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毎木曜掲載・第34回(2017/12/7)

首都圏の三店舗で実際に働く

●『ユニクロ潜入一年』(横田増生 著、文藝春秋、1500円)/評者=大西赤人

 ひとまずこの国に限って、ユニクロの衣料品を全く手にしたことがないという人は、一体どのくらい居るだろうか? 一部富裕層はさておき、いわゆる狠耄瓩覆い靴修谿焚爾寮験茲魃弔狄諭垢砲箸辰討蓮◆峭睇兵舛淵ジュアルウエアを手頃な価格で提供」(親会社・ファーストリテイリングのサイトより)するという同社の品物は、極めて身近かつ好都合な存在であろうと思われる。もちろん大西も、また家族も、これまでに相当数のユニクロ・ブランドを身に着けてきたし、長らく続いた日本のデフレ状況にもマッチしたユニクロは、この20年余り、成長・拡大を続けてきたわけである。

 たしかにユニクロは、昔ながらの牋造ろう・悪かろう甅牋楕買いの銭失い瓩箸い図式の打破を戦略として打ち出し、それに一定程度は成功したと言えるだろう。しかし、名物社長・柳井正のもと、企業として繁栄する――内部留保は3400億円、柳井社長の資産は2兆円とされる――反面、とりわけ2010年代に入ると、サービス残業の常態化、休業者の増加、高い離職率など劣悪な労働環境を指摘され、いわゆる爛屮薀奪企業瓩梁緝修箸靴独麁颪鰺瓩咾襪海箸砲發覆辰拭

 それらの主要な一つは、横田増生による『ユニクロ帝国の光と影』(2011年、文藝春秋、未読)であった。ユニクロは、同書出版元の文藝春秋社に対して名誉毀損による2億2千万円の損害賠償と本の回収・絶版を求め提訴するが、全面的な敗訴に終る。しかし横田は、その後のユニクロ決算会見などの取材を拒否され、憤慨。加えて、雑誌における柳井社長の「我々は『ブラック企業』ではないと思っています(中略)『限りなくホワイトに近いグレー企業』ではないでしょうか」「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」との発言を眼にし、「この言葉は、私への招待状なのか」と感じる。ユニクロへの潜入取材(調査)を決意した横田は、一旦妻と離婚、再婚することで名字を合法的に変えるなど、一切虚偽を伴わない形でアルバイトに応募、面接を受けて採用され、『週刊文春』へのルポ連載開始で身分を知られるまで、一年余り・合計800時間にわたり、首都圏の三店舗で実際に働くことになる。

 ここに描き出されたユニクロにおける「労働」の実態は、むしろ想像を絶するものではなく、想定内の遙か高みとでも表すべきであろうか。「手頃な価格」を絶対とするユニクロが成長を続けるためには、薄利多売を基本とし、経費削減を徹底せざるを得ない。しかし、併せて「高品質なカジュアルウエア」という持ち味をも維持するためには、原材料費を削るには限界がある。そこでユニクロに――柳井社長に――とっては、人件費を切り詰めることが最重要必須の眼目となる。店舗の性質上、閑散期と繁忙期との仕事量に落差が大きく、後者を視野に正規社員を常時雇用することなど到底不可能。従って、時給の安い――象徴的超大型店である『ビックロ』新宿東口店でさえ、いや、だからこそ、新人アルバイトの時給は1000円(交通費なし)――アルバイトを数多く確保しなければならないものの、暇な時には彼らは無駄金を払う対象と化してしまうので、なるべく出社させない(時給を発生させない)ように仕向ける。

 横田は、「柳井社長の雇用と賃金に対する考え方」を「要は、支払った給与以上の働きをしたのなら、給与を上げてもいい。そのためには効率を上げろ。一人で二人分、三人分の仕事ができるように工夫しろ、ということである」とし、その前提は、上限のある人件費総額の中で、効率を上げて働く人間になら分配を増やしてもいいというものだ、とまとめる。だが、横田の疑問通り、時給が僅かに数十円単位で上がる細かい昇進システムの中に組み込まれたアルバイトが、年収2億4千万円の柳井社長に「皆さん一人ひとりに使命感があるのかないかで、仕事の結果は大きく変わります」とハッパをかけられたところで、虚しいだけではなかろうか。

 2000年初め、大西は『フリースの行き先』という短文を書いた(『社会評論』124号)。山口県宇部市の小さなメンズショップに過ぎなかったユニクロは、1997年頃から自社ブランド製品を増やしはじめ、1998年には、安価でカラフルな「フリース」を大々的キャンペーンによって発売。同年200万枚、99年850万枚、2000年には2600万枚という驚くべきセールスに結び付ける。上記の短文は、「石油由来合成樹脂ポリエステル」を原料とする大量の「フリース」が、数年後には確実に膨大な「倏海┐覆ぅ乾澂瓠廚伐修垢任△蹐Δ海箸悗侶念が主眼だったけれども、その前段では、次のように記している。

 「【フリースの】安価な大量生産は専ら中国の労働力によって成立しているわけだが、ここでは、それを『日本資本による中国人民に対する搾取の現われ』として言挙げするのではない」

 今や中国の人件費は上がり、ユニクロは働き手を東南アジアに求めている。国内では、社員→アルバイト→派遣(アルバイトで埋め得ない部分には、派遣が動員される)というベクトルが依然として継続している。ここには、資本の総量は実はさして変わらず、ただしその配分量が――それも一方向へと――移動しているに過ぎないという一種の「エネルギー保存の法則」が存在しているように思われる。

*写真はユニクロ銀座店

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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