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原発再稼働阻止へ「ボーッとするな」〜広瀬隆さん白熱授業

   林田英明

 できれば聞きたくない。かなうなら現実から目をそらしていたい。しかし、それを許さないのが広瀬隆さん(75/写真)の“白熱授業”である。膨大なデータ分析を基に脱原発運動を早くから進め、今も精力的な講演と執筆を続けるノンフィクション作家。2月25日、「日本列島の全原発が危ない!ストップ玄海原発再稼働!九州連続講演」の北九州会場には130人が集まり、ひと言も聞き漏らすまいと熱い眼差しが向けられた。北九州から脱原発社会を考える会主催。

●玄海3号機の暴挙に声を上げよう

 質疑応答を入れて3時間。休憩もないのに誰一人、中座もせず、映し出されたパワーポイントによるスライドと広瀬さんのたたみかける解説に聴き入る。冒頭、「皆さんの生活はそんなに長くないと確信している」との脅し文句も効いているのか、中身と口調に圧倒されるばかりである。

 間近に迫っていた九州電力玄海原発3号機(佐賀県)の再稼働。それも、ウランとプルトニウムの混合酸化物であるMOX燃料を使う極めて危険なプルサーマル発電である。二重の暴挙を許している市民側に檄を飛ばす。

 「九電が動かすと言っているが、声を上げていけば皆さんが止められる。若い人にきちんと伝えてください。九州の人たちは、私が怒鳴りつけたいぐらいボーッとしてます」

 そう言って、地元の玄海町と隣接する唐津市の白血病死亡率の高さを棒グラフに示した。稼働すれば、事故がなくても命に関わるのが原発なのだ。

 東京・杉並に住む広瀬さんは、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、水道水を風呂はともかくとして口に入れる使い方はしない。魚介類は、おいしい三陸沖を食したい気持ちを抑え、長崎・五島列島産を選んでいる。放射性物質が日本全土をなめつくし、230キロ離れた庭にも大量の放射性セシウムが降り注いだ。その年の10月に測ってみると、1平方メートル当たり1万7160ベクレル。近くの公園に至っては9万2235ベクレルを計測し仰天した。3万7000ベクレルで放射線防護服を着なければならない汚染度である。「それなのに近くの幼稚園では芋掘りをしている」と驚き、あきれた。その夏、広瀬さんの庭には巨大なヘチマがなり、蚊は出なかった。「ボウフラなど虫からやられている」と実感するのだった。人間に影響を与えないはずがない。放射性物質の絶対量の総計でなく、見かけの空間線量にだまされてしまう「日本人の知性のレベル」を広瀬さんは嘆いた。

●直下地震を想定しない九電の異常

 玄海原発再稼働に当たって九電は重大事故を想定して原子力防災訓練を実施している。広瀬さんには「大事故が起こることを“保証”し宣言している」と映る。そもそも、耐震基準をどんなに定めても内陸直下地震には無力だ。震度7を記録した2年前の熊本地震の断層をスライドに示して、原発を直下地震が見舞えば配管や電気系統は破壊されると警告した。多重防護もすべて意味をなさない。制御棒を挿入する時間もない。稼働していれば、加圧水型なら約20分で始まるメルトダウンの阻止も使用済み核燃料の冷却も大混乱の中で不可能だろうと広瀬さんは説いて、こう述べる。「中央構造線が動き出した。襲われたら終わり。九電は尋常な神経じゃない」。にもかかわらず、九電は玄海原発の直下地震を想定していない。いや、想定しては稼働できないから想定しないことにするのだろう。「どうしてそう決められるのか。日本は地震の活動期ではなく激動期にある。この激動期は少なくとも今後、半世紀は続く。川内(鹿児島県)と伊方原発(愛媛県)は風前の灯。テレビに出てくる地震学者は被害が起こってから言う。信用しちゃダメですよ」と広瀬さんはまくし立て、原子力規制委員会のメンバーに一人も地震学者がいないことも併せて指摘するのだった。

 なぜ電力会社は遮二無二再稼働へ突き進むのか。2015年の『東京が壊滅する日』(ダイヤモンド社)のあとがきで広瀬さんはこう記している。

 「原発を廃止すれば、彼らは原発資産の特別“損失”を計上しなければならない。つまり、電力会社が過去に原発にのめりこんだ失敗によって自ら生み出したのが、その損失だ。この損失を隠すために、電気料金値上げで消費者を恫喝し、無用で危険きわまりない不良資産の原発を再稼働できる資産に見せようとしているだけなのだ。これは“粉飾決算の飛ばし”と同じなのである」

 だから、九電の瓜生社長は自分の代に“損失”を出して名を汚すことを恐れて問題を先送りする。許し難い身内の論理で隠蔽する無責任を、だから広瀬さんは本音でたたく。

 地震がないと思われていた韓国にも昨年11月、浦項(ポハン)付近をマグニチュード5.4が襲った。2005年に起こった震度6弱の福岡県西方沖地震は韓国にも衝撃を与えたと広瀬さんは言う。もし韓国の原発を直撃したら――。そんな不安をパニック映画『パンドラ』として具現化したのが2016年で、予告編を流しながら「これが、あなた方の近未来だ」と、地震に慣れきってしまった日本人の鈍感ぶりを切り捨てた。

●トリチウム水の海洋投棄を許すな

 1986年、現在のウクライナで起こったチェルノブイリ原発事故の傷は深い。2008年に国連科学委員会(UNSCEAR=アンスケア)が被曝量を報告している。同じく2013年に報告された福島県内の被曝量に当てはめると、ベラルーシのゴメリが福島市、ロシアのブリャンスクがいわき市や郡山市のレベルに相当する。住民の染色体に異常が多発しているゴメリやブリャンスクである。広瀬さんが原発推進側と見ているUNSCEARでさえ福島を危険視しているのだ。遺伝的な影響を口にする広瀬さんに「差別主義者だ」と非難の声が飛ぶことがある。復興へ向けて立ち上がる福島を風評被害にさらすな、といった意味合いもあるようだ。だが、これには毅然と医学的発言だと反論し、実害を見据えるべきだとの立場を崩さない。

 よく知られていないトリチウムの危険性について、どうしても言及したかった広瀬さん。トリチウムが染色体に異常を起こす懸念を示した1974年の新聞記事を紹介した。普通の水とトリチウム水は化学的に分離できず、体内に入ったら水素のように動き、ヘリウムになる過程で出るベータ線の影響を一生受け続けるというのだ。ところが、マスコミの中では最も反原発の紙面を作っていると目される東京新聞ですら、この内部被曝の危険性を軽視している。広瀬さんの怒気は次第に強まるのだった。

 福島第1原発の敷地内にたまり続ける汚染水が、そのトリチウムを含んでいる。タンクの数は半端ではない。約850基、貯蔵量は100万トンを超える。2013年に原子力学会が海洋投棄を促す見解を発表し、昨年になって川村隆・東電会長と更田豊志・原子力規制委員会委員長も同調している。広瀬さんのボルテージが上がる。「海水を持ってきて薄めて流す? 最初から全部流せばいいじゃない。何が違うんだ、えっ! こういうこと言ってるんだよ、あなたたちの命を預かっている規制委員長っていうのは。皆さん、黙ってちゃダメです」。そして、法律上「未必の故意」の殺人罪に相当するとして安倍晋三首相を筆頭として彼らを指弾した。講演会場が関西であれば東電会長に代えて、再稼働を進める関西電力社長と福井県知事が加えられる。今回は玄海原発を俎上に載せていたので瓜生道明・九電社長と山口祥義・佐賀県知事を入れた4人を攻撃していた。

 産経新聞がトリチウムの危険性に一切触れずに「殺人罪」という言葉尻をとらえて批判するので広瀬さんは激怒した。「この会場に産経の記者は隠れていないか。いたら手を挙げろ。報道ってのは、ちゃんとやれ」。1月20日に茨城県土浦市で開かれた広瀬さんの講演に対し、チラシに「反原発」を想起させる文言が並んでいるので後援の土浦市とつくば市は政治的中立性に疑問があると主張する記事が産経水戸支局から配信されている。原発の本質を外したイチャモン。広瀬さんは、産経も「殺人罪」に値すると考えているのかもしれない。

●経済成長の陰で殺される側に立つ

 更田氏とは何者だろうか。広瀬さんは家系をたどっていく。祖父の健彦は原発メーカー、三菱電機の重役だった。その婿養子である豊治郎が東海研究所所長で原子力委員会の委員を務める。更田氏の姉の夫が近藤健男で三菱商事社長。その息子の健一郎は三菱重工に勤めるという原子力ファミリーなのだった。

 更田氏の祖父、健彦は石坂泰三の義弟に当たる。では、その石坂泰三とはどんな人物か。原発メーカーの東京芝浦電気(現東芝)社長、東電と日本原電の取締役を歴任し、経団連会長を務めた男である。日本万国博覧会協会会長として1970年の大阪万博開幕日に敦賀原発営業運転の電気を流した。高度成長を象徴する出来事だったともいえようが、広瀬さんにとっては忘れられない70年である。3月に新日鉄が発足し、スモッグが経済成長の象徴のように語られ、7月には杉並区の高校で女生徒43人がバタバタと倒れる時代を迎えた。光化学スモッグである。万博会期中の8月18日、石坂泰三は毎日新聞のインタビューに答えて「公害のために死んだ者はいないよ」と、すでに200人以上の死者を出して社会問題となっている中で放言する。「産業をつぶしても公害を防げというのはおかしいね。どっちを選ぶかといえば、僕は産業を選ぶ」とまで断言した。広瀬さんは「皆さんの命なんか“ヘ”とも思っていない。私の原点はここにある」とマイクを持つ手に力を込めた。広瀬さんは「殺される側」に立ち続ける人間である。2013年、高市早苗・自民党政調会長(当時)が「原発事故で死んだ人はいない」と発言したことも挙げて、この国の支配層の精神構造は何も変わっていないことを示唆するのだった。

●自然を破壊する再生エネには反対

 再生可能(自然)エネルギーに対する疑念も隠さない。いち早く家庭用の風力発電を取り入れた経験を踏まえ、小水力発電は推奨しつつも自然エネルギー礼賛の動きは否定した。屋根に載せる太陽光発電はともかく、メガソーラーは風力同様、絶対反対の立場を取る。市民運動の側には、核エネルギーからの転換として再生エネルギーを奨励する傾向が強いが、広瀬さんは長野に行って「パネル地獄になりそうだ」との声を聞き、林まで切り開いて景観を破壊するようなメガソーラーに危機感を覚えたという。

 広瀬さんの自宅にはパナソニックのエネファーム(燃料電池)がある。運転させながら技術屋として改善点を企業に伝えていく。電気とお湯が同時にできてしまうので妻から盛んに風呂を勧められても二人暮らしには使い切れないほどだ。自動車企業も含め、産業界のほうが脱原発に向かう。実利だけでなく環境問題も本気で考えている。だから、電力会社の電気を買わず、ガスコンバインドサイクルにも移行する。「われわれはエネルギーの本質を分かっていない。(民生用の)貧乏人はほとんど電気を使っておらず、産業界と業務用が日中に使っているのが大半だ。彼らが実は味方で、素晴らしい技術を持っている」と勢い込み、産業界を敵に回すようなまねはしないでほしいと願った。脱原発の理念に拘泥するあまり、市民運動の側に現実が見えていないのではないかという警句。「自然エネルギーがないと原発が止められない、というトーンは違う。運動をすり替えないでほしい。私から見れば、むしろ自然エネルギー派のほうが自然を破壊しようとしている」とまで述べた。会場に微妙な空気が流れたように、反駁する者も少なくないだろうが傾聴に値しよう。議論はそこから始まる。国民総意で脱原発の方向へ協力し合わなければ、喜ぶのは推進側の原発マフィアである。地球温暖化の問題も、誰が声高に唱えて得をしているかを洞察すれば、コロリとだまされて大報道するマスメディアも交えた壮大なウソも見抜けると広瀬さんは言いたいようだ。

●引用でなく自分の言葉にして語ろう

 会場から「安倍さんが……」と発言があると間髪を入れず「安倍“さん”なんて敬称を使うな。あの男は人殺しなんですから。福島の事故をこれから日本中で繰り返そうとしている。皆さんは甘い」と語気鋭く返した。古希も過ぎ、さすがに連続講演はくたびれるとこぼしていた通り、9日間で九州8カ所を巡る今回の強行日程は過酷である。しかし、原発事故は待ってはくれない。原発そのものを終わらせるべく命を燃やす。

 原点は「殺す側」への怒り。継続できているのは親としての情感もあるかもしれない。講演の叱声だけ聞いていると、近寄りがたい頑固オヤジに見えてしまうが、実はそうではない。原発事故ですぐ西日本へ疎開させた孫たちのうち、昨年4月、高3の孫娘が杉並に帰ってきた。いつも生意気な口を利く孫娘を思わずハグしてしまったという。「福島に残った高齢者の気持ちが分かったよ」としみじみ語るのは、子や孫のいない寂しさと未来の途絶。ヘビースモーカーの広瀬さんは、いま外国製たばこを吸う。日本のタバコ畑も放射性物質を浴びてしまったことを知る孫娘からの忠告に素直に従った。自然食品店を東京で営む娘が食を管理できるから孫娘は帰ってこられたとはいえ、この生きにくい時代をつくった責任を大人の一人として共に感じなければならないと、家族の話を聞いて私は思った。

 最後に広瀬さんは会場に語りかける。「私が言ったことが正しいかどうか、ご自分でチェックしなさい。そうしたら、私の言葉を誰に対しても強く言えるんです。そうやって周りの人を変えていってください。人の言葉を引用しているだけじゃダメです」。そう、受け売りでは理解が浅いため、風説を信じたり数字のトリックにだまされたりしてしまう。誹謗中傷や脅迫に広瀬さんが負けないのは、事実の力があるからだ。

 広瀬さんが情報を提供する山本太郎参院議員は、その資料を読み込んだうえで脇に置き、自分の言葉にかみ砕いて多彩な角度から国会で政府を追及している。広瀬さんは「彼は役者だから」と、俳優としての素養を生かすその議員活動を評価するが、どうしてどうして、広瀬さんも十分に「役者」である。メリハリの利いた講演は、飽きさせない工夫とともに、時に挑発しながら参加者を覚醒させていく。昨秋発刊された『広瀬隆白熱授業〜日本列島の全原発が危ない!』(デイズジャパン)を紹介して「2冊3冊買っていく人が多い。みんな真剣でした。日本の終わりは目の前まで来てます。今の地球の動きを見ると、大地震は必ずどこかに来ます。それが、どこか、いつかははっきり分からないだけ。だから皆さんも覚悟して、そして自分と家族を守れるよう行動してください」と結んだ。商売上手に乗せられ、私も買ってしまった。主催者によれば、この集会でも63冊が売れたという。出席者の半数に上る。自分の頭で考えることが大事だ。正気に返る一冊と感じながら、いまページを繰っている。


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