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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 災害時の、無償の救助行為が意味するもの
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 ●第5回 2017年9月25日(毎月10日・25日)  

 災害時の、無償の救助行為が意味するもの


 *写真=テレビ報道より

 メキシコが、この9月に2度にわたって大地震に見舞われた。一度目は9月7日、南部のオアハカ州を震源地として起こった。マチスモ(男性優位)の伝統が貫徹しているメキシコ社会にあって、母系制社会の原理が生きているユニークな街、フチタンが壊滅的被害を受けたと伝えられた。1994年に反グローバリズムの旗印の下に蜂起して、23年後の今も自主管理区を維持しているサパティスタ民族解放軍がいるチアパス州の一部にも被害は及んだというが、サパティスタ地域は大きな被害を免れた、と現地の友人は伝えてきている。

 続いて9月19日には、首都メキシコ市が大きく揺れ、被害も大きかった。いまだその全容は見えていない。奇しくもこの日は、首都を中心に1万人もの死者を出した1985年の地震が起こった日と同じ日だった。この日、地震が起こる数時間前まで、地震からの避難訓練を行っていた地区もあったというから、32年前の悲劇はいまだに人びとの記憶に残り続けているのだろう。

 私は二つの点で、このメキシコ地震の記憶が頭に刻み込まれている。時空を超えて、現在の教訓にもなるようだ。一つは、漫画家・サトウサンペイの朝日新聞連載漫画「フジ三太郎」である。当時、日本政府は125万ドルの緊急援助金をメキシコに送った。だが、フランスが派遣した救助犬のように、テレビの「絵」なる援助方法は大きく扱われるが、日本のそれは影が薄いとの報道があった。漫画の主人公はその新聞記事を読んで、怒っている。思いついたのは、ロサンゼルスからメキシコ市へ至る道順を使って大名行列を行なうというPR方法である。先頭の侍は「125万ドル」と大書した横断幕を広げている。沿道には、ソンブレロをかぶり、日の丸の小旗を打ち振るメキシコ人が詰めかけて、日本からの援助を歓迎している……。

 サトウサンペイの漫画は、1960年代にあっては、小市民の日常生活の中にあるささやかな楽しみ、滑稽さ、狡さ、哀しみなどを機知に富んだユーモアで描いて、クスリと笑わせるものがあった。80年代半ばのこの漫画には、あの時代の特徴としての拝金主義・大国主義・民族排外主義があふれ出ているばかりであった。それは、ひとりサトウサンペイにのみ現われていたのではなかった。地震学者や地震予知センター研究員たちの多くは、「後進国」メキシコの建築水準の甘さや技術水準の低さを語り、もって「先進国」日本の安全性を強調して、読者や視聴者の大国意識をくすぐった。果たして、結果はどうだったのか。私たちの社会はその後、1995年と2011年の大地震はもとより、その他の地域でも起こり続けている複数の大地震や津波、大雨を通して、「先進文明」の脆さも、里山・山間・河川地域の危険性も十分に経験しつくして、現在を生きている。

 二つ目は、かのメキシコ大地震の際に発揮された民衆の連帯行為に注目した記憶が蘇える。被災現場の近所の住民、学生、医師、看護婦、貧しい労働者が自発的に駆け付けた。瓦礫の山のトンネル堀りには鉱山労働者がやってきた――いまは世界中どこであっても災害直後から現れる、民衆自身によるこの自発的な救援活動は、私の記憶では、この時のメキシコの動きがとりわけ目立った。それは、中央政府の怠慢や無力さを再確認する契機ともなって、民衆運動が自律性を高めることに繋がった。

 カナダの作家、ナオミ・クラインは、他人の不幸を利益チャンスに変える惨事便乗型資本主義の本質を『ショック・ドクトリン』(上下)で活写した(岩波書店、2011年)。一方、米国の作家、レベッカ・ソルニットは『災害ユートピア』(亜紀書房、2010年)において、85年メキシコ地震の経験にも触れながら、災害時に無償の救助行為に駆け付ける人びとによって形成される「特別な共同体」に注目している。

 起こってしまった悲劇から復興しようとする動きのひとつが、ひとがもつ〈類的共同性〉に根差していることに目を凝らしたい。(9月24日)

〔著者プロフィール〕
人文書の企画・編集に携わる傍ら、世界と日本の民族・植民地問題や南北問題に関わる発言をしている。主な著書に『拉致異論』『極私的60年代追憶』『脱・国家状況論』など。
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