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「子どもたちは柔軟で賢い」〜宮澤先生の教育実践「ハンセン病と人権」

    佐々木有美

 こんな授業を子どものころに受けていたら、もう少しわたしの生き方は変わっていたかもしれない。12月3日、東京・中野商工会館で開かれた学習会「ハンセン病から考える人権教育」(「君が代」解雇を許さない会主催)に参加しての感想である。東京の公立小学校教員・宮澤弘道さん(写真)は、「総合学習の時間」を使って、ハンセン病と差別・人権について教えている。30時間、半年を費やして行われる授業では、ハンセン病についての基礎知識や差別の歴史、患者さんたちの闘いについて学ぶとともに、ハンセン病資料館や多磨全生園でのフィールドワークなどが行われる。

 わたしが驚いたのは、最初の授業のことだ。生徒は、何の前提もなくハンセン病の患者さんを描いたデッサン(写真)を見せられる。病気で崩れかかった顔に子どもたちは、「気持ちが悪い」「怖い」「妖怪」などの感想をもらす。一般的にハンセン病についての授業では、強烈な印象を与える絵や写真は、子どもたちにトラウマを与えるとして、見せないことになっているそうだ。宮澤さんが、あえてそれをするのは、子どもたちに「自分の中にある差別意識に気づいてほしい」からだと言う。

 もうひとつ、一般の授業と違うのは、患者さんの運動を取り上げるところだ。東京都の人権教育プログラムには、冒頭に次のような一文がある。「教育活動と政治活動・社会活動とを明確に区別し、―中略― 特定の主義主張に偏ることなく教育の中立性を確保する」。このため一般の授業では、ハンセン病に関しても、患者さんの抵抗運動などに触れることはほとんどないそうだ。宮澤さんは、戦後まもなく、プロミン(治療薬)獲得運動から始まる患者さんたちの粘り強い運動が、1996年に悪名高い差別法「らい予防法」を廃止させた原動力になったと話す。「人々の怒りが社会を変えていったことを子どもたちにわかってもらいたい」。宮澤さんの願いだ。

 授業の締めくくりは、「もし目の前に、自分にとって不利益な人が現れた時、その人の人権を守ることができるだろうか」という問いをめぐる議論。子どもたちからは様々意見がでたが、最終的には、みんなが無関心にならず、「もし自分だったら」と考えることで、人を切り捨てることはなくなっていくという結論に達したという。宮澤さんは「子どもたちは、真剣に社会問題に向き合うことができる。どうすればいいか、何ができるかを考えることができる。大人がテーマを取捨選択するなどやめたほうがいい。彼らはもっと柔軟で賢い」と訴えた。

 宮澤さんの話によれば、今の学校は、政治の世界に劣らず忖度が幅を利かせているそうだ。問題になりそうなことには関わらないという教員自身による自己規制だ。「平和教育」などへの上からの圧力はあるが、彼のように人権をテーマに自由に子どもたちに教えることができているのも事実。教員の人たちには、勇気をもって取り組んでほしいと思う。

 道徳の教科化が来年4月から小学校で始まる。道徳教育と人権教育はどう違うのか。「個人の心の在りようを考えるのが道徳、その人が人として生きていく権利を考えるのが人権教育」「子どもの内面に公教育が介入する道徳の教科化をひっくり返さないといけない」と彼は言う。宮澤さんが、教員になったきっかけは、紛争下の東チモールでボランティア活動をしていた時、殺されかけたことだという。その後、「殺そうとした人間がこちら側の人間とわかり正義って何と思った。これを契機にいろんな物事をいろんな視点から見るクセがついた」。柔軟で自由な発想、信念をつらぬく姿勢は、こんな体験に裏打ちされていた。

●宮澤弘道さんの関連記事
子どもの心に踏み込む「教育」はごめんだ!〜「道徳」の教科化を考える集い
http://www.labornetjp.org/news/2016/0402sasaki


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