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LNJ Logo 太田昌国のコラム「サザンクロス」 : 21世紀初頭の9月に起こったふたつの出来事
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 ●第3回 2017年8月25日(毎月10日・25日)  

 21世紀初頭の9月に起こったふたつの出来事

 思い起こしてみれば、新しい世紀=21世紀の冒頭で、いずれも9月に起こったふたつの出来事が、今日にまで至るその後の世界の在り方を規定した。まず、2001年9月11日には、米国の経済と軍事の中枢の建物に、民間機をハイジャックした若者たちが自爆攻撃を行なった。他国の領土では絶えず戦争を仕掛けてはきたが、自国本土が戦場になった経験をもたない米国は、3000人以上の犠牲者を生んだこの攻撃を「戦争」と捉えた。攻撃主体はどこかの国の軍隊(国軍)でもなかったが、彼らを匿ってきたのはアフガニスタンだと決めつけて、この小国に「反テロ戦争」なる新しい形の戦争を仕掛けた。

 戦争とは「国家テロ」の発動にほかならないと私は考えている。「戦争」を「テロリズム」の範疇に入れるこの考え方は、無念にも、世の中の常識とはなっていない。かくして世間では、無人機爆撃も含めていったい何十万人の人びとを殺したのかもわからない「反テロ戦争」と、いわゆるテロリストが行なう「卑劣な殺戮行為」の間に万里の長城を築き、前者を意識的にか無意識的にか肯定し、後者は口を極めて非難する言動がまかり通ることになる。だが、バルセロナにおける今回の恐るべき出来事は、16年前に米国が始めた「反テロ戦争」の延長上に〈不可避的に〉現われたことでしかない。つまり、両者には「因果の関係」があるのだ、と私は思う。

 現在の悲劇的な現実は、「テロ」と「戦争」の絶えざる応酬によって生まれている。「戦争」によって「テロ」をなくすという夢物語は破綻を来して久しいのに、米国政府は去る8月21日、アフガニスタン駐留軍の増派を決定した。戦争に次ぐ戦争が刻み込まれている米国史にあっても、16年間も続けた戦争はない。「反テロ戦争」はこのままでは、来る10月には17年目に入ることになる。アラブ世界を軸にしつつも世界じゅうを、これほどまでの戦火と混乱の中に叩き込みながら。「反テロ戦争」なるものの欺瞞性に気づき、戦争とテロの双方を廃絶するという強固な決意に基づいた思想と行動が世界各地に生まれ、力強く成長しない限り、現在の悲劇に終わりの時は来ないのだ。

 もうひとつの出来事は、翌年2002年の9月17日に行なわれた日朝首脳会談である。会談後発表された平壌宣言は、「双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認」し、朝鮮国は「この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した」とした。日朝国交正常化が成り、日本の対朝鮮経済協力が実現するなら、その先には同時に、朝鮮国が核・ミサイル開発を断念する未来が見えていたのである。

 それから15年後の現在の状況はどうか。不思議なことに、この日本では、瀬戸際の緊張感を利用して防空頭巾でミサイルから身を守りバケツリレーで飲料水を確保する戯画的な避難訓練をやらせる政治が横行している。朝鮮政府の態度にも問題はあるが、「外敵」を前に人びとの不安を煽るばかりである。そして米朝関係は、まさにこの核・ミサイル問題をめぐって、ふたりの独裁的な政治指導者が発する挑発的な言辞によって、緊張している。世界各地から、この危機的な東アジア情勢を危ぶむ声が上がっている。「朝鮮危機」はそれほどの「世界性」を帯びてしまった。

 このような事態を招いた主要な原因は、平壌宣言を貫く国交正常化と核問題解決の精神を骨抜きにし、拉致問題だけの優先解決を謳う安倍晋三路線にある。拉致という国家犯罪がいかに許されざることであるとしても、外交交渉における物事の軽重を計る知恵すら持ち合わせていない政治家が長く君臨し続けることの不幸に、(繰り返し言うが、これは世界全体を巻き込んでいる危機なのだ)私たちは気づくべき秋だろう。

〔著者プロフィール〕
人文書の企画・編集に携わる傍ら、世界と日本の民族・植民地問題や南北問題に関わる発言をしている。主な著書に『拉致異論』『極私的60年代追憶』『脱・国家状況論』など。
・ブログ http://www.jca.apc.org/gendai_blog/wordpress/
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