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「法テラス」地方事務所でも230人が雇止め〜広がる「無期転換逃れ」

    知多 歩

 司法改革の柱の一つとして設立された法テラス(日本司法支援センター)でも今年9月、全国にある地方事務所の窓口対応専門職員230人に対し、来年3月末日で雇止めとなる突然の予告通知があった。ちなみに法テラスは全国に110か所ある。

 法テラスは、法的トラブル解決のために国の税金で運営されている「独立行政法人に準じる」組織。http://www.houterasu.or.jp/houterasutowa/index.html
 国は雇用の安定をめざし法改正を進めているわけだが、その一方で法務省所管の公的法人でおこっている法改正に逆行するような事態について、首都圏の法テラスに勤務する当事者、数人に話を聞いた。

 雇止めのターゲットとなった窓口対応職員は、外部からの問合せ内容に応じた法制度や、解決のための相談窓口を案内する情報提供業務、経済的に余裕がない人に無料法律相談や弁護士・司法書士費用などの立替えを行う民事法律扶助業務に携わっている。週1〜2日勤務の1年契約で、実質70歳定年。契約が更新されない例はこれまで殆どなかった。

 クビ切りの宣告は個別面談で行われ、来年3月に一斉に「契約終了」すること、その理由として、予算の厳しさ、社会の変化に合わせた業務内容の見直し変更が必要なためであることが説明された。

 「予想もしてなかった契約終了にショックを受け、ほかの説明は頭に入らなかった」「雇止めの理由がまったく納得できない」「新しい業務内容はただの予定でしかなく、実行可能なのか疑問に思った」「これまでと同じくシフトの席数を減らす方法で予算削減はできる」などなど、面談内容に強い不信不満を抱いたと、職員らは口々に訴える。

 「ただし、現職員は情報提供専門職員(仮称)の新規採用募集にご応募いただくことができます」と言われ、示された新規募集要項案の雇用期間は上限5年となっていたそうだ。

 社会保険への加入を避けるため、窓口対応職員の現在の勤務日は週に2日前後に抑えられ、収入確保のために複数の法テラス事務所に勤務する職員が少なくないが、4月以降は複数勤務は禁止され、雇用される職員数も大きく削減される予定である。

 その後、長く休眠状態で最近活動を再開したばかりの法テラス内唯一の組合「神奈川地方事務所労働組合」が、今回の契約解除撤回に加え、非常勤の待遇改善などの要求を執行部に申し入れ、10月31日に団体交渉が実現した。

 17時45分から22時近くまでの長時間に及んだ団交には神奈川地方事務所の職員中心に十数人が参加。組合員から多くの意見と質問が出されたが、雇用者側には要求を聞き入れる姿勢はなく、交渉結果は歩み寄る余地なしのゼロ回答だった。

 やり取りの中で、現在勤務中の職員が応募し採用された場合は、経過措置として現行通りに70歳まで勤務可能であること、また4月以降に無期転換の申し出ができるが、今年3月末契約終了者は2013年4月からの勤務が5年未満なのでその権利がない、これは法律違反ではないと、弁護士でもある第一事業部長は説明した。

 法テラスは、税金で運用されている公的な機関で、給与は国家公務員の基準でありながら職員は公務員ではなく民間と同じ扱いの曖昧な組織である。常勤と非常勤の待遇格差の大きさが過去にも問題となり、関西の非常勤職員から裁判を起こされたこともある。

 安定雇用に向けて改正された新ルールをすり抜けるためとしか思えない雇止めと、団交での回答からは、使用者の社会的責任意識の希薄さがうかがわれてならない。

 「国民に身近で速くて頼りがいのある司法の実現をめざす司法改革の柱」を自負しながら、法律の趣旨を無視した悪しき見本のような対応をする法テラスに、弱い立場の人々がはたして労働その他の法律相談をする気になれるだろうか。

 もっとも「今回の雇止めは無期転換を防ぐためではないのか」「どう考えても他に首を切られる理由がわからない」との質問に、団交の席で前述の法テラス第一事業部長は「そうではない」と否定した。

 そして団体交渉後、神奈川地方事務所に関しては驚きの展開があった。労働組合執行委員長に局長から、現在の情報提供職員から応募があれば全員採用する、人数などで調整が必要であれば自分の責任で本部とも交渉すると話があり、この意向を局長が直接情報提供職員に伝えた。それならということで応募した全員が採用されたというのだ。

 実質的に一定の成果が得られたわけで、組合の存在価値、団体交渉をした意味は大きかった。    逆に、別の地方事務所では「雇止めに納得してないので応募はできない」「一緒に働いてきた仲間と席を争いたくない」「今回の仕打ちに失望した」と、募集に応募しない現職員も結構いたとのこと。

 法テラスの新規職員募集は全国一律の条件であるが、採用についての裁量は各地方事務所ごとに任され、募集・面談・採用のタイミングはさまざま。すでに採用者決定のところもあり、現職は一人も残らず新規応募者のみが採用された事務所についてサービス低下を心配する声があがっている。

 唯一の組合が交渉を行った神奈川地方事務所の現職応募者全員採用は例外対応だが、現職優先の配慮をする事務所も少ないながらある。    それにしても無期転換が実施されるタイミングで担当職員全員を一律に切る、いささか乱暴かつ不可解な雇止めが、法律専門家が運営にかかわる法テラスでも、現在進行中である。

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解説・「無期転換逃れ」の現状

 11月末の参院予算委でも質問されたが、有期契約労働者の無期転換を阻む雇止めが、いま官民を問わず頻発している。12月16日のレイバーフェスタ2017で上映され反響を呼んだ3分ビデオ「派遣労働者・渡辺照子さん最後の日」も、記憶に新しい。

有期労働契約が無期契約に転換できる 

 2013年に施行された労働契約法改正で、同一使用者との間で有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えると、(2018年4月以降に)労働者が申し込めば無期契約に転じられる「無期転換ルール」が定められた。

 パート・アルバイト・派遣社員・契約社員・嘱託など期間の定めがある有期労働契約で働くすべての人が対象で、使用者は「無期転換申込権」を放棄させることはできない。(ただし、高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者、定年後に継続雇用される有期雇用労働者は、一定の条件と手続のもとで「無期転換申込権」が発生しない特例あり。)

 この改正は、雇用の安定を図り、労働者が安心して働き続けられる社会の実現をめざすものだ。しかし、無期転換は使用者側にとって人件コスト増大の可能性があり、大量の雇止めが出るのではと、法改正時から懸念されていた。契約のない期間が6カ月以上あるとクーリングされる点も、無期転換ルールを骨抜きにする抜け穴だと指摘されている。

無期雇用しないための切り捨てが横行

 2013年以降、多くの大学で教職員の無期転換を阻むための「5年上限」が次々に計画され、早稲田大学をはじめ上限5年枠撤廃の闘いが各大学で巻き起こった。

 早稲田では15年秋の和解で3千人が無期転換権を認められた。東京大学でも、有期契約の教職員の雇用を最長でも5年までとする規定があり、労働組合などが「無期転換逃れだ」と廃止を求めていたが、この規定を来年4月に撤廃する方針であることが、12月中旬に明らかになった。これらの動向は、他大学にも影響がありそうだ。 民間企業でも、例えばTOTO(株)の能力等級の昇級を条件に無期化する新人事制度導入に関して現在、裁判中であり、無期転換をめぐる裁判結果が注目される。


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