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第1〜第4木曜掲載・第16回(2017/8/3)

「日本死ね!」その後

●『保育園を呼ぶ声が聞こえる』(猪熊弘子・國分功一郎・ブレイディみかこ 太田出版 1500円)/評者=大西赤人

  2016年2月、「何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ」と始まる『保育園落ちた日本死ね!!!』と題された匿名ブログが大きな話題となった。切実な状況に置かれた当事者ゆえの過激な書きぶりは、お決まりの犧戸祗甅猗親瓩覆匹箸い揶揄・中傷を浴びつつも、大きな共感を呼び起こした。保育園の絶対的不足、都会を中心とする多くの待機児童のありようが国会でも論議となり、国や各自治体がそれぞれに対策を打ち出しはしたものの、一年以上が過ぎた今日(こんにち)、事態の抜本的な解決は未だ遠い。本書には、保育問題の取材を続けている猪熊(ジャーナリスト)、自身の娘を保育園に預けた経験を持つ國分(哲学者)、保育に実際に携わる英国在住のブレイディ(保育士、ライター)三名による対談及び鼎談が収められている。

 当たり前の話ながら、保育の問題は、それだけが独立に存在しているわけではない。男女の関係、親子の関係、家族観、地域性、労働環境・条件等々が様々に絡まり合っている。日本の高齢化、少子化が国家的な危機として煽られる――かねてより大西は、そもそも人口の減少がなぜ大問題であるのかいまひとつ理解し得ないのだが――中、出産・子育てを支える体制が不十分ならば、個々人の対応では限界があることは判りきっている。即ち、人にとって、働くことと育てることとが、両立し得ない対立項となってしまう。

 「人口を増やしたければ、子育ての環境を整えればいい。子をもつ世代が子育てしながら働きやすい社会をつくればいい。その社会をつくるにあたって重要なのが保育園でしょう。結論はいつも同じです。なんでこんなことがわからないのか」(國分)

 もちろん、国も全くの無策ではないものの、現時点におけるその根本は、小泉純一郎政権以来の犁制緩和瓩任△襦B臉昭身、1980年代半ばの都内で、娘を0歳時から共同保育所、公立保育園に預けた。当時は、「認可(保育所)」と「無認可(保育室)」との二種類だけだったろうか。その枠内で、「認可」を希望しながらも「無認可」を頼らざるを得ない保護者は多かったと思う。

 しかし、今の保育園の分類は一層複雑怪奇だ。まず、国の最低基準をクリアした「認可保育園(所)」、その他の(クリアしていない)「認可外保育園(所)」とに分かれる(国の基準は、待機児童問題の解消を大義として、設備的にも人員的にも緩められている。これをして国は「弾力化」と称する)。後者の中には、東京都はじめ自治体独自の基準を満たした「認証保育園(所)」がある。また、2015年から設けられた市区町村の認可による「小規模保育所」はA型、B型、C型に分かれ、職員に占める保育士資格者の割合は、A型は(「認可」同様)100%、B型は2分の1以上、そしてC型はゼロでも構わないという。

 本書の帯に「子どもには適切な保育を受ける権利がある」と記されている通り、三人は保育を狄討働くための条件瓩箸靴討任呂覆、犹匐,里△襪戮権利瓩箸靴動銘屬鼎韻襦ブレイディが語るイギリスの保育状況は日本よりも格段に充実していると感じられるが、同時に「保育士の給料が安いのは、イギリスもまったく同じです」「イギリスが階級社会であることが、保育園にもあらわれています」との述懐があるように、総てが模範的なわけではない。逆に、日本にも「【保育料に関しては】きわめて平等なシステムです」(猪熊)、「戦後日本にあった社会主義的な考えや強い平等思考がよくあらわれた制度だったと思います」(國分)と評価すべき部分も見られる。

 「待機児童の問題にしても、労働の問題にしても、経済界からは何のプレゼンテーションもありません。下々の労働者に働かせるだけ働かせておいて、待機児童の問題については何も言わないんですよね」(猪熊)

 「イギリスの感覚からすると、労働問題にしても企業や政治家に任せていたら、何も変わりません。下からの突き上げがないと、なんにもしないんですよ」(ブレイディ)

 「もう一度あの【マルクスが描いた】一九世紀を思い起こして、人類が勝ち取った権利はなんだったのか、思い出さなきゃいけない」(國分)

 即ち保育とは、人の持つ権利総てに通じるものなのである。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日(第1〜第4)に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美です。


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