比較的多いのがメディア系である。レイバーネット日本の設立に関わったのは、ビデオプレスの私と佐々木有美、全港湾の伊藤彰信、労働情報の高幣真公、JCA-NETの安田幸弘である。ビデオプレスは国鉄問題のドキュメンタリー映画『人らしく生きよう−国労冬物語』の制作・上映運動の中から、「運動+メディア」の重要性を意識していた。また他のメンバーも韓国労働運動の体験などから「労働運動とインターネット」の必要性を感じていた。そもそも運動とメディアは車の両輪であることは間違いないが、それまでの左翼・労働運動にとってメディアとは活字であり、機関紙や出版物だった。それが技術進歩のなかで、インターネットという強力なツールが生まれたのだ。これを使わない手はなかった。

 2001年にスタートしたレイバーネットが一番力を入れたのが、ウェブサイトを使った「報道」だった。この問題について、2009年に書いた文章「レイバーネット報道のめざすもの」があるので、以下その一部を紹介したい。そこに私たちの考えの基本を垣間見ることができるだろう。

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<レイバーネット報道のめざすもの>

 「レイバーネットの報道って何なの? ジャーナリズム? 政党・労組の宣伝媒体? オルタナティブメディア?」−−最近、よく聞かれる。マスコミのように第三者的に客観報道する立場でないことは確かだ。かといって、特定の政治党派や労働組合に寄り添っているわけでもない。「労働運動をベースに社会を変えたい」という思いの人々がネットワークをつくり、生みだした「運動メディア」である。

 「集会に来てほしい」「デモに参加を」・・告知はすごく熱心、しかし終わったらそのまま、というケースが多い。これではやりっ放しである。国労闘争団の最古参活動家・佐久間忠夫さんの名言のひとつが「やったら返す」である。「運動で大事なのは、やったら必ず返すこと。集会をやったら何人集まってどうだった、と報告する。カンパを集めたらこう使った、と報告する。返すことで、じゃ次は参加しようかとか、次もカンパしようかとなり、拡がっていく。運動なんてこれのくりかえしだ」。まったく同感である。告知と報告はセットだが、じつは報告(メディア化)のほうが、運動をつくるという点ではとても大事なのだ。私たちの報道がマスコミと違うのは、「運動を広げていく、運動をつくっていく」という観点がしっかりあることだと思う。

 レイバーネットのウェブサイトのつくりは、他とはずいぶん違っている。2001年の発足当初から、技術部の提案でZOPE(ゾープ)方式という日本で初めてのウェブ管理システムを導入した。いままでのホームページといえば、ひとりの管理者がいて、その個人が他の人から寄せられた情報を編集してアップをしてきたが、ZOPEは、完全なグループ管理型のシステムだった。つまり、IDさえあれば、だれでもホームページにアクセスし、管理者と同じように情報をアップできるのである。このトップダウン型でなくボトムアップ型は、レイバーネットのめざす「一人ひとりが主人公のメディア」にぴったりだった。

 問題もある。ボトムアップを実現するには、多くの会員が意識的・自発的に情報発信することが前提になる。「だれかがやってくれるのではなく、まず自分がやる」人が増えることである。幸い「ネットは運動の武器になる」と確信したメンバーらの努力で、年ごとにニュースやイベント情報が集まるようになった。特別に編集会議を開いたこともないが、レイバーネットの報道スタイルは、試行錯誤を繰り返しながら、自然に今の形が作られてきた。JR問題・トヨタ・労働争議・イラク反戦・共謀罪・教育基本法・反貧困・デモ弾圧事件など、ホットな事件を運動内部から報道する姿勢が評価され、年々アクセス数が増えた。2001年からの通算アクセス数は210万をこえ、現在も一日1600人(ページビューでは6000)あり、一定の影響力をもつにいたっている。

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<継続は力>

〜レイバーフェスタ・レイバー映画祭・レイバーネットTV

 前述の2009年の文章では、「通算アクセス数は210万をこえ、現在も一日1600人(ページビューでは6000)あり」と書いてあるが、2018年1月現在では、「通算アクセス数は745万をこえ、一日6000人(ページビューは30000)」となった。まだまだ小さな存在ではあるが、一定程度の市民権があり「レイバーネット、知ってます」「レイバーネット、見てます」という声をよく聞く。グーグルニュースにも登録されているので、マスコミがやらない労働問題のニュースなどが大きな広がりを見せることがある。最近では、アリさんマークの引越社やメトロコマースの争議、渡辺照子さんの雇い止め問題の記事・動画などはまさにその典型で、「運動+メディア」が相乗効果を生んだ成功例となった。

●レイバーフェスタ

 2002年12月に始めた「はたらくものの文化祭=レイバーフェスタ」は、先行する韓国・サンフランシスコに影響されて日本でも行うようになった。「暗い・ダサイ・固い」運動から「明るい・楽しい・やわらかい」運動へ。日本の運動には文化が足りなかった。フェスタは、映像・音楽・演劇などを皮切りに川柳・講談などさまざまな文化活動を発表する場になった。メインの映画以外はほとんどが、みんなでつくる下からの参加型スタイルだ。なかでも「3分ビデオ」はフェスタの目玉で、だれもが映像を使って表現し伝える場となった。2002年から始まって毎年12月に開催しているが、昨年2017年で15回目を数えている。

●レイバー映画祭

 レイバー映画祭は2007年からスタート。毎年7月に開催し、昨年で11回となった。2007年はハケン問題など労働問題が世間の注目を浴びた時期で、「労働問題の解決は組合をつくること」を訴えるキャンペーン「ユニオンYes! キャンペーン」を私たちは展開した。レイバー映画祭はその一環として企画されたものだった。第1回は「怒りの葡萄」「移民の記憶 」「ピケをこえなかった男たち」「君が代不起立」「本山闘争激闘34年の軌跡」「娘の時間・息子の場合・3 分間の履歴書」「遭難フリーター」「フツーの仕事がしたい」を上映し、大きな反響があった。それに力を得て、その後毎年充実したラインナップを組み、定着していった。参加人数も多く450人を超えたこともあった。とくに2017年では、「原発の町を追われて3」(堀切さとみ)「共謀罪が通った日」(湯本雅典)「コンビニのひみつ」(土屋トカチ)「トゥジェン!〜韓国サンケン労組は行く」(ビデオプレス)など、レイバーネット会員の作品が中心を占めるまでになった。それぞれ「3分ビデオ」などを出発点にして力をつけていった人たちだ。映画祭はいま花盛りだが、レイバー映画祭がもっている特徴は、単なる映画鑑賞ではなく「アクティブでラジカル」なところだろう。現実に寄り添いながら、現実を変えていこうという「姿勢」がどの作品にも共通しているからだ。いまや新しい「映画ムーブメント」として進化している。

●レイバーネットTV

 1990年代から「自主メディア運動」をしてきた私(私たち)の当時の夢は、自分たちのTVチャンネルを持ちたい、ということだった。しかしそれは夢のまた夢だったが、わずか20年でそれが現実のこととなった。2010年に「ユーストリーム」という生中継技術が普及した。リアルタイムでインターネットを使って「生中継」できる技術である。しかも無料。これは事実上のテレビだった。NHKよりすごいのは、ネットなので世界に配信できることである。実際、レイバーネットTVではフランス・カナダに視聴者がいるし、中継でつないだこともある。2010年5月10日に初めて「試験放送」を行ったとき、ジャーナリストの山口正紀さんは「画期的なことが始まった」をそのときの感慨を語っていたが、私も同感だった。月1回の放送だったが3.11以降、原発問題を多く取り上げるようになり月2回になり、これまで127回の放送を積み重ねた。視聴者はアーカイブを含めて各番組で、数千〜数万になる。

 レイバーネットTVが力を発揮するのは、マスコミがやらないテーマやたたかう当事者が出演することだ。たとえば「原発番組」。3.11直後は、原発危機報道や計画停電など社会全体が異常な雰囲気に包まれていた。そんななか3月17日に原発事故番組をつくった。たんぽぽ舎のメンバーをゲストに、事故の正確な見方、放射能の怖さやその対処方法を伝えた。これを観た人から「テレビの原発報道で窒息しそうだったが、やっと前向きになれた」との感想をもらった。まさに「オルタナティブメディアの面目躍如」だった。その後も、さまざまな問題を取り上げ、ゲストを呼び、レイバーネットの広がりを一層大きくすることになった。すべてアーカイブが残っているので、活用してほしい。(*レイバーネットTVで検索してください)

<民主主義をつくる力>

 ざっと振り返ってみても、この17年間休むことなく着実に一定の活動を積み重ねてきた。問題点としては、中心メンバーの高齢化・固定化、首都圏中心の運動から広がっていない、財政が厳しい、などいろいろある。しかし、これまでの活動のなかで「社会運動+メディア」のひとつのスタイルをつくったことは間違いない。2009年12月にレイバーネットが発行したパンフレットのタイトルは「文化のないたたかいなんてありえない!」だった。文化はメディアとも言い換えることができる。文化をつくる、メディアをつくることは、主権者である私たちが表現すること、伝えることである。マスコミ頼りではなく、自らが声を上げ「表現者」になること、それは「民主主義」をつくる第一歩である。いま求められているのは「下からの民主主義」の力。それは企業の専制支配をとめ、国家の戦争への道をとめ、翻って運動側の官僚主義を正す力である。

 昨年レイバーネットに加わったMさん(40代・女性)は、いきなりビデオカメラを買い、教わりながら、運動現場の動画を撮るようになった。いまや見習いとはいえ、いっぱしの「メディアアクティビスト」だ。川柳で社会風刺を始めた人もいる。今の世の中に声を上げたい、書きたい、撮りたい、表現したい人はたくさんいる。しかしその「場」はなかなかない。政治色が強い場合は、敬遠される。レイバーネットというネットワークのユニークさは、自由でゆるやかなところだろう。誰でも参加できるし嫌ならやめるのも簡単。だからこそ、そういう人たちに「場」を提供できたのではないか。一人でできなくてもネットワークの中で可能性は広がり、新たなものを生み出していく。今後もそんな役割をレイバーネットは果たしていきたいと思う。(まつばら・あきら/レイバーネット日本共同代表)


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