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「この会社が私の人生を搾取したんです!」〜派遣労働者・渡辺照子さん最後の出勤

 12月6日は、派遣労働者・渡辺照子さん(58歳/写真)の最後の出勤日となった。渡辺さんの仕事は、都内C社の一般事務で、2001年から17年間働いてきた。「3か月更新」だが事実上「自動更新」で働きつづけ、シングルマザーとして2人の子どもを育ててきた。ところが10月末に突然「次の更新はない、12月末で終了」と雇止め解雇を通告された。賞与も交通費もいっさい出ない「派遣労働者」には、退職金もない。そして、いきなり寒空の年末に放り出されてしまうのだ。肩を落としながらとぼとぼと歩き、最後の出勤をする渡辺さん。

 午前8時半、会社のあるビルの入口で、渡辺さんはいきなり会社名が刻んであるプレート板を、こぶしで何度も叩いた。「この会社が私の人生を搾取したんです!」。そして首にぶら下げている「入館カード(security card)」(写真)を取りだしてこう言った。「私を雇止めにした総務部の最後の言葉は『最後の日にこのカードを返してください』のたった一言でした。このカードぼろぼろでしょう。私みたい…」と絶句した。本当にすり切れていた。職場に入退室するたびに長い間使ってきた「入館カード」だった。「壊れたコピー機を取り替えるのとは訳がちがう。私は人間だ。まして故障もしていない」と声を振りしぼる。同じ会社で派遣切りされたのは計5人、全て女性だ。24年勤続した女性は通告を聞いて「地面の底がぬけるようだ」と言ったという。

 なぜいま「派遣切り」なのか。渡辺さんは「それは労働契約法で来年4月から施行される『5年ルール』で、無期転換の機会が訪れる。その権利を行使させないためにあらかじめ雇止めを強行したと思う」と。渡辺さんは11月に「派遣ユニオン」に加入し、派遣元会社に「雇止め解雇撤回」を求めることにした。関根秀一郎・派遣ユニオン書記長はこう言う。「いま契約社員や派遣労働者を雇止めにするケースが多発している。労働契約法の無期転換の効力が発生するにが2018年4月1日、労働者派遣法の雇用安定措置の効力が発生するのが2018年10月。それを避けるためにやっている。渡辺さんのケースは氷山の一角。これから大変になる」。

 非人間的働き方の典型である「派遣」をなくしたい、これが渡辺さんの願いだ。「会社の仕組みは士農工商の身分制度と同じ。派遣はその一番下の身分で人間扱いされていない。17年の間、交通費さえも出してもらえなかった」。「でもこの怒りをエネルギーに変えます! このままでは終われない。たたかいます」、渡辺さんからやっと笑みがもれた。(M)

→この日の映像はレイバーフェスタ2017の3分ビデオコーナーで発表します。レイバーフェスタ情報

●初めて現場取材を体験して

   依 草太


 *レイバーネット以外にTV局の取材もあった

 今回、渡辺さんのレイバーネット報道部の取材に参加した。渡辺さんは17年間、派遣労働者として一生懸命働いてきた会社での最後の日を迎えた。17年とはおぎゃーと産まれた赤ちゃんが高校生になる年月だ。そのような長い間、必死に働いてきた人が、理由も明らにされず、突然解雇されてしまう。企業に使い捨てにされる非正規労働者の悲惨な現状を目の当たりにした。現在の日本社会では労働者の4割が非正規雇用だ。彼女のような境遇にあう人々は今後多く出てくるだろう。雇い止めとなってしまったが渡辺さんはこれであきらめない。当事者だからわかる痛みを多くの人々に伝え、彼女と同じような境遇に会う人々がいなくなるよう、今後もあきらめずに声を挙げ続けていくだろう。

 また、今回初めて取材の現場でビデオカメラを回した。関西のテレビ局クルーも来ていて、取材関係者が多かったため、撮りたい角度や構図で撮ることができず、満足のいく映像を残せなかった。ドキュメンタリーは一発勝負であり、やり直しはきかないことを学んだ。現場でいかに取材対象者の思いや声を拾いあげ、映像として残すことができるかが重要なのだ。

 近年、メディアは急速な発展を遂げており、簡単に多くの人々に情報を伝えることができるようになった。映像を見た人はそれを通じて他人の境遇に思いを馳せることができる。僕は、映像は社会を変える力を持っていると確信している。今後も映像について学び、人々に寄り添い、消されてしまうかも知れない小さな声を届けていきたいと強く感じた。(レイバーネット報道部 見習い)

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●12月7日には派遣問題を取り組んでいる山井和則衆院議員(手前)を訪ねて協力要請を行った。中央は関根秀一郎・派遣ユニオン書記長


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