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毎木曜掲載・第36回(2017/12/21)

ロシア革命100年ー社会主義が生まれる瞬間

●『世界を揺るがした10日間』(ジョン・リード 伊藤真訳 光文社古典新訳文庫、1540円 / 評者=志真秀弘

 今年は、ロシア革命100年にあたる。この年にふさわしい本は『世界を揺るがした10日間』をおいて考えられない。11月に新訳も刊行された。

 作者ジョン・リード(写真)は、1917年9月、ロシアに着く。この時彼は30歳だった。すでに『反乱するメキシコ』を出版し、評価を得ていた。革命の首都ペトログラード、さらに前線への旅も含め5ヶ月、十月革命の渦中で取材し、アメリカに帰国後の19年3月、本書を刊行する。

 「ソヴェト社会主義共和国連邦」は、革命後70年余を経て、1991年、崩壊した。それは、社会主義の死を意味するか? けして意味しない。

 このルポルタージュには、ロシア革命が、人民による人民のための人民の革命であった事実が、生き生きと描かれ、読むものは現場に立ち会って経験しているような感情に襲われる。革命の領袖たちも登場する。ソヴェトの会議場に入ろうとして兵士に止められ入場できないトロツキー。彼は、ポケットを探すが通行証は見つからない。「ペトログラードソヴェトの議長だよ」と名乗る。指揮官が現れ、「トロツキー? どっかで聞いた名前だな」とどうにか通される。そして冬宮襲撃の時略奪が始まろうとする瞬間、「俺たちは盗賊じゃない」との声がして即座に盗みが止む場面、翌朝、まるで何事もなかったかのように人々が働きに出て行く情景。また11月下旬、農民大会の3日目、紛糾の最中、突然レーニンが演壇に立つ。「ひっこめ」という野次で会場は大騒ぎになる。レーニンは、騒ぎが静まるのを待って辛抱強く説得をはじめる。どれも映像が浮かぶような見事な描写だ。

 ロシア革命は、労働者、兵士、農民のうねりに根ざした、どこまでも自発性に溢れたものであった。ボリシェビキは、このうねりを誰よりも正確に政治的・科学的に把握し、瞬時に指針提起する能力を備えたグループであった。この社会主義が生まれ落ちる瞬間を、リードは、見事に描ききっている。それだけではない。リードは鋭敏な感覚で後にも続くいくつかの重要問題の発端に読む者の注意を促している。

 人類は幾たびもかけがえのない解放の瞬間を経験した。しかしその経験は、あっという間に固定した判断に変化する。しかも、その判断をわれわれは、経験と思い込んでしまう。大切なのは、経験を新鮮なままに保ち、そこから新しい判断を導くことなのだ。『世界を揺るがした十日間』は、それを可能にする貴重な手がかりに他ならない。

 もう1冊手がかりをあげておきたい。獄中にあったローザ・ルクセンブルクが1918年に執筆した『ロシア革命論』(伊藤成彦、丸山敬一訳、社会評論社)である。この2冊は、今ロシア革命を考える両輪であると思う。

 『世界を揺るがした10日間』は、スターリンの時代に、禁書扱いにされていた。理由は、本書を読めばわかる。愚かしいことだ。しかしそれも、歴史の事実に他ならない。鏡像が歪んでいるからと言って鏡を割ってみても、歪みは消えない。正面から向き合う以外にない。それによって、はじめて社会主義のルネッサンスも可能になる。輝きを輝きとしてとらえ、陰りを陰りとしてみつめることだ。本書は、岩波文庫版が普及しているが、いささか読みにくい。小笠原豊樹訳のちくま文庫版は、今はキンドル版でしか読めないが、名訳である。今回刊行された新訳は読みやすい。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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